↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

9月(3)コンプレックス

短いです

今日はこの後もう一話続きます。


【Episode:ジュリ】


 文化祭まで、あと5日。


 放課後の第二会議室には、メールで呼び出された第07班の面々と、殺気立った文化祭実行委員たちがひしめき合っていた。


 今日は衣装合わせと、一般投票用の「前撮り」が行われる日だ。


「……はぁ」


 パイプ椅子に腰掛けた僕は、鏡の中に映る自分の顔を冷ややかに見つめていた。


 女装コンテストの出場など毛頭納得してはいない。

 けれど選ばれてしまった以上、これは果たすべき「責任」だ。

 無機質に、速やかに終わらせることだけを願っていた。


(……この顔が、嫌いだ)


 僕の母親は、誰もが知る国民的女優『梅宮カオル』。


世間には「独身」と嘘を通し、僕の世話は祖母に丸投げ。

 一緒に暮らしたことも、まともな愛情を注がれた記憶すらない。

 母のことが大嫌いだった。

 そして鏡を見るたび突きつけられる、あの女の影を色濃く宿した己の顔も、心底嫌悪していた。


「はい、オーロラ姫、メイク入りますねー!」


 実行委員のメイク担当が、僕の顔へ容赦なく筆を滑らせる。


 丹念に肌を整えられ、目元へ鮮烈な色彩が重ねられ、プラチナブロンドの豪奢なウィッグが頭部を飾った、その時だった。


「……あれ? ジュリ、誰かに似てない?」


 ひとりの実行委員が眉をひそめ、不意に呟いた。


 メイク担当の手がぴたりと止まる。


「女優さんでさ……ほら、凄く綺麗な……」


 その一言に、心臓が早鐘を打ち鳴らし始める。


 母の芸名『梅宮カオル』が露呈するのだろうか。

 もしここで追及されたら、親戚だと偽って誤魔化さなければ……。


「あ、分かった! 名前何だっけ……!──」


 逃げ出したい衝動を必死に押し殺し、僕は膝の上で固く拳を握りしめた。


「……早乙女レイカ!」


「それだ!!」


 会議室の静寂を切り裂いたその名前に、僕は思わず目を見開いた。


 早乙女(さおとめ)レイカ。


 それは母の名前ではない。

 若かりし頃から母のライバルとして比較され続け、あの異常にプライドの高い母が、唯一公の場で激しい対抗心を剥き出しにする大女優の名だった。


(……母さんが一番嫌がりそうな、あの人……?)


 恐る恐る、鏡の中の自分を見つめ直す。


 母親そっくりのはずだった僕の目元は、繊細なメイクの手ほどきによって、早乙女レイカ特有の「凛とした芯の強さ」へと完全に昇華されていた。


 どこかあざとく見える母とは対極にある、誰にも媚びない気高さ。

 僕は以前から、彼女には密かな好感を抱いていたのだ。


「……はは……悪くないね」


 胸の底から湧き上がる感情に、思わず漏れた静かな呟き。


「「「「「…………!!」」」」」


 次の瞬間、会議室の空気が一瞬で凍りついた。


「……その線で行こう! メイク、もっと早乙女レイカの方に寄せてくれ! 完璧な『女王様』にするんだ!」


 文化祭実行委員長の興奮した怒号が飛ぶ。

 メイク担当の手が再び動き出し、僕の顔へ、さらに深く母の「宿敵」の影を刻み込んでいく。


 生まれて初めて、僕は自分の顔を愛おしいと思えた。


 あの女が人生で最も見たくないであろう顔で、僕は舞台に立ってやる。


 胸の奥で長年燻っていた暗い炎が、ふっと綺麗に消え去った瞬間だった。


 ――その後。


 僕がつい口を滑らせて漏らしてしまった、


『悪くないね』の一言。


「ジュリは、熟女が好きらしい」


その後学園中に、僕の熟女好きの噂が広がった。


ずっと書きたかったジュリの周辺


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。