↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

10月(スピンオフ)いばら姫


【剣舞タクト】

 


 その日、中学三年生の剣舞タクトは、鮮やかな色彩で彩られた喜多川魔法学園の正門を、欠伸を噛み殺しながらくぐった。

 友人の佐藤に「喜多川の文化祭には、可愛い女子も沢山来るらしいぞ」と唆され、暇つぶし半分でやってきたのだ。

 偏差値も、魔力量も。自分には一生縁のない、選ばれた人間たちが通う学校。

タクトにとって、そこはキラキラした「別世界」に過ぎなかった。


「おい、アリーナで『女装コンテスト』だってよ。見に行こうぜ」


 佐藤に腕を引かれ、大きなアリーナの、薄暗い観客席へと足を踏み入れる。 

――その時、タクトはまだ知らなかった。

自分の人生というレールが、これから音を立てて分岐していくことを。

 

 ステージには魔法による演出で壇上を覆い尽くす、禍々しい茨の壁。

だがスポットライトが一点を射抜き、


「……ッ」


 タクトの呼吸が止まった。

そこに立っていたのは、美しい女性。

 プラチナブロンドの髪をなびかせ、凛とした佇まいで立つその姿は、

大女優・五月女レイカの再来か、あるいはそれを凌駕する「美の権化」だった。

タクトの母が前に、懐かしそうに見せてくれた昔のドラマのヒロイン。

それよりもずっと凛として鋭く、ずっと誇り高い。

 彼女――いや、プログラムには「特進科1年・ジュリ」とあるその少年が、

優雅にカーテシーを決めた瞬間。

タクトの胸の奥で、何かが爆発した。

――それは恋と呼ぶにはあまりに衝撃的で、崇拝に近いものだった。

 

 クライマックス。

最後に出てきた美少女(ソウシ)が突如として客席に向けて

「行くぜ! 野郎どもー!!」

と、確かに男の声で煽ると

 アリーナ中がから地鳴りのような、手拍子足拍子に包まれた。

『QUEEN』の有名な曲。

パンフには『体育科1年・ソウシ』とある彼が歌い。

他の4人はノリノリでエアバンドをしていた。

ジュリは不敵に微笑み、観客を「支配」していく。

 

 タクトは、気づけば拳を握りしめ、腕を掲げていた。

ステージ上の彼らは、可愛いとか綺麗なだけではない。

中学生のタクトには、とてつもなく「男前」で最高にクールに見えたのだ。



――――――――


 

「おいタクト、出ようぜ。電車の時間もあるし、そろそろ帰ろう。」


 佐藤に肩を揺さぶられ、我に返ったタクトはまだ夢心地だった。


「……俺、ここに入りたい」

 

「はぁ? 何言ってんだよ、お前の成績じゃ喜多川なんて逆立ちしても無理だろ。総合模試だって俺と同じ位だったじゃねーか」

 

佐藤の呆れた声も、もはや遠い。

脳内にはジュリの姿が焼き付いて離れない。

 精神系の魔法に掛かったかのように、

タクトは翌日、夢見心地で進路指導室に直行し、「喜多川に行きたいです。」と切り出した。


 進路指導担当である担任は、手に持ったペンを落とし。


「タクト、冗談はやめなさい。喜多川は筆記試験も魔法実技も全国トップクラス。今の君の偏差値では、無謀という言葉すら生ぬるい『幻想』だ」


「幻想でいいです。……俺、あの場所に行きたいんです」

 

「そうか、まぁ……頑張りなさい」

 

 担任としては、受験学年だというのに遊び呆けているタクトが、僅かでもやる気を出したのであればそれも良いか……と、そう思っての言葉だったが、そこから、タクトの生活は一変した。


 昨日まで夢中だったゲームは、初期化してクローゼットの奥へ封印した。

放課後のゲーセン通いも、佐藤からの遊びの誘いも全て断った。


 「あいつ、喜多川の文化祭で精神系魔法に掛かったらしいぜ」


と揶揄される声が聞こえても、タクトの心は一ミリも揺らがなかった。

 

 勉強机の角には、文化祭で買ったパンフレットが置かれている。

 そこにはドレス姿ではなく制服を着て、出場した五人で並んで笑うジュリの写真も載っていた。

 

「待っててください、ジュリ先輩。俺、絶対に行きますから」

 

 深夜まで、頭が知識でいっぱいになるまで参考書と格闘する。

眠くて頭がぼんやりすれば、冷水を顔に浴びた。

 魔法実技の基礎を固めるため、早朝の公園で一人、魔力循環のトレーニングを繰り返す。

 指先から魔力を糸のように紡ぎ出すだけの単純訓練だが、確実に出力は上がっていた。

 冬の寒空の下、感覚のなくなった指先に何度も息を吹きかけ、血が滲むまで繰り返した。

 あの日見た、ジュリの意志の強そうな瞳。

(先輩も喜多川に入る為に勉強したのだろうか?)と考えるだけで、タクトの体からはやる気の熱が溢れ出した。


 冬休み前。模試の結果は少し上がり喜多川は「C判定」になった。

 塾の講師からは「志望校を変えても、今ならそこそこ良い所に入れるぞ。」と告げられたが、希望校を変える気はなかった。

 タクトは、最後の最後まで手を抜かず努力を続けた……


そして―――

 

 満開の桜から溢れた花びらが、喜多川魔法学園の長い階段を薄紅色に染める頃。

 タクトの努力が花開き、

今日の入学式を、無事に迎える事が出来た。


 喜多川に合格した時。報告に行った中学で、担任だけでなく校長や教頭まで出てきて、万歳三唱をされた事は胸の熱くなる思い出だ。

 ちなみにタクトの中学から喜多川に合格できたのは、自分一人だけだった。


 彼が喜多川の門をくぐり、憧れの人「ジュリ」の後輩として、新たな波を起こすのは 

……また、別の話で。

 

読んで下さってありがとうございます(^-^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。