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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第3章:推しと世界

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3-15:世界が魔王に押しつけたもの

「この世界、解釈違いです」


 これが私の正直な気持ち。セブが銀色の蝶に手を伸ばしたことを、後悔してないって言った想いを、この世界が何度否定しても、私は絶対に否定しない。

 だから戦う。二人が二人のまま笑っていられる未来のために。


 私の宣言を真正面から受けた暁光(ぎょうこう)の巫女は、少しだけ驚いたように目を丸くした。


「奇遇ですね、私もです」


 これが連帯を示す言葉じゃないことはわかってる。私と巫女は目指す道が違いすぎるから。

 でも私は迷っていた。慈雨(じう)の巫女の力――セブの魔力を回復させるこの力のことを、暁光の巫女に明かすかどうか。


 もし、私の力で世界を救えるかもって説明できれば、巫女だって無理にセブとモルを引き離そうとしないかもしれない。私が巫女に命を狙われることもなくなる。

 モルを傷つけたりセブを追いつめたり、許せないことはいっぱいある。けど、同じ推しを推すオタク同士、争わなくて済むならそのほうがいい。


 問題は、どうやって説明するか。私だって、この力で本当に世界を救えるか確信が持ててるわけじゃない。


「はんぺんさん。あたしたち、本当はもっと分かり合えると思うんです」


 巫女が突然態度を軟化してきた。絶対何か企んでる。

 警戒を続けながらも、私は巫女に同調してみることにした。


「私もあんたも、セブを幸せにしたい気持ちは同じだもんね」


 私の返答を聞いた巫女は、フフッて微笑みながらうなずいた。


「あたしも、この世界を許せません。セブ様に『最強の魔王』の座を押しつけておきながら、セブ様が必死で手に入れたささやかな幸せまで知らん顔で根こそぎ奪い去っていくこの世界を」


 巫女の目から光が消えた。微笑みも消え失せ、虚ろな顔で私の方をじっと見てる。


「だからあたし、世界がセブ様に押しつけたもの、全部奪うことにしました」


 脳内で命の危機を知らせる警報が鳴りまくってる気がする。巫女の足が一歩、こっちに踏み出してくる。

 逃げなきゃ。とっさに引こうとした足が、動かない。

 ――地面が溶けてる。知らない間に、私の足は溶けた地面に埋まって動かせなくなっていた。


 巫女が、一歩、また一歩と近づいてくる。


「最強の魔王の座も、銀色の蝶も、そしてはんぺんさん、あなたも」


 怖すぎ! 巫女の今のジョブがわからないし、床を溶かす力も謎だし、このままだと何が何だかわからないうちに殺されそう。

 けど策はある。あれを出せば、巫女は絶対私を殺せないはず。


 巫女との距離はもうあと少ししかない。出すなら今だ。私はポケットに手を突っ込んだ。


「暁光の巫女。これ、なーんだ?」


 ポケットの奥の方から取り出した、一枚の鱗。水龍たんからもらったおともだちのあかし。唯一品「水龍の鱗」だ。

 私の指先につままれた鱗に、巫女の目は釘づけになっている。


「それ、まさか」


 巫女の足が止まった。やがて私の指先にあるのが水龍の鱗だって気づいた巫女は、無我夢中で鱗に手を伸ばしてきた。そうはさせるか。


「えいっ」


 巫女の眼が大きく見開かれ、口はあごが外れそうなぐらい開かれた。私に向けて伸ばされた手は宙を掻き、前につんのめった体が危うく転びそうになってる。


 巫女が目にした光景。それは、目の前の私が水龍の鱗を口の中に放り込みそのまま飲み込んだ決定的瞬間だった。


「なにしてるんですかぁっ!?」


 半狂乱になった巫女が私の肩を掴んで何度も激しく揺さぶっている。


「吐け、吐き出せぇっ!」


 巫女は私の口の中に指を突っ込もうとしたり、私の背中を思いっきり叩いたり、やりたい放題だ。

 でももう遅い。私は水龍の鱗を「使った」から。


「……これで、何度リセットしてもセブの『特殊会話』は回収できない。このまま私を殺せば、永久にね」


 水龍の鱗を「使った」状態で死ぬ。そうすれば、その周回どころかリセットしてももう二度と鱗は手に入らない。


「鱗使用バグ……こんなところで……!」


 そう。致命的なバグだけど、知ってる人はあんまりいない。だって本来、単なる素材アイテムにすぎない水龍の鱗を「使う」事はまず不可能だから。

 原作だとチートでも使わない限り再現できない、レアなバグ。だけど実際にこの世界で生きてる今の私なら、使うのなんて簡単。


 暁光の巫女は私に吐き出させることをあきらめたのか、一人で頭を抱えて何かブツブツ呟いてる。チャンスだ。このままさらに追い込む。


「聞きたいでしょ? 最強装備の特殊会話」


 私の言葉に反応したのか、巫女が勢いよく顔を上げた。そりゃ聞きたいよね。

 原作ゲームには最強装備を身につけている時しか聞けない特殊会話が、各攻略キャラごとに用意されている。当然、セブの分もある。


 今飲み込んだこの鱗がなければ、最強装備は作れない。


「おかしいと思ったんですよ。訓練所を作って何度水龍を狩っても一向に鱗がドロップしなかった。あなたが隠し持ってたんですね」


 巫女が可笑しそうに笑い出した。ちょっと怖いんだけど。

 そういえば、鱗を「使った」場合の効能ってどんな感じなのかな。今のところ特に何の変化も感じないんだけど。いつもより気持ち肌が潤ってるかな? ぐらい。


 ひとしきり笑った巫女が、こっちを見据えて淡々と話し始めた。


「殺せないなら仕方ありません。セブ様が魂の契りを解消してあたしと幸せになるまで、あなたはそこで一生指を咥えて眺めててください」


 それだけ言い放つと、巫女は私を置き去りにどこかへ去って行ってしまった。


「待って!? おーい!?」


 返事がない。本当に置いて行かれちゃったんだ。

 まずい。こんなわけの分からない空間で、セブたちに何かあっても助けに行けないなんて、絶対無理。

 せめてこの溶けた地面を、自力で何とかできればいいんだけど。


「フゥウウウン……フルルゥンヌ……」


 魔獣の咆哮かと思った? 残念、オタクです。全力で足上げたら意外と勢いで抜けたりするんじゃないかと思って、私は今、全意識を両足に集中させているところ。

 よし、わかんないけどいい感じに集中力が高まってきた気がする。今なら足も抜けそう。


「ソイヤッ!」


 祭りか? つい自分で自分にツッコんじゃった、そのときだった。


 どぷん、って何か重たいものが水に落ちるような音が響いた。何が落ちた?

 考える間もなく、鼻に、口の中に、容赦なく水が入り込んでくる。


 ここで私はようやく、自分の周りが液体で満たされていることに気づいた。


 こんな状況でもいやに冷静な自分がいた。落ち着いてみると、呼吸はさほど苦しくない。

 液体のエリアを抜けたのか、喉が水中に適応したのかはわからないけど、とにかく私は今ふわふわとした浮遊感を味わいながら、下へ下へと少しずつ沈んでいってるみたい。


 たぶんだけど、私、巫女が溶かした地面をさらに溶かして水みたいにしちゃったんだ。

 そしてこれがきっと、水龍の鱗を使ったときの効果。ドロドロの液体を、サラサラに変えてしまう力。


 ……って、こんな冷静に分析してる場合じゃないよね~!? ピンチです! これは緊急事態!


 でもどうしたらいいんだろう? とりあえず流れに逆らって上の方を目指してみる? ……だめ、全然上がれない。どうしよう。こんなところでジタバタしている間に、巫女がセブモルに何かしてるかもしれない。


「……全く、世話が焼けるなぁ」


 その声が聞こえたと同時に、私の体は渦に包まれた。浮遊感が強まって、そのまま、勢いよく上へと飛び上がる。


「しっかりしてくれよ。姫を止めるんだろ?」


 目の前には、緑色の短髪に翠玉(すいぎょく)の瞳。私をフロアとフロアの間から掬い上げてくれたのは、ヴァニアの風の術だった。



ヴァニア、助かる~!

果たしてオタクはセブモルの新規供給に間に合うのか……?


次回更新は木曜予定です! 予定!

引き続きよろしくお願いします~!

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