1-9:急においしすぎるネタ来て怖い
モルたんに城まで送り届けてもらい、セブの自室に辿り着いた私は早速ピッピに掴みかかった。ちなみに変化は今解けた。
「モルたんにナチュリア行くことチクりやがったな……!」
「待てよ俺っちがあいつに言うわけねーだろ!? つーかオメー言わずに行ったのかよ!?」
「パッと行ってサッと帰るつもりだったから……!」
だってモルたんに余計な心配かけたくなかったし。ただでさえ原作にない行動だし、大袈裟にしたくなかったんだもん。
するとピッピが急に声だけでも十分伝わるほどの呆れ溜息を吐いた。
「あいつにはオメーのいるとこ全部筒抜けだろーが」
……はい?
「それって、どういう……?」
「セブリオンはあいつと魂の契り結んでるだろ。ってことは、互いの魂の在り処が手に取るようにわかるってことだ」
はーなるほどね? ふーん、そういう、ね、うん、そう。
「そういうことはもっと早く言ってほしかったな!?」
何そのおいしすぎるネタ!? 実質GPSじゃん!? マテリア王国の技術力に乾杯(?)!
本当こういうとこ公式全然言ってくれないよね!? ぶっちゃけオタクの間ではまああの二人はきっとそうだろうって共通認識でしたよ。でもまさか本当にそうだったとは。
セブモル界隈のみんなに今すぐ伝えたい。集団幻覚じゃなかったよ! セブモルは! 互いの居場所がわかります! いつでも!
「あ、そうだ、ピッピに聞きたいことがあるんだけど」
「何だよ」
セブモルのおいしいネタに流されて肝心なことを聞き忘れそうになった私は、気を取り直してピッピに問いかけてみた。
「モルたんがさ、原作では知らないはずの情報を知ってたんだよね」
「へー、どんな?」
「暁光の巫女がマテリアに来たでしょ? あれってナチュリアの第三王子の魔法陣を使ってて、場所は王子と巫女しか知らないはずなんだけど……知ってたんだよね、モルたん」
結局モル本人には聞けてないんだけど、本当なんで知ってたんだろう。
急に不安になってきた私とは対照的に、ピッピは呑気な声で返事をする。
「ユキがナチュリア行ったときにバレたんじゃね?」
「ううん、私はピッピが教えてくれた転移装置で飛んだから」
そう。私は城内の装置を使った。だから城の外にある魔法陣がバレることはないはず。
「あ、そっか。……怪しいな」
「でしょ? 知ってるわけないんだよね……」
「っつーことは……あいつがナチュリアの王子と繋がってるかもってことだな?」
「話が早くて助かる」
いやあり得ないよ? あのモルたんがセブを裏切るなんてこと、万が一にもあり得ませんよ? だけど、確実に原作とは違う何かが起きてる。それだけは私でもわかる。
「あいつのことは俺っちの千里眼に任せな。ユキはとにかくセブリオンの魂と話せるようになんねーとまずいんだろ?」
頼もしいタヌキモモンガだ。ここはありがたく甘えて、私はセブの魂と対話できる方法を調べよう。再来月、暁光の巫女による三度目の訪問イベントが起きる前に。
一国の王があまり城を空けるわけにもいかない。モルのことは気がかりだけど、今日はもう大人しくしておこう。
***
「降霊術、ですか?」
ナチュリアで巫女に正体バレしてから早数日。執務室で書類とにらめっこしていた私はそれとなく、本当にそれとなーく、降霊術についてモルに尋ねていた。
主のために淹れたての紅茶をカップに注ぎながら、きょとんとした表情で小首をかしげるモルたん、天使。銀白色の髪が揺れて、内側の薄紫色に染まった部分がチラッと見えるのがたまりませんな~!
……なんでこんなことをモルに尋ねているかっていうと、セブの魂と対話する方法の手がかりが全っっっ然掴めなかったからです。
一応ね? 私も城内の蔵書室ぐらいは覗いてみましたよ?
この世界の文字は現代日本とちょっと違ってて、まあ私はオタクだから普通に読めるんだけど、「文字が読める」と「文章が理解できる」の間には結構大きな溝があるんだなって……気づきました……。
例えるなら、全部カタカナだけでびっしり書かれた文章を正確に読んで理解できますかって話。ちょっとしたレポートぐらいなら頑張れても、小難しい本を丸々一冊とかはさすがに無理。
というわけで、最強の魔王がこんなこと従者に聞くのもどうかとは思うけど、恥を忍んでモルたんに降霊術について聞いてみたってわけ。
「挨拶しなきゃなんねぇ精霊がいてな。軽く話ができると助かるんだが、心当たりあるか?」
ちょっと無理があるよね~!? 挨拶しなきゃなんない精霊って何!?
ゔー、やりにくい。やっぱりモルたんにもう一回ちゃんと正体バラした方がいいと思うんだよなぁ。第三王子と繋がってるかもってとこは気になるけどさ。
こういうの、本当は魔王軍で一番偉い魔術師キャラとかに聞けたらよかったんだけど、残念ながらマテリアにそんなキャラは存在しない。
理由は一つ。この国でトップクラスに偉い人たちはみんな、セブの魔力で意思を持たない傀儡にされちゃってるから。
もちろんこれはセブなりの復讐だし、セブがされてきたことを思えば仕方ないとは思う。でもそのせいで私は今、非常に困っているわけです……!
「……」
モルたんはティーポットを置いて少し考えるみたいなそぶりを見せた後、
「心当たりがございます、陛下。少々お時間いただきたく」
そう言って一礼すると執務室から出て行った。だいぶ無茶な言い訳だったけど、とりあえず信じてもらえたっぽい。
紅茶をいただきつつ書類とにらめっこしながら待つこと数分。モルたんが一冊の本を携えて戻ってきた。
「陛下、こちらを」
モルたんが本を開いて見せてくれる。見ると、そこにはある降霊術のやり方を示した図が載っていた。
――いかにもどこかで見たことありそうな、五十音の並んだ紙。ペンを持った手。自動筆記。なるほどね。これ、現代日本では主に十円玉使ってやるやつだ。
「術者の魔力に応じて高級霊も召喚できると、こちらに」
そう言ってモルたんが指差した辺りには、確かにそんなようなことが書かれていた。
けど今それどころじゃないんだ。二人で一つの本を見ているせいか、あの、その、距離が、近い!!
見て!? モルたんが、今、髪を耳にかけましたね!? はわあ薄紫のとこがよく見え、見え、む、無理~~~~! 尊すぎて無理! 鼻血出そう! ちょっと出た!
「陛下?」
いけない! モルに主の異変を悟らせちゃだめ! 絶対に! 暁光の巫女の「モルを見る目つきがいやらしかったので」の言葉を思い出せ!
「何でもねぇ」
出かかった鼻血を全力ですすり上げ、私は何とか平然を装うことに成功した。たぶん。そう信じたい。
モルもそれ以上追及しては来なかった。私はモルに軽く礼を言って、念のためその本を借り受けると、再び書類とにらめっこをする作業に取り組んだ。
その夜。
執務室からパクってきた手頃な羊皮紙にこの世界の五十音を書き記した私は、ペンを握ってセブに呼びかけた。
「偉大なる魔王セブリオン・マテリアよ、我が右手を通じ汝が意思を示せ」
……動かない。ていうかこれ、合ってるのかな? セブの魂がその辺で飛んでるなら来てくれそうだけど、私の中にいる場合って無理じゃない?
「……偉大なる魔王セブリオン・マテリアよ」
めげずにもう一度呼びかけてみた。動かない。
だんだん恥ずかしくなってきた。だってこれ、セブが自分で自分に呼びかけてるようにしか見えないよね? 自分に偉大なる魔王とか言ってるの、さすがにきついんですけど。
「ピッピ~、一緒にやってお願い~」
「俺っち動けねーから無理ー」
それはそうか。でもこのままだと私の心が折れそう。
「なぁユキ、それ術者の魔力に応じて呼べる霊が変わるんだろ?」
「うん」
「ユキは魔法使えねーんだから、セブリオンレベルのヤベー奴呼ぶの無理じゃね?」
「あっ」
ド正論すぎる。無理だこれ。私の心は今完全に折れました。
これ思ってたよりショックかも。せっかくモルたんが教えてくれたのに。不甲斐ない陛下代理でごめんねモルたん。
「ま、ドンマイ、ユキ。次行こーぜ」
私があまりにもガックリ来てるからか、ピッピが励ましてくれた。ありがとうピッピ。いいタヌキモモンガだな。
一先ず、今日はもう遅いし寝るとしよう。
パクってきた羊皮紙が勿体ないから、新しいのを一枚出して、セブへの伝言を書き込んでおく。
「あなたと はなしたい」
ペンを置き、一つ伸びをしてからベッドに潜り込む。ダメ元だけど、どうか、私が寝ている間にセブが返事を書いてくれていますように。
次回更新は木曜日です!
引き続きよろしくお願いします~!




