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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第3章:推しと世界

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3-19:モルの居場所

 暁光(ぎょうこう)の巫女が姿を消した謁見の間で、私とセブは少しのあいだ虚を突かれたみたいにぼーっとしていた。

 もちろん、そんな場合じゃない。今すぐモルを探しに行かなきゃ。あの巫女、さっきの調子じゃ何しでかすかわかんない。

 だけどその前に、まずはセブの様子を確認してから。


「大丈夫?」


 さっきセブが使った術。モルが嫌がるぐらいだから、きっと術者のセブ自身もそれなりに反動ダメージを喰らったはず。


「問題ねぇ。行くぞ」


 ミスった。聞き方が良くなかった。セブは大丈夫って聞かれたら、しんどくても大丈夫って答えちゃうタイプだ。

 ぱっと見はつらそうに見えないけど、本当のところはわからない。とはいってもそんなにのんびりはしてられないから、セブの言葉を信じて進むしかないけど。


 謁見の間を出た私たちは、一番モルがいそうな場所――モルの部屋へと急いだ。


「……開けるぞ」


 私より一歩先に着いたセブが、扉に手をかける。部屋の中から返事はない。

 こっちを見たセブと目が合う。私が応えるようにうなずくと、セブの手が扉を開いた。


 簡素なベッドと収納。大きな窓。部屋のすみに空いているスペース。

 そこにモルの姿はなかった。


「いないか」


 セブの声に焦りが混じってる気がする。私も焦ってる。当てが外れた。じゃあ、モルはどこ?


 まさかとは思いつつ、念のため私は隣の部屋の扉を開けた。そう、私の部屋だ。といってもここは過去のお城だから、まだ私の部屋じゃないんだけど。


 案の定、こっちにもモルはいなかった。簡素なベッドと収納。大きな窓。……ちょっと待って。おかしい。

 この部屋、あるはずのないものがある。


「セブ、見て!」


 慌ててセブを呼んで、部屋のすみを指差した。


「どういうことだ……」


 部屋のすみに、不自然に空いたスペース。かつてセブがピッピを置いていた場所。モルの部屋にしかないはずの空白。

 嫌な予感がする。私はさらに隣の扉も開けた。……ある。この部屋も、部屋のすみが空いてる。隣の部屋も、その隣も。っていうか、


「部屋、多くない?」


 扉がずっと向こうまで並んでる。廊下を挟んで対面側にも、同じ扉が並んでる。続いていく廊下の果てがかすんで見えない。


「この中から探し出せってことか」


 嘘でしょ。気が遠くなりそう。でもたぶんこういうのって、正解を見つけるまで出られないパターンだよね。だったらやるしかない。


「私はこっちからいくね。セブはそっちお願い」

「わかった」


 セブと私は二人で手分けして、片っ端から扉を開けていった。一度開けた扉はわかるように、そのまま閉めないで次を開けていく。

 ……どのぐらい開け続けただろう。何となくそんな気はしていたけど、全然モルは見つからない。


「由紀、待て」


 セブの声で私は手を止めた。振り返ると、セブがこれまで開けてきた扉の方を見ている。

 私もそっちを見た。開けっぱなしのはずの扉が、全部閉まってる。


「うーわ、そういうパターンか」


 たぶんこれ、何か条件をクリアしないと先に進めないタイプの仕掛けだ。

 じゃあ、条件は何? 今の状況ならきっと、「モルを見つけ出すこと」だよね。


 これは原作を何周もしたオタクの勘だけど、恐らくやみくもに扉を開けちゃだめ。確実にここが正解だってわかった状態で開けないと。

 正解の扉がどれかは、何か特定の行動をとることでわかるはず。

 そして、この場合の特定の行動とは、間違いなくセブモルに関係する何かだ。


「セブ」


 だから今はセブの助けを借りるのが一番。


「モルが、今この中のどこかでセブにしかわからない合図を送っているとしたら、何だと思う?」


 セブがじっと考え込む。


「……歌だ」

「歌?」


 セブは、自分で言いながらだんだん確信していくみたいに、顔を上げた。


「夜にあいつが歌っていた」


 セブが寝つけない夜に聞いていた、モルの歌。


「それ!」


 絶対それでしょ。私たちは息を潜め耳をそばだてて、その歌が聞こえてくるのをただひたすらに待った。……聞こえた。モルの声。すっごく小さいけど、確かに聞こえてくる。


 思わずセブの方を見ると、セブもこっちを見ていた。目が合って、うなずき合う。


 なるべく足音を立てないように、それでもできる限り急いで、セブと私はモルの歌声のする方へ進んでいく。

 近づくほどに、歌声は少しずつ鮮明になっていく。私が初めて聞く、モルの歌。穏やかで心地よくて、でもどこか寂しそうな、マテリアの夜によく似合う歌。


 ここだ。セブも私も、同じ扉の前で足を止めた。


 セブが扉に手をかけ、開ける。

 入ってすぐ正面。大きく開かれた窓に、モルは腰かけていた。魔天蓋の蛍石のぼんやりとした光が、モルの輪郭をほんの少しだけ浮き彫りにしている。

 歌声が止み、外を眺めていたモルの目が、こっちに向けられる。灯りのついていない部屋の中は暗くて、モルの表情がうまく見えない。

 きっとモルの方からは、私たちがどんな顔してるかよく見えてるんだろう。


「来るな」


 部屋に入ろうとしたセブの足が止まる。モルから明確に突き付けられた、拒絶。


「魂の契りを解消しろ。お前がそれで救われるなら、構わない」


 モル……! この主従、本当どうして、こんな……!

 我慢できなくなった私が部屋に突入しようと足を上げかけた、その足を止めさせたのは、モルの声だった。


「だが、たとえお前のことを忘れても、すべての記憶が消えたとしても、おれは必ずお前を見つけ出す。そして今度は、必ずおれから魂の契りを結んでやる」


 モルはそう言って、ほんの少し笑った。ように見えた。


「だからさよならだ、セブリオン・マテリア」


「あなたならそう言ってくれるって思ってました」


 最悪。一番聞きたくないタイミングで、一番聞きたくない声が響いた。


 突然、足元がおぼつかなくなった。見ると、床が溶けだしてる。

 床だけじゃない。壁も、天井も、家具も、何もかもがぐにゃぐにゃ歪んで溶け始めてる。

 当然、モルが腰かけている窓枠も。


「モル!」


 セブが反射的に駆け寄ろうとした。だけどその足は床に取られてうまく進めない。

 それでも懸命に伸ばしたその指先は、あと一歩のところで届かなかった。


「モルーー!!」


 うそ、どうしよう。モルが外へ落ちた。助けに行かなきゃ。

 でもどろどろに溶けた床が足を呑みこんじゃって、一歩も歩けない。

 ピンチだ。とにかく水龍たんの鱗の力で何とかするしかない。


「お願いマジ無理助けて水龍たん」


 祈りは、届いた。足元のどろどろがサラサラになって、私の体は一気に沈んで自由になった。

 しかも全然苦しくない。よく見れば、周りにバリアが張られてる。モルの、守護の術だ。

 守ってくれたんだ。あんな状況だったのに。


 急いでモルを助けなきゃ。まずはセブを助けよう。胸に手を当て、祈るイメージで念を込める。

 どぷん、って音が聞こえた。セブが沈んできてる。セブにもバリアが張られてる。


 とりあえず水龍たんの鱗作戦は成功だ。けど私、ちょっとやりすぎたみたい。どろどろに溶けたマテリア城が、どんどんサラサラの液体に変化していく。

 その勢いでなんかすごい流れが発生して、とてもじゃないけどコントロールできない! ヤバそう!


「由紀!」


 セブが必死に手を伸ばして、私を捕まえてくれた。私は私で怖すぎてセブにしがみつきながら、流れが収まるのをひたすらに待つ。


 流れは、思ったよりすぐに収まった。最強の魔王が、黒い炎で城だった液体をあっという間に蒸発させたから。


「強すぎる……」


 ここまで来ると若干引くな……って、それどころじゃない。モルは?

 必死で見まわすと、少し離れたところにバリアの光が見えた。よかった、ちゃんと自分にも守護の術かけてたんだ。


「モル!!」


 私もセブも無我夢中で走った。私たちが着くより先にモルは一人で起き上がった。


「来るな」


 モルがまた拒絶する。セブの足が止まった。けど私は、止まらなかった。

 だって私はオタクだから。この場合の来るなは来てもいいやつだから。


「モル」


 本気で拒まれないだろうギリギリの距離をはかりながら、私はモルに呼びかけた。


「もう一度セブと話して。このまま契りを解消したら、きっと二人とも後悔しちゃう。お願い」


 これが、オタクにできる最後の一押し。これ以上は踏み込めない。あとは二人を信じる。

 モルは、私の呼びかけにうなずいてくれた。


「わかっ……」


 モルの言葉が不自然に途切れた。私の目の前で、モルが力なくひざを折り、倒れる。そのすぐ後ろに立っていたのは、


「やっぱり最後まで邪魔してくれますね、はんぺんさん」


 暁光の巫女が、両手に構えたソウルイーターを振り下ろす。ヤバい、と思う間もなく、全身の力が抜けて立っていられなくなった。

 やられた。薄れゆく意識を何とか保ちながら、私は巫女の言葉を聞くことしかできなかった。


「さあ、どうしますセブ様? 二人を救うには何が必要か。もうわかりますよね?」



思った以上に絶体絶命――!


すっかり日付変わっており申し訳ない……!

本日夜、もう一話いけるかな!?

引き続きよろしくお願いします~!

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