3-17:あの日
モルに教えてもらえなかった、原作未登場の新規供給。モルがセブのことを「我が君」って呼ぶようになった、あの日。いよいよその日の出来事を、セブが話してくれる。
「俺が臣下を粛清しまくったのは知ってるな?」
「うん」
いや、うんって言ったけど、言い方。しまくったって。
「当然恨みも買うわけだ。俺自身が恨まれるのは慣れっこだが……あの日は、モルが狙われた」
それはセブにとっても、モルにとっても想定外だったんだと思う。
「俺は咄嗟にモルを庇った。そしたらあいつ驚きすぎて固まっちまって。あの顔今でも忘れらんねぇわ」
セブはまるでそのときのことを思い出してるみたいに、可笑しそうに話してる。
「で、しもべの身でありながら主の俺に命を救われたあいつは、心を入れ替えてその日から俺に忠誠を誓い、ついでに俺のことを『我が君』って呼ぶようになった、と。……こんな感じでよかったか?」
……うん。落ち着いて、まず深呼吸。……よし。
「ありがとう……ございます……!」
やっとの思いでお礼をしぼり出したけど。あの。そのですね。
尊すぎて無理~~~~!!
そりゃモルもびっくりするよ! だって主が従者を庇うなんて、ふつう逆だよね!? しかも、『我が君』呼びがついでだって言いました!? 絶対そんなことないから~! 間違いなく明確な意思を持って呼んでるよモルは!
そもそもモルは出会ったときセブに命を救われたことを恨んでたんだよ? 突然感謝するわけないよね?? 絶対そこには何かしらのクソデカ感情があるわけじゃないですか??? そこのところおわかりですかねセブリオン・マテリアさん????
あーもう無理我慢できないもっと詳しく突っ込んで聞きたい。オタクとしての欲が抑えきれません。
「あの、質問させていただいても……?」
律儀に挙手しながら質問した私に、セブはちょっと笑ってた。
「おう、何だ?」
「えっとですね、それって具体的にどんな感じで……身を挺してこう、いく感じですか……?」
キモ・オタクの悲しき習性なんだけど、こういうときついつい敬語になっちゃう。
セブがふと足を止めた。少し遅れて気づいた私も立ち止まる。
「そうだな。お前がモルだとして、あっちから元臣下が攻撃してきたから……」
私が、モルだとして……? ありえなさすぎる仮定に、頭がフリーズする。セブと私の距離が、一息に詰まる。
「……こうだな」
じじじ実演~!? 待って近い近い! 近すぎ! セブモルがこの距離で!? この距離だったんですか!? なにごと!?
セブの手が私の肩に、背中に、抱きしめるみたいに回されてる。モルは、こうやって庇われたんだ。感慨深い。本来主を守るべき立場であるはずのモルが……すごい……。
「セブは、モルのこと本当に大切にしてるんだね」
あまりにも感慨深すぎて思ったことそのまま口から出ちゃった。
それを聞いたセブの手に、僅かに力がこもる。
「あいつは、俺のしもべだからな。誰にも奪わせねぇ」
独・占・欲! この距離で浴びるセブからモルへの、ハァッ、たまりませんな~!
今、間違いなくセブの魔力は爆増してる。冷静に考えると恥ずかしすぎて社会的死でしかないけど、この特大の新規供給を前にしたらもうそんなこと言ってられない。ありがとう、セブモル。ここで今、一人のオタクの魂が、救われました。
あまりにも魔力が爆増して面白かったのか、セブが小さく笑った。それから腕の中の私をじっと見ながら、軽くささやくみたいに言う。
「由紀は、モルより小さいな。変な感じだ」
わ、悪かったな!? そりゃ私はモルよりチビだよ。モルとセブはあんまり背変わんないし。……待って?
もしかして、セブ、モル以外にこの距離感で接した人がいない……? もしかしてっていうか絶対そうだ。モルだけ、だったんだ。
モルが忠誠を誓った理由。セブの弱さに触れてしまったこと。モルも気づいたんだ。陛下には、おれしかいないんだって。
「そういうことだったんだ……」
頭の中で、これまでのあらゆるセブモル供給が繋がっていく。モルと名づけられた銀色の蝶がずっと恨んでいたはずの、傲慢で、孤高な、悪の魔王。その魔王が初めて見せた、か細くて脆い、執着。
たぶんその頃にはもう、モルの方も手放せなくなってたんだ。
それに、さっきのセブの話しぶりだと、セブはきっと気づいてない。モルが内緒にしたいって思った大切な気持ちは、ちゃんと内緒のままだ。
「由紀……?」
供給過多で呆けたみたいになってた私に、セブが心配そうに声をかけてくれた。誰にも気づかれないぐらい、ほんの少しだけ声に残された震えが心地よくて泣きそうになる。
私はモルが言ったことを思い出していた。――我が君はきっと、お前を喪うことを、お望みにならない。
私、推しの人生に深入りしすぎてる。
「行こう。早くモルを見つけなきゃ」
「そうだな」
振り切るみたいに、私はまた前へ歩き出す。そうしなきゃダメだって思ったから。
二人にはずっと幸せでいてほしい。けどそれは、二人がそう在ることを選んだからであってほしい。
私は推し主従を横から眺めていたいだけの、ただのオタクだ。
頭を振って息を一つ吐き、改めて前を向いた私の背後からセブの声が追ってくる。
「由紀のおかげで、今ならいくらでも魔天蓋増やせそうだしな」
……それ、今、わざわざ言わなくてよくない~!? 生き恥すぎる~!
***
城下町から遠く離れ、荒れ放題になっている大地の、さらにその先。魔王の庇護が届くことのない、見捨てられた場所。降りしきる酸の雨が容赦なく注ぐ谷底に、その場所はあった。
「なに、これ」
私もセブも目を疑っていた。だってそこにあったのは、飛び回る銀の蝶でも腐乱した死骸でもなかったから。
「……城だ」
マテリア城。あるはずのないそれが、死の谷を埋め尽くすみたいに聳え立っていた。
なんということでしょう
次回更新は木曜!
引き続きよろしくお願いします~!




