3-21:慈雨の巫女、本気出す。
意識を失いかけてる私の目の前で、今、走馬灯っぽい映像が流れ始めてる。
でもこれ、どう見てもセブの記憶なんだよね。走馬灯って普通、本人の記憶じゃないんですか?
いや、待って。この世界での走馬灯だから、前世の日本じゃなくてこの世界での記憶が再生される、それ自体は正しい。
で、私はここでほとんどの時間をセブとして生きてきた。……だからセブの走馬灯が流れちゃってるってこと? いくらなんでもガバガバすぎない?
『国王陛下、貴方の最も大切なものを壊して差し上げましょう』
あっ!? これ、待ってさっきセブが話してくれた、元臣下が攻撃してくるやつ!?
モルが初めて「我が君」って呼んでくれた場面じゃない!? 勝手に見ちゃって申し訳ないけど自分じゃどうしようもないから、見ます! 本邦初公開~!
『……モルっ!!』
ああっ、今、庇いました! セブがモルを! うわぁ本当に近い! 驚いて固まったモルの、顔~~~~!!
てか待って。セブの手、震えてる。モルを庇ったセブの手が、震えてる。
『…………我が君』
…………そっか……そっかぁ……こんな感じだったんだ。
モル。本当に、心からぽろっと、こぼれたみたいに。ちっちゃくて儚くて消えそうな、だけど、何よりもあったかい声。
こんなの絶対ついでじゃないじゃん……誰ですかついでって言った人……てかセブだってわかってたでしょ、ついでじゃないって。照れ隠し? 照れ隠しですか?? 照れ隠しですね??? はい!!
クソデカ供給ごちそうさまです!!!! 生きる!!!!
――このとき私は気がついていなかった。私の体は、凄まじい量の魔力があふれ出して、どういうわけか黄金色に輝きだしていた。そしてその魔力はすべて、最強の魔王の器に余すところなく注ぎこまれた。
つまり端的にいえば、走馬灯でうっかり萌え散らかした私がとんでもない量の魔力をセブに送り、その魔力をセブがモルに与え……みたいな供給体制が図らずも整っちゃったってわけ。
はたから見ていた王子たちも困惑したと思う。死にかけの現代日本産オタクがいきなり発光して超回復してモルもセブも救っちゃったんだもん。
まあ私としてはむしろセブモルのおかげで文字通り命が救われたわけなんですが。
「これが……慈雨の巫女の力……」
ルビーが慄く感じで言ってるけど絶対に間違ってるよ。先代の巫女に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
超回復したおかげで走馬灯が見えなくなっちゃった。名残惜しいけどそろそろ目を開けておこう。
そっと目を開けると、目の前に推し二人の顔が。近っ。待って美の暴力。鼻血出るこんなの。
「由紀……」
セブもモルも、すごくほっとした顔してる。どうしよう、私はただ好き勝手萌え散らかしてただけなのに、めちゃくちゃ心配かけちゃったみたい。
申し訳ない。もう大丈夫だよって早く伝えなきゃ。
「はい元気です」
小学生の朝の点呼みたいになっちゃった。絶対間違えた。
セブとモルはそんな私を華麗にスルーして見つめあってる。
「モル、ちょっとだけ、待っててくれるか」
「……はい」
モルの返事を待ってから、セブは四王子に捕らえられた暁光の巫女の元へ向かった。モルの瞳はその後ろ姿を追っている。
ここで私はモルと手を繋いでみることにした。モルのためっていうより、私のために。
セブが巫女に何を告げるのか、私はモルと二人で一緒に見届けたいって思ったから。私利私欲でごめん。
ところが、私の指が触れると、モルは慌てて手を引っ込めてしまった。やっちゃった。距離感ミスった。
「ご、ごめ……」
秒で詫び土下座の姿勢を取ろうとした私の目が、釘付けになる。モルの手のひら。やけどしたみたいに、ただれてる。かなり痛そう。
「モル、その手」
言いかけた私の唇に、とん、ってモルの人差し指が添えられた。困ったように微笑みながら、モルは少しだけ首をかしげて私の目をじっと見てる。揺れた髪の内側からほんの少しだけ薄紫色が覗く。
あのですね、こんなあざと仕草、どこで覚えてきたんですか?? もう、何も言えません。ありがとうございます。
せっかくだからと思って、私はそそくさと反対側に回り込んでもう一度手を差し出してみた。
モルは何も言わず、痛くない方の手を繋いでくれた。生死の境をさまよった直後だからか、いつもより甘やかしてくれてる気がする。
いけない、今はセブと巫女に集中しないと。
王子たちの術で身動きを封じられた巫女は、近づいてくるセブから顔を背けていた。
「暁光の巫女」
セブが巫女に声をかける。その声に敵意や怒りは感じられない。むしろ、ほんの少し優しかった。
「お前は、なぜそこまで俺にこだわる」
セブに尋ねられても、巫女は顔を上げなかった。そのまま、ぽつりと巫女が呟く。
「あなただけだった」
一つ一つ、自分の気持ちを掘り起こすみたいに、巫女は言葉を紡ぐ。
「どこにも居場所なんてなかったあの世界で、画面の向こうのあなただけがあたしを必要としてくれた。一番大切な従者を手放して、あたしと生きるって選んでくれた。……あなただけが、光だったの」
消え入りそうな小さい声で、巫女が言う。
「だから、幸せになってほしかった」
その声は、上擦って震えていた。
セブが、巫女に近づく。右手がそっと巫女の頬に触れる。
巫女が初めて顔を上げた。頬を伝う涙が、セブの指を濡らしてる。
「セブ様……」
巫女の声に応えるみたいに、セブが顔を近づけていく。
そのまま耳元に口を寄せて、セブは巫女に、何かを囁いた。
巫女の目が、見開かれる。まなじりから涙が溢れる。
「ずるい……そんなのずるいよ、セブ様……」
次々と溢れてくる涙を止められずにいる巫女を残して、セブはゆっくりと踵を返した。
セブがこっちに戻ってくる。私はモルの手を離し、背中を押した。大丈夫。だから、がんばれ。
セブもモルも、二人が迎えるべき結末を二人で選び取れますように。
特大供給が来ます。覚悟を決めてください。
次回更新は土曜!
引き続きよろしくお願いします~!




