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2月(2)幼なじみはもしや天才?


【Episode:トウワ】


 

 時を同じく、合格発表の日。


 喜多川魔法学園へと続く長い石段には、叩きつけるような寒風が吹き荒れていた。


「……だから、ボタン一つで合否なんて確認できるのに。なぜわざわざ、このブリザードの中を行く必要があるの?」


 僕は厚手のコートに顔を埋め、隣を歩くマナブにジト目を向けた。

工学科を志望する僕にとって、この非効率な移動は理解しがたい苦行でしかない。


「いいじゃん、一緒に行こうよ! 落ちてたら慰めてあげるし、受かってたら一緒に喜べるだろ?」


「なぜ僕が落ちる前提なんですか。……というか、寒いの苦手だって言ってるでしょ」


「まぁまぁまぁまぁ……」


 マナブは口先だけでなだめながら、全く反省している様子はない。

今朝だってそうだ。

家に押しかけてきた強引なマナブに引きずられるようにして、僕は家を出る羽目になったのだから。


 石段を吹き抜ける風に、身体が芯から凍えそうだ。


 それを見たマナブは、当たり前のような顔をして僕の手を握ると、そのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。


「ほら、僕の手、熱いだろ? 繋いでてやるから」


 片手でロープを掴み、もう片方で僕の手を掴む。器用なことだ。


 ポケットの中の熱に少しだけ救われながら、黙々と階段を歩いていると、自然と一ヶ月前の試験会場での出来事が脳裏に蘇る。


 試験中、僕の消しゴムを隠した受験生。

彼は同じ中学校の生徒だった。


 後から判明したことだが、彼は僕に対して「ストーカー」じみた執着を持っていたらしい。

僕に固執するあまり、自分の偏差値では到底届かないこの学園に、僕が入学することを恐れたのだという。


 自分と同じ場所にいてほしい。

だから、僕の受験を失敗させようとした……。

そんな歪んだ感情を思い出して、つい顔が曇る。


「そういえばさ、トウワの消しゴム隠したアイツ……合格したのかな?」


 不意に話しかけられ、思わずマナブを見上げた。

こいつは昔から、人の考えていることを見透かしたように話題を振ってくる。

僕は内心の動揺を隠し、冷静さを装って答えた。


「あぁ、あの泥棒くん? ……いいえ。不正行為とみなされて、受験資格取り消しになったって学校側から連絡があったよ」


 実はマナブ、入試当日は高熱を出してしまい、別室受験を余儀なくされていた。

そのため、僕の身に起きたあの「消しゴム隠し事件」を、彼はリアルタイムでは知らない。


「そっか……。ごめんな、トウワ。

俺がその場にいたら、絶対にトウワの側から離れないから、そんな犯行は起きなかったのに」


 マナブが本気で悔しそうに眉を寄せる。

僕は気恥ずかしさから、視線を逸らした。


「……鬱陶しい」


「ひどーい! 心配してたのに!」


「でも……」


 僕は、白く煙る吐息の向こう側に、あの日の試験会場を思い出す。


 マナブがいなかったからこそ出会えた二人。

見ず知らずの自分を助けるために、迷わず自分の消しゴムを真っ二つに割って差し出した、あの小柄な少年の男気。

そして、試験官の冷淡な視線にも屈せず、正義感を持って事態を収束させた、あの凛とした少年の背中。


(あの二人は、合格したのだろうか……)


 掲示板の前に辿り着き、僕は自分の番号をすぐに見つけた。


「……よし。あった」


「トウワ、おめでとう! さすがだな! ……あ、俺のは……えーっと……」


 マナブが焦ったように掲示板の端から端まで視線を走らせる。


「……マナブ、右端。下段の方ですよ」


 僕が指差した先。そこには、確かにマナブの受験番号が刻まれていた。


「あった! あったぞトウワ! 僕も合格だ!」


「……マナブ。君、もしかして熱がある時の方が頭の回転が良いんじゃないですか?」


「あはは、そうかも! 火事場の馬鹿力ってやつかな!」


 屈託なく笑うマナブを見て、僕はふっと表情を和らげた。


 掲示板を確認した後、二人で入学手続きのため、臨時の受付所へと向かった。


 分厚い封筒を受け取っていると、一人の年配の女性がマナブに声をかけてきた。

名札を見ると、学園の医務室に勤める回復魔法師のようだ。


「……あなた。試験の時の。合格おめでとう! あの時は大変だったわね」


「えっ、あ、はい。お世話になりました!」


 女性は感心したように、僕の方を振り返った。


「この子、あの高熱の中でね、たった一人で保健室のベッドに座って試験を受けたのよ。意識も朦朧としていたはずなのに、魔力暴走一つ起こさなかった。それどころか、実技試験の的も、ど真ん中に当てたんですから。根性があるわねぇ」


 その言葉を聞いた僕は、信じられないものを見るような目でマナブを凝視した。


「……マナブ。君、本当に熱がある時の方がマトモになるんじゃないですか? 普段よりずっと成績がいいなんて」


「あはは、ひどーい! 僕、普段から一生懸命やってるよ!」


「いや……統計的に見て、熱がある方が頭の回転も魔力操作も安定するなら、これからは試験のたびに風邪を引かせた方が良さそうですね」


「トウワ、怖いこと言わないでよ〜!」


 屈託なく笑うマナブを見て、僕は思わず口角を緩めた。


 このお人好しの幼馴染と、そしてまだ見ぬあの二人の「恩人」。


 もし、彼らとこの学園で再会できるのなら。


(……この学園生活は、想像以上に面白くなりそうだ)


 

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