3-16:とうとう本格的に私の出番ってわけ
フロアとフロアの間。バグ技を使わなきゃ入れないような場所に、ヴァニアが助けに来てくれた。
「どうしてここに……?」
ヴァニアの術で掬い上げられた私は、優しい風に包み込まれながら問いかける。
一瞬、ヴァニアは言葉に詰まったような顔をして、それからややため息混じりに答えてくれた。
「魔王に、頼まれた」
「セブに?」
意外だった。セブ、ヴァニアに会ったんだ。
ってことは、ちゃんと元の世界……元の次元? 空間? よくわかんないけど、とにかくセブはあっち側のモルの部屋に戻れたんだ。
「よかった……!」
うれしすぎてつい独り言呟いちゃった。
ヴァニアが、じっと私の顔を見てる。
「君、そこまで魔王のことを……」
待ってください誤解なんです。私はあくまでセブがモルを助けにいってくれててよかったって言ってるだけです。勝手にシンパシー感じないで。違うから。
でも確かにこの流れでこの言い方したら、セブが私のことをヴァニアに託してくれてうれしい~みたいに取られちゃうね!? 誤解ですけど!?
「今はそんなことより早くセブのところに飛ばして」
これも誤解を生むよね!? あっ、ほら、ヴァニアが「わかる」って感じでしんみりうなずいてる!
「待ってて。すぐに飛ばしてあげるから」
違うんです~! でもすぐ飛ばしてくれるのはうれしいから止めたくない! 日本語、難しい~!
「ところで、姫はまだこっちにいる?」
向こうに戻るための魔術を構築しながら、ヴァニアが聞いてきた。
「たぶん、セブを追いかけて向こうに戻ったと思う」
「入れ違い、か。なら俺も戻ろう。魔王のしもべは? こっちにいるんじゃなかったのか?」
「モルは……セブがそっちに飛ばしちゃった」
「……あー」
ヴァニアが何かを察した感出してるのちょっと面白い。
「とにかく、早く戻った方がよさそうだな」
ヴァニアの翠玉の瞳に魔力の輝きが宿る。あっという間に体が強い風に包まれて、私とヴァニアは元いた場所――モルの部屋に戻ってきた。
すぐに契りの紐から気配が伝わってくる。その気配は、一つだけだった。
「モルは……?」
いても立ってもいられなくなって、私はセブの気配がする謁見の間へと走った。
「セブ!」
勢いよく謁見の間の扉を開けると、なんと目の前にセブがいた。
「待ア゛ァッ!? 近ッ!?」
「わ、悪ぃ」
距離感!? びっくりしちゃった。
セブも私の気配を察知してこっちに向かおうとしてくれて、鉢合わせちゃったみたい。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
……すっごく心配してくれてる。
そうだよね、現代日本産よわよわオタクが一人でヤバい巫女と戦おうとしてたんだから、いくら信じるっていっても普通に心配だよね。
推しに余計な心労をおかけしちゃった。大変申し訳ない。
「大丈夫! 無傷です!」
ご心配には及びません! その気持ちで私は全力サムズアップしながら笑顔で答えてみせた。
「そ、そうか……ならよかった……」
気のせいかな、若干引かれてる気がするんだけど。背後から追いついたヴァニアのため息まで聞こえてくる。なんで?
「それより、モルは?」
「気配を消してやがる。城じゅう探させてるんだが、見つからねぇ」
心臓がキュッてなる。どこに行ったんだろう。早く、モルにセブと会ってほしいのに。
謁見の間に入ると、元の姿に戻ったピッピが玉座に座ったままお出迎えしてくれた。
「ユキ~!」
「ピッピ、お城を守ってくれてありがとう」
「へっ、俺っちにかかりゃお茶の子さいさいよ」
さすがピッピ。けどごめん、のんきに再会を喜んでる場合じゃない。
「モルは見つからない?」
「ああ、廊下も部屋も全部確認してみたけどよ、この城の中にはいないみてーだな」
改めて突きつけられた事実に、ますます胃の辺りが重くなる。
後ろからついてきていたヴァニアが、見覚えのあるタヌキモモンガのぬいぐるみに気づいた。
「あっ、こいつ俺が姫にあげたぬいぐるみじゃん! なんでこんなところに?」
「あ? 誰だよオメー。マテリア国王セブリオン・マテリアお手製の使い魔兼城内監視役兼癒し系マスコット、ピッピ様にナメた口利いてんじゃねーぞ」
「口悪っ」
初めてまともにしゃべるピッピを見たヴァニアはドン引きしてる。
「よせ、ピッピ」
セブに窘められて、ピッピはしぶしぶ黙り込んだ。
「姫はどこだ? こっちに来てるんだよな?」
ヴァニアの言う通りだ。巫女はどこに行ったんだろう。セブを追ってここに来ててもおかしくないはずなのに。
「ピッピ、暁光の巫女はいる?」
「いねーな」
消えた巫女とモル。嫌な予感しかしない。不安になった私は思わずセブの顔を見た。
「モルなら大丈夫だ。あいつは、暁光の巫女に負けるようなやつじゃない」
「……うん。私もそう思う」
でも、急ごう。あの巫女のことだから、何しでかすかわかんないし。
「セブ、モルがどこにいるか心当たりない?」
セブは少しの間考えると、静かに口を開いた。
「死の谷。あいつの故郷だ」
モルが話してくれた、蝶だったころに暮らしていた場所だ。
「行こう」
原作では訪れることのない場所。何が起きるかはわからないけど、行くしかない。
「俺は姫を探しにいく」
「わかった。ヴァニア、いろいろありがとう!」
ヴァニアと別れ、私とセブは死の谷へと向かう……あれっ? ちょっと待って。
死の谷って確か酸の雨が降り注いでるんじゃなかった? そんなとこに生身で行ったら大変なことになるよね?
「あいつは守護の術があるから平気だろ。俺たちは魔天蓋を構築しながら進むことになる」
土木工事じゃん。マテリアのインフラ整備も兼ねてるってことですか? でもこれって、
「セブの魔力、とんでもなくいっぱい使う……よね……?」
恐る恐る尋ねてみたら、セブはこっちを見てニヤリと笑った。
「そこでお前の出番ってわけだ」
えっと……? 要するに、私がセブに魔力を供給しまくって、セブの魔力不足を補うってことかな?
「わかった。任せて。持てる想像力の全てを使ってセブモル妄想に励みます!」
「頼もしい限りだ」
ついでにセブから新規供給ももらえると嬉しいな!
というわけで、セブと私はピッピをお城に残して死の谷へと向かった。
その道中。私は早速セブにあるお願いをしてみた。
「ねえセブ、どうしても聞いておきたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「モルが、初めて我が君って呼んだときのこと、詳しく……教えてください……!」
モルが与えられた生涯のすべてをセブに捧げるって誓った「あの日」のこと。今思いつく限り一番の新規供給。
魔力供給のためとかじゃなくても、絶対に押さえておきたい……!
「あー、あの時か。あれは俺が」
「待ァッて!! そんなサラッと!? いきなりすぎる!! 心の準備させて!!」
「お前が聞いてきたんだろ」
「それはそうなんだけど! もうちょっとこう……話すぞ、みたいな雰囲気が来ると思ってたので……!」
「面倒くさいやつだな」
ごめんって。
「じゃあ話すぞ。準備いいか?」
いよいよ特大の新規供給が、来る……!?
次回更新は火曜!
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