9月(3)コンプレックス
短いです
今日はこの後もう一話続きます。
【Episode:ジュリ】
文化祭まで、あと5日。
放課後の第二会議室には、メールで呼び出された第07班の面々と、殺気立った文化祭実行委員たちがひしめき合っていた。
今日は衣装合わせと、一般投票用の「前撮り」が行われる日だ。
「……はぁ」
パイプ椅子に腰掛けた僕は、鏡の中に映る自分の顔を冷ややかに見つめていた。
女装コンテストの出場など毛頭納得してはいない。
けれど選ばれてしまった以上、これは果たすべき「責任」だ。
無機質に、速やかに終わらせることだけを願っていた。
(……この顔が、嫌いだ)
僕の母親は、誰もが知る国民的女優『梅宮カオル』。
世間には「独身」と嘘を通し、僕の世話は祖母に丸投げ。
一緒に暮らしたことも、まともな愛情を注がれた記憶すらない。
母のことが大嫌いだった。
そして鏡を見るたび突きつけられる、あの女の影を色濃く宿した己の顔も、心底嫌悪していた。
「はい、オーロラ姫、メイク入りますねー!」
実行委員のメイク担当が、僕の顔へ容赦なく筆を滑らせる。
丹念に肌を整えられ、目元へ鮮烈な色彩が重ねられ、プラチナブロンドの豪奢なウィッグが頭部を飾った、その時だった。
「……あれ? ジュリ、誰かに似てない?」
ひとりの実行委員が眉をひそめ、不意に呟いた。
メイク担当の手がぴたりと止まる。
「女優さんでさ……ほら、凄く綺麗な……」
その一言に、心臓が早鐘を打ち鳴らし始める。
母の芸名『梅宮カオル』が露呈するのだろうか。
もしここで追及されたら、親戚だと偽って誤魔化さなければ……。
「あ、分かった! 名前何だっけ……!──」
逃げ出したい衝動を必死に押し殺し、僕は膝の上で固く拳を握りしめた。
「……早乙女レイカ!」
「それだ!!」
会議室の静寂を切り裂いたその名前に、僕は思わず目を見開いた。
早乙女レイカ。
それは母の名前ではない。
若かりし頃から母のライバルとして比較され続け、あの異常にプライドの高い母が、唯一公の場で激しい対抗心を剥き出しにする大女優の名だった。
(……母さんが一番嫌がりそうな、あの人……?)
恐る恐る、鏡の中の自分を見つめ直す。
母親そっくりのはずだった僕の目元は、繊細なメイクの手ほどきによって、早乙女レイカ特有の「凛とした芯の強さ」へと完全に昇華されていた。
どこかあざとく見える母とは対極にある、誰にも媚びない気高さ。
僕は以前から、彼女には密かな好感を抱いていたのだ。
「……はは……悪くないね」
胸の底から湧き上がる感情に、思わず漏れた静かな呟き。
「「「「「…………!!」」」」」
次の瞬間、会議室の空気が一瞬で凍りついた。
「……その線で行こう! メイク、もっと早乙女レイカの方に寄せてくれ! 完璧な『女王様』にするんだ!」
文化祭実行委員長の興奮した怒号が飛ぶ。
メイク担当の手が再び動き出し、僕の顔へ、さらに深く母の「宿敵」の影を刻み込んでいく。
生まれて初めて、僕は自分の顔を愛おしいと思えた。
あの女が人生で最も見たくないであろう顔で、僕は舞台に立ってやる。
胸の奥で長年燻っていた暗い炎が、ふっと綺麗に消え去った瞬間だった。
――その後。
僕がつい口を滑らせて漏らしてしまった、
『悪くないね』の一言。
「ジュリは、熟女が好きらしい」
その後学園中に、僕の熟女好きの噂が広がった。
ずっと書きたかったジュリの周辺




