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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第3章:推しと世界

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3-18:謁見の間で待つ者

「誰もいない……?」


 死の谷にいきなり現れたマテリア城。その中にセブと私は足を踏み入れ、辺りを見回していた。

 城内は怖くなるくらい静まり返って、人の気配が一ミリも感じられない。


「警戒を怠るな。恐らく、巫女の罠だ」


 いつにもまして真剣なセブの横顔に、私も緊張が高まる。


「ここって、さっきセブの魔法陣から行けたモルの部屋と同じ場所?」

「違う。あれは俺が作った空間だ」


 この人今しれっととんでもないこと言いましたね? そんなことできるの?


「だがここは……城を丸ごと作り上げるだなんて、俺でもできるかどうか……」


 つまり、最強の魔王でもできないかもしれないことを、暁光(ぎょうこう)の巫女がやっちゃったってこと……?


 っていうか、モルはどこにいるんだろう? いきなり自分の故郷にお城が建ってたら困っちゃうよね。


「モルは……」

「部屋に、いるだろうな」


 私もそう思った。何となくだけど。


「行こう」


 ここからモルの部屋に行くには、謁見の間を抜けて裏から廊下を通るのが一番近い。

 城に入ってすぐ、広間の正面両脇にある大階段を上って、セブと私は謁見の間へと向かう。


 階段の手すりに触れながら、私は違和感を覚えていた。


「ねえセブ、このお城きれいすぎない?」


 本来のマテリア城は、侵攻の傷跡がまだそこかしこに残ってる。

 でもここは、傷跡どころか修繕の跡さえも見当たらない。まるで侵攻自体が起きてないみたいに。

 それに、うまく言えないけど、いつものマテリア城と違う気がする。


「そうだな。まるで昔の……」


 セブが言いかけた言葉の続きを、私は察してしまった。たぶんここは私の知ってるお城じゃない。

 私が来るよりずっと前、モルが迷い込んできたばかりの頃の、マテリア城だ。


 じゃあ、このお城はモルの記憶から作られてるってこと? 巫女がモルの記憶を利用した? それとも、まさか、モル自身が……。


 きっとセブも同じようなことを考えたんだと思う。私たちはお互い黙り込んだまま、少しだけ足を速めた。

 セブと並んで歩きながら一人で悶々と悩んでるうちに、私はあることが気になってきた。


 城、増えすぎじゃない?


 いつものマテリア城、セブが作ったマテリア城(一部)、私たちが今いる過去のマテリア城。三城もある。

 

 これって大丈夫? ゲームの容量的な意味で。現実世界だからそういうの関係ないのかな。でも魔力の総量には上限あるって聞いたし……。


「着いたぞ」


 セブの声にハッと顔を上げると、いつの間にか謁見の間の入口にたどり着いていた。

 セブが、魔剣を召喚する。


「気をつけろ。(わり)ぃ予感がする」


 この扉の先にいるのは、謁見の間を護る守護者。肉体を持たない鎧騎士「金剛(こんごう)」だ。

 でも金剛って、私の記憶が確かなら……セブが臣下を一通り粛清したあと、原作本編開始直前ぐらいに置いたって設定資料集に書いてなかったっけ? だったら今はいないんじゃない?


 セブが扉を開いた。と同時に、金剛の強烈な一太刀が襲い掛かる。


「い、いる~!?」


 なんで? しかもなんでセブを襲うの? 私なら百歩譲ってわからなくはないけど!


「由紀、下がれ。一撃で片づける」


 言われなくても下がります~! 推しの戦闘シーンは見たいけど、邪魔してご迷惑をおかけするわけにはいかないので!


 セブが魔剣を床に突き立てた。魔剣の切先から魔力が注ぎ込まれ、金剛へと迫る。まるで、黒い蛇が何匹も蛇行しながら襲い掛かるみたいに。


 ……これ、原作だと出てこない術だ。設定資料集にはしれっと載ってるけど、実際に見るのは初めて。激レアじゃん!


 私が動揺してる間に、金剛は捕らえられていた。黒蛇を模した魔力が鎧の内側に潜り込み、侵し、術式を書きかえていく。


「自壊しろ、金剛」


 魔王の命令で、金剛は自ら崩れ落ち、鎧の腕や足、胴がバラバラになって動かなくなった。


「もう大丈夫だ。行くぞ」

「うん。ありがとう」


 私はバラバラになった鎧を横目でちらちら見ながら、セブの後ろに続いた。

 セブが大丈夫って言ったから大丈夫なんだろうけど、ああいうのって、いきなり動き出すのがセオリーじゃない……?


 謁見の間の扉を開き、私たちは玉座に座る人物と対面する。


「え……?」


 目の前の光景が受け入れられなくて、私は足を止めた。

 玉座に腰かけていたのは、完璧な従者。銀白色の頭が深くうなだれ、表情は全く見えない。


「モル……!」

「待って!」


 夢中で駆け出そうとするセブを止めようと伸ばした私の手は、届かなかった。

 止めなきゃ。罠だ。だって、モルが主のための玉座に座るなんてありえない。


「セブ、待っ」


 とっさに追いかけようとした私の体が、強い力で引き留められる。私はそのまま背後から羽交い絞めにされてしまった。


「やだ、離してっ!」

「馬鹿なこと言わないでください。離すわけないでしょう」


 暁光の巫女……! ヴァニアは? 一緒じゃないの? いやそんなことより離してほしいんですが?

 悲しいかな、圧倒的なレベル差のせいで何をどうやっても振りほどける気がしない。


「由紀っ!」


 セブが私のピンチに気づいてこっちに戻ろうとした。その手を、モルの手が掴んだ。


「お前は……?」


 その手が、溶ける。


 モルだったものは人の形を失い、どろどろに溶けてセブの手を、腕を、体を呑み込んでいく。


「セブ!!」


 巫女の術だ。あのどろどろの術でモルの形を作って、溶かしたんだ。このままじゃセブが危ない。


「……暁光の巫女」


 セブの声に、私は思わず肩をびくりと震わせた。巫女も私の後ろで息を飲んでる。

 セブの体を紫黒色の炎が包む。炎がどろどろを全て焼き尽くし、跡形もなく消滅させる。


「モルはどこだ」


 魔剣ダモクレスを手に、セブが巫女に問う。


「質問するのはあたしですよ、セブ様」


 私の身動きを封じるように締め上げながら、巫女はセブを挑発してみせた。

 地味に痛いからやめてほしい。ってか、今のセブをこんなに堂々と挑発できるなんて、さすがに命知らずすぎない?


 セブが魔剣を床に突き立てた。あの術を、もう一度使うつもりだ。えっ、待って私もいるけど大丈夫? とか考えてる間に黒い蛇が!? 拒否権、無~!?


「なんで、その術……!」


 背後で巫女が苦しみだした。私を捕まえていた腕の力が弱まる。その隙をついて、私は脱出に成功した。

 助かった。巫女だけ攻撃するとか、さすが最強の魔王。器用。


「セブ様、なんで……!? その術は、」

「人間には使えない。そう思ったか?」


 私もそう思ってた。ってか設定資料集に書いてあった。だから実装されなかったんだって、納得してた。


「使おうと思えば使える。ただし、人間相手に使うと術者への反動が大きい」


 言われてよく見ると、確かにさっき金剛に使ったときと違ってセブの方にも黒蛇がまとわりついてる。


「あいつが、それを嫌がる。だから使わないようにしているだけだ」


 ……思いもよらないタイミングで供給お出ししてくるのやめていただいていいですか? ごちそうさまです。

 そしてこれは、私にとっては供給だけど、巫女にとってはそうじゃない。


「セブ様に……いいこと教えてあげます」


 巫女は歯を食い縛りながら、言葉を続ける。


「モルは魂の契り解消を受け入れましたよ」


 この巫女……! けどもうそんな手には乗らない。

 私が反論しようとしたその時、セブが一言発した。


「そうか」


 セブ……? 私は何だか不安になって、思わずセブの顔を見た。その表情はすごく冷静で、うまく感情が読み取れない。


「だからセブ様……早くあたしと解消の儀を……」

「断る」


 セブの術が巫女をさらに追いつめ、苦しめる。当然それは、セブ自身も苛んでいく。


「セブ様、どうして」

「さぁな」


 大事なことをはぐらかすときの、答え方。

 巫女はきっと、その答えを許せなかったんだと思う。


「可哀想」


 吐き捨てるように言い放つと、巫女はあっという間にまとわりつく黒蛇を一匹残らず溶かしてしまった。

 それから足元の床を溶かし、私たちの前から姿を消した。



巫女、得体が知れなすぎる


次回更新は土曜!

引き続きよろしくお願いします~!

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