3-20:最強の魔王の座
「さあ、どうしますセブ様? 二人を救うには何が必要か。もうわかりますよね?」
暁光の巫女がセブに問う、その声だけがぼんやりと私の耳に入ってくる。
地面に倒れ込んだ私の背中に、巫女が手にした大鎌を突きつけているのがわかる。
大鎌ソウルイーター。大したダメージが与えられない代わりに、あらゆる防御を無視して相手の魂に直接攻撃できる特殊武器。
そして何故か、その攻撃はモルにだけ異様によく効く。
「何故、お前がそれを?」
私が巫女の鎌に狙われてるせいで、セブは迂闊に動けない。
「あなたがお城を建ててくれたおかげです」
……ん? どういうこと? 死の谷のマテリア城は、巫女が作った罠じゃなかったの?
「……」
セブもたぶん困惑してる。その様子に、巫女がああと声を出した。
「セブ様じゃなくて、モルがやったんですね?」
そういって巫女が大鎌をモルの方に向けようとした。その右腕がはじかれる。
「陛下の名を……軽々しく口にするな……」
モルが魔力を放ったんだ。っていうか巫女の言葉。あの城を作ったのがモルだって、本当に?
巫女が苛立たしげにモルを睨んでる。
「いちいち口を出さないでください。あなたはもうしもべじゃなくなるんですから」
そう言って巫女ははじかれた大鎌を構え直した。と同時に、モルが苦しそうな声をあげる。
巫女が何かしたんだ。たぶんスカルから教わった術。でも今、詠唱してないよね?
「俺のしもべから離れろ」
魔剣片手にセブが突っ込んできた。巫女が反応するのを待つことなく、叩きつけるような斬撃を繰り出す。
ところが、速くて重いその一撃を巫女は易々と受け止めた。
「今のあたし、セブ様より強いですよ」
巫女の大鎌が、セブの魔剣を押し返し、はじき飛ばした。
この巫女、強すぎる。最強の魔王が体ごと吹っ飛ばされ、地面に倒れ込んでる。
「セ……ブ…………」
セブの方へ手を伸ばしたいのに、体が言うことを聞かない。セブもモルも心配だけど、私自身もかなり危うい状態だった。
「ほら、セブ様。早くしないとあたしがユキさんにとどめ刺しちゃいますよ?」
ハッタリだ。巫女は私を殺せない。水龍たんの鱗が二度と取れなくなっちゃうから。
でもちょっと自信なくなってきた。普通に息が苦しいし、目も霞んできてる。頭がぼーっとして、このままだと私、本当にヤバいかも。
「ふざ……けるな」
セブがもう一度巫女に斬りかかる。セブから何度も繰り出される攻撃を、巫女は全て完璧に防ぎきっていた。
この巫女、なんでこんなに強いの? 今だって、斬り結びながら余裕でセブに話しかけてる。
「強くなったでしょ? モルのおかげですよ」
「どういう意味だ」
「あたしが取るはずだった祝福を横取りしてくれたから。土の精霊様が、代わりにこの力をくださったんです」
あの骨ジジイ! なんて余計なことを! やっぱりあの場でシメとくべきだった。
「『おねがい』したんですよ。あたしが望む力を出してくれるまで。何度も、何度も、何度も」
前言撤回。これたぶん骨ジジイは被害者だ。
「だからあなたはあたしに勝てない」
不意を突いた巫女の大鎌が、セブの左腕を裂いた。大鎌ソウルイーターは、魂に直接干渉する。だから外傷はない。身につけたものも傷つかない、はずだった。
私とセブの魂を結ぶ契りの紐が、ぷっつりと切れて宙を舞った。
「っ……!」
セブの目が、思わず紐を追う。その隙を巫女は逃さない。
ソウルイーターの赤黒い刃が、セブの胴を貫いた。契りの紐が地に落ち、その傍らに最強の魔王が膝をつく。
セブはすぐに立ち上がろうとした。けどその動きが不自然に止まる。様子が変だ。
よく見ると、セブの体に何かがまとわりついてる。……黒い蛇。さっきの、偽のマテリア城で巫女に使った術の反動。やっぱり大丈夫じゃなかったんだ。
「セブ様、選んでください。魂の契りを解いてモルとユキさんを助けるか、みんな仲良くここで死ぬか」
状況的にはかなりまずい。大したダメージを与えられないはずのソウルイーターでセブが膝をついたってことは、巫女の素の攻撃力がそれだけ高いってこと。
こんなの喰らって、モルが無事で済むはずがない。さっきまで聞こえていた苦しそうなうめき声も、今はもう聞こえてこない。どうしよう。体が動かなくて、モルの様子がわからない。
「あなたはもう最強の魔王じゃない。あとはあたしに任せて。黒雲の晴れた青空の下で、あなたも、モルも、ユキさんも、それぞれ幸せに生きていける。今のあたしなら、その道を作れる」
言い返したい。けどもう頭が回んない。
「お前は、勘違いをしている」
膝をついたまま、セブが巫女に反論した。
「確かにこの世界は憎い。だが、例えどれだけ世界に力を奪われようと、最強の魔王の座を譲るつもりはねぇ。これは、俺が望んだものだ。そのために、俺たちはずっと共に在る」
きっと、すごい供給だ。もっと頭がはっきりしてるときに聞きたかった。
「わが……きみ……」
モルがうわ言みたいに呟いたのが聞こえた。
私にとっての供給は、巫女にとってはそうじゃない。
「……馬鹿な人」
「ああ、馬鹿だな」
「あなたから、楽にしてあげます」
地面が溶けて、セブを足元から呑み込んでいく。巫女が構えたソウルイーターに、ありったけの魔力が注ぎ込まれていく。
禍々しいオーラをまとったソウルイーターを、巫女は振り上げようとした。その動きが、止まる。
「動け……ない……!?」
「土の力なら、僕の出番です」
スカルの声だ。なんでここに。
「スカル……! 余計な真似を……!」
「僕の力だけじゃありません」
「兄上以外を強化するのは非常に不本意だが、致し方あるまい」
カインだ。待って、もしかしてこの展開。
「巫女。たとえどれほど道を踏み外そうと、私の想いが潰えることはない。しかし今は、弟にこの場を譲ろう」
ルビーも来てる。しかも何だかほんのりあったかい。顔動かすのもしんどいからよく見えないけど、たぶんルビーは何か炎の術を使ってる。
「姫」
ヴァニアの声だ。ヴァニアが兄弟たちを連れてきてくれたんだ。
「もう、やめよう。姫の気持ちはもう十分伝わってるよ」
「ヴァニア! 止めないで! あたしは、あたしは……!」
「魔王、あんたは早く二人を。姫は俺たちが何とかするから」
「……恩に着る」
セブの足音が近づいてくる。
「モル、由紀!」
しまった。セブが来てくれて安心したからか、意識飛びそう。マジで目が開かない。本当に死ぬかも。
「陛下……契りを……おれの力を由紀に……はやく……」
だめ。そんなの絶対やだ。嫌なのに、そう伝える手段がもうない。
「モル……」
セブが迷ってる。だめだめ絶対無理。お願いだから。私は、二人の関係性を護りたくてここまで頑張ってきたのに。
私の意思と裏腹に、体はどんどん言うことを聞かなくなってく。セブとモルの声が少しずつ遠くなっていく。
代わりに、目の前に映像が流れ始めた。もしかして、走馬灯ってやつ?
この世界に来てから見るの二回目だ。銀色の蝶が、窓からふらふらと飛び込んでくる。 懐かしい。セブとモルの出会いの……いや、待って?
走馬灯って普通、私の記憶じゃないの?
走馬灯という名の特大供給、来る――!?
次回更新は木曜!
引き続きよろしくお願いします~!




