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転調

挿絵(By みてみん)


 音が聞こえない。

 視界がどんどん遠ざかる。痛みも、鼓動も、まるで薄紙みたいに剥がれていく。


(なんてこった。俺は画鋲かよ!!)


 十字要塞の残骸に釘のように顔面から突き刺さり、ストレンジネスは微動だにできなかった。

 ギターは折れ、弦は切れ、右腕には痺れが残る。そして、心の奥にあるべき音が―聞こえない。


(やりやがるな、三人衆…まさかここまで“鳴らす”とはな…)


 いつもなら笑い飛ばすところだった。だが、今は意識が途切れそうなほどに、身体が重い。


(あのクソ親父が…!)


 苦しさの中で、ストレンジネスは歯ぎしりした。


(アダマンタイト製?嘘っぱちじゃねぇか!

 ケッ、異世界でも宇宙でも、楽器屋の親父の商売根性は変わらねぇな!)


 最硬金属を謳いながら、安物の混合素材。

 強化コーティングも雑で、魔力循環も狂いっぱなしのマガイモノ。


 徐々にストレンジネスの意識は、暗く…暗く…暗く…


 ぼんやりとした視界に、宇宙空間の色彩が重なる。

 黒い星雲、白い閃光、散っていく破片。そして、ひとりの男。


「おやおや、ストレンジネス。こんなところで倒れるなんて―

 あなたらしくないですねぇ?」


 その声が、暗闇の中に響いた。


「…あ?」


 声の主を確かめようとした瞬間、朦朧とした意識の奥で、スーツ姿にマントをした7:3分けの男の姿が浮かび上がる。


 ―あいつだ。

 ―あのくそったれだ。


 宇宙時代、ストレンジネスが唯一勝ちとも負けとも言えないまま終わった男【徳山サーズデイ】。


 ガイツでもない。ワンブリッジでもない。

 ただ一人、こいつだけだ。ストレンジネスにとって、もっとも心を燃やす相手。


 その声を聞いた瞬間、意識は迷わず跳ね上がった。


 ――まだ終われるわけがねぇ。


***


「トゥーレイトじゃないですか、ストレンジネス。

 宇宙でサウンドするのは、あなた一人ではないですよ?」


「ハッ、徳山野郎!

 まさか、テメェが来たとはな!おちおち昼寝もできやしねぇ!」


「フッフ、相変わらずですねぇ、ストレンジネス。

 ここまでわざわざお越しいただき恐縮ですが、わたしの手でヘブンに送って差し上げましょう」


「ハッ、おもしれぇ、やってみなッ!

 テメェらペルフェクティオ・ネットワークがトンカチならよぉ……こちとら画鋲よ!

 簡単に打ち込まれちまうかもしれねぇが、角度によっちゃあ分からねぇ!食い込むぜ!?」


「やれやれ、何を言っているのかさっぱりアンダースタンドできませんねぇ。

 私がハンマーというのなら、あなたのその減らず口ごと、デストロイしてあげましょう」


「上等ッ!」


【 自 由 奔 放 VS 精 密 無 慈 悲 】


 ストレンジネスは全身で殴りかかる。

 徳山は、それをすべて受け流す。


 ストレンジネスは五体すべてを全力で振りかざし、徳山に迫る。

 一方の徳山は余裕の笑みを浮かべ、それをすべていなす。

 それぞれの全存在を賭けたぶつかり合いは、互いの間に無数の、否、もはや億、兆、京、垓を超え、阿僧祇(あそうぎ)の彼方へと火花を散らす。


「フッフッフ、ストレンジネス。あなたのその野蛮で予測不能な攻撃。

 我らの支配には目障りでしかありません。さあ、そろそろ終電です。ヘブンへ送りましょう」


「ハッ、知ってるか!?終電は明日になったらまた走るんだよ!」


 火花は那由他(なゆた)の彼方へ――


『  ンッ!  ャッ! ズ  ン ! チャッ!』

『ズン ンッ! チャッ!  ンズンッ!  ャッ!』


 心臓が、刻む。


『ズンズンッ! チャッ! ズンズンッ! チャッ!』


(好き放題やりやがるぜ、徳山野郎――いいぜ)


(これが俺の音だ)


(高藤ストレンジネスを、見せてやる)


挿絵(By みてみん)


***


 聖王国南部・十字要塞跡。


 バルムドは、剣を鞘に納められずにいた。


 ――違う。


 こんな終わり方のはずがない。


 あの威圧感。あの狂気。あの8ビート。

 あれが、この程度で消えるはずがない。


 わかっていた。

 最初から、どこかで気づいていた。


 ――なのに、都合よく“終わったこと”にした。


 楽な方に、逃げた。


(……クソが)


 胸の奥に、鈍い後悔が刺さる。


 だが――もういい。


 目を逸らすのは、ここまでだ。

 はっきりしていることがある。

 あの男は、ここで終わる存在じゃない。


 ここからだ。

 ――高藤ストレンジネスは、ここからだ!


『ズンズンッ!チャッ!ズンズンッ!チャッ!』


 突如、砕け散る鉄塔。


 砂煙の中――


 そこに、いた。


 確かに、立っていた。


 高 藤 ス ト レ ン ジ ネ ス だ !

【次の話】

第25話「終奏」

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