3-23:アルティメット供給ビッグバン
「要するに、こいつをぶった斬ればいいわけだな」
魔剣ダモクレスの切先を天に向け、セブが堂々と言い放った。剣を向けた先には止めどなく酸の雨を降らせる黒雲が広がっている。
「お気をつけください、我が君。どうやら一筋縄ではいかないようです」
モルがそう言って黒雲を見る。私もそっちを見ると、黒雲から翼の生えた黒い人影が次々と生み出されていた。
真っ黒な、天使の影みたいなものたち。……こんなの、原作には出てこない。どうなってるの?
影の天使たちは剣や槍、弓矢などそれぞれ固有の武器を構え、私たちに狙いを定めた。
「由紀、下がってろ。モルは由紀を頼む」
「いえ、私も」
痛む右手で剣を握ろうとするモルを、セブが止めた。
「無理すんな。俺に任せとけ」
「ですが……」
食い下がろうとするモルに、セブが余裕の笑みを向ける。
「俺を誰だと思ってる?」
セブの問いかけに、モルは柄にかけていた手をそっと外し、答えた。
「……世界最強の、魔王」
「わかれば良し」
ちょっと待って。今のやり取り、どこかで聞いたことあるような気がする。原作? どこだったっけ?
「んじゃ、やるか」
セブが一段と声を低くした。闇の気配が強まり、魔剣が禍々しいオーラを纏う。
セブは魔天蓋を蹴り、跳んだ。隊列を組み襲い掛かる天使たちを、魔剣の一閃が斬り裂く。
すぐさま振り返り、次いで背後から攻撃を仕掛けようとした者たちも一瞬のうちに薙ぎ払った。
推し、つよ。時折飛んでくる矢はモルの守護の術で完璧に防いでるし、全く隙がない。
だけど、敵も負けてない。倒しても倒しても、どんどん新しい影の天使が生み出されていくばかり。これじゃいつまで経っても黒雲に辿り着けない。
要するにピンチなんだけど、どうしてだろう。私は心のどこかで安心していた。
こんな戦闘、原作にはなかったはずなのに、どういうわけだかさっきからずっと既視感がある。私、この後どうなるか知ってる気がする。
「キリがねぇ。モル、強めのやつ頼めるか?」
「もちろんです、我が君」
モルが守護の術を展開し、周囲に幾重にもバリアを張り巡らせた。
「これでしばらくは耐えられます」
「助かる。今からこいつらをまとめて消し炭にする。そうしたら、一気に本体を叩くぞ」
「仰せのままに、我が君」
セブが詠唱に入った。土の神殿で使った、広範囲高火力の術だ。
間違いない。この流れ、知ってる。さっきの台詞も全部聞いたことある……いや、読んだことある。
だってこのバトル、私がこっちの世界で書いたセブモル二次創作と全く一緒なんだもん……!! なんで!?
この後の展開はこう。セブの詠唱が完了する直前、モルの守護の術が突破される。詠唱中で無防備なセブの背中を目掛けて、影の天使の剣が振り下ろされる。
「っ……!」
モルが剣を抜き、セブを守る。巧みな剣捌きで天使を圧倒し、斬り伏せる。
……って私は書いたけど、モルって今手痛いよね!? ちょっと無理してない!?
「我が君のお背中をお守りするのは、しもべの務め」
はい! これ、書きました! 書きましたけど! 何がどうなってるの!?
正直恥ずかしすぎて無理なんだけど、ってかモルの手も心配なんだけど、けどごめん、自分が書いたやつ再現されるの……とてつもなく萌える。またしても私、発光してる。
「ご苦労。じゃあ、いくぞ」
私から怒涛の魔力供給を受けながら、セブが魔剣を魔天蓋に突き立てた。
「顕現せよ――星落つる業火の塒」
魔天蓋に無数のひびが入り、黒い炎があちこちで噴き出した。さらに、上空に現れた無数の魔法陣から紫黒色の炎を纏った隕石が顕現し、天使たちへと容赦なく降り注ぐ。
あっという間に、辺りは焦土と化した。全ての天使を失い、この瞬間、黒雲が完全に無防備になる。
「今だ。モル」
セブが、モルの名を呼び、モルの手を魔剣へといざなう。
「はい」
モルの手が、魔剣を持つセブの手に重なった。
そのとき、二人がちらりと振り向いて、私ににやりと笑いかけた。
やっぱり、この二人、全部わかってやってる~!? 推しと推しによる二次創作完全再現、公開処刑すぎるんですが!?
「「滅せよ!」」
ああああ待って!! 来ました!! 二人で黒雲に、入刀~~~~!! アルティメット供給ビッグバン~~~~!!
主従二人の魔力と、私から供給される萌えの力。それらが魔剣ダモクレスに結集し、極太の魔力光線となって刀身から一気に放たれた。
光は黒雲を貫き、ぽっかりと穴をあける。その穴が、凄まじい勢いで広がっていく。
マテリア全土を覆っていた黒雲は、この世界の敵となるはずだった主従二人の力で、完全に消滅した。
「終わった、のか」
セブが呆然と空を見上げてる。
黒雲の奥に隠されていた空。そこには、満天の星空がどこまでも広がっていた。
セブもモルも、もちろん私も、マテリアで生まれて初めて見上げる夜空だ。
蛍石とは比べ物にならない、数えきれないぐらいたくさんの星。
その頂に、まばゆいほど白く満月が輝いていた。
月明かりが、私の目の前に並び立つ二人を照らしてる。モルの銀白色の髪が、いつもより白く淡く輝いて見える。
「綺麗だな」
夜空を見上げたまま、セブが呟いた。
「ええ、とても」
モルも見上げたまま、呟いた。静かな、大切に味わうみたいな声だった。
終わったんだ。黒雲の晴れた空の下に、二人がいる。セブとモルが、魂の契りを維持したまま、ここにいる。
ずっと、ずっとこうなってほしいって夢見てた。原作では叶えられなかったけど、二人が、とうとう成し遂げてくれたんだ。
次回、最終話です!
火曜夜更新予定!
最後までどうぞよろしくお願いします~!




