3-13:一番嫌なとこで来る選手権、優勝
今まさにセブがモルのところへ向かおうというこのタイミングで、暁光の巫女……! 推し主従の大事な局面を邪魔しないでほしいんですが!?
「セブ、行って。こいつは私が何とかする」
一分一秒が惜しい。とにかくさっさとモルのところに行ってあげてほしい。
あわよくば私もついていって新規供給を浴びたい。セブも私も巫女に構ってる場合じゃない。
「止せ、一人じゃ無理だ」
心配してくれるのはうれしいけど、今の私はもうその時間さえ惜しくなってる。
「行って。大丈夫。巫女は絶対私を殺せないから」
「……何か考えがあるんだな?」
「もちろん」
策ならある。こんなところで死んだりしない。だって私は、
「無茶しないって、モルと約束したから」
「……わかった。信じるぞ」
セブが魔法陣へと向かった、その時だった。
「行かせないって言いましたよね」
私たちの目の前で魔法陣が――溶けた。
「えっ怖っ」
現代日本くさいリアクション出ちゃった。床に描かれていた魔法陣が、表面の床材ごとドロドロに溶けて使えなくなってる。
何これ、こんな術原作にあった……?
「あーあ、残念。もう使えないですね、それ」
「いやあんたがやったんでしょ!?」
何他人事みたいにすっとぼけてるのこの巫女。ついツッコんじゃったわ。
ツッコんだのもつかの間、突然背筋に薄ら寒いものが走った。殺気……? 反射的にセブの方を見る。
「どうやら貴様を倒すしかなさそうだな、暁光の巫女」
最強の魔王の無慈悲な眼が、巫女を敵として捉えていた。
「あたし、あなたとは戦いませんよ」
巫女がそう言った直後、急に目の前が真っ暗になった。嘘でしょ、今の流れでいきなり私に攻撃来る?
体のまわりをドロドロしたものが流れてる。床の感覚がなくなって、足から引きずり込まれてるみたい。
想像だけど、足元の床が溶けて、私、下に落ちてるっぽい?
頭の上でセブの声が聞こえたような気がする。手を伸ばしたくてもドロドロに阻まれてうまく伸ばせない。
渦に呑まれてびしょびしょになったり、でこぼこの洞窟で命懸けスライダーしたり、今日の私ひどい目に遭いすぎじゃない? ほとんど自業自得だけど。
「痛っ!」
ドロドロから抜け出した私は、お尻から地面に着地した。
ここ、どこだろう? 真っ暗で何も見えない。てっきり下の階にそのまま落ちるんだと思ってたのに、よくわかんない場所に落とされちゃった。
「やっと、心置きなくあなたを殺せますね」
背後からいきなり声が聞こえて私は思わず悲鳴を上げた。その勢いで数歩ダッシュして急いで振り返る。
予想通りそこには暁光の巫女が立っていた。真っ暗な空間で、何故かその姿ははっきりとよく見えている。ホラーすぎるから本当にやめてほしい。
「ここはどこなの」
「フロアとフロアの間。通常のプレイだと入ることのない空間です」
えーっと……? もしかして、原作ゲームで壁とか床とかをすり抜けるバグ使ったときに通れるような、謎の真っ暗な空間のこと? それって勝手に入って大丈夫なやつ?
「どうやってこんなところに? それにさっきの技は何? っていうかセブはどこ?」
「面倒なので答えなくていいですか? どうせあなたはここであたしに殺されるんですから」
「冥土の土産に教えてくれたってよくない?」
まあ死ぬつもりはないんだけど。
「セブ様のことだけ教えてあげますね。セブ様は今頃血眼であたしを探してますよ」
よかった、巫女はセブに何か動けないような足止めをしてきたわけじゃなさそう。それなら大丈夫。
ってか、妄想~! セブが巫女を探してるとか、絶対そんなわけないから~!
「セブはモルのところに向かってるから」
私の反論を聞いた巫女は嘲るみたいに鼻で笑った。
「あなたを助けに来ないんですね」
「来るわけないでしょ」
セブは信じるって言ってくれた。契りの紐の気配も消えてる……今いる場所が謎空間だから、気配は根拠にならないか。でも万が一セブがここに来たら殴ってでも追い返す。
「来てもらえないなんて、可哀想」
「それはあんたも同じでしょ」
今のは地雷だったみたい。余裕ぶってた巫女の表情が歪む。
「いちいち癇に障りますね、はんぺんさん」
「花木さんが気にしすぎなんじゃないですか?」
やばっ、煽りすぎたかも。巫女の衣装が変わった。本気で殺しに来そう。
ってか待って。今巫女が着てる衣装……ウェディングドレスだ。原作のエンディングで着るやつ。
だけど、色が違う。本来真っ白なはずのドレスが、黒一色に染まってる。こんなの見たことない。
「その衣装……」
「可愛いでしょう? 苦労しましたよ、ここまでたどり着くのに」
私に見せびらかすみたいに、巫女はその場でくるりと回って見せた。
原作にない衣装。つまり、原作にないジョブ。私と同じ、巫女も原作とは違う道を進もうとしてる。
「あんたの目的は何?」
私の問いかけに、巫女はうんざりしたような顔で答える。
「何回も言ってますよね? あたしはセブ様を幸せにしたいって」
「でも、あんたの狙いは追加ルートじゃない。そうでしょ?」
半分当てずっぽうだったけど図星だったのか、巫女は黙り込んだ。
答えてもらえるかわかんないけど、ついでにいろいろ聞いちゃえ。
「セブに追加ルートのこと詳しく教えたんでしょ」
「もちろん。どうすればモルの命を救えるか、セブ様には知る権利がありますから」
やっぱり。断片的にしか伝えてなかった私も悪いけど、やっぱりこいつのせいだった。
「黒雲が晴れて平和になった世界で、モルは何もかも忘れて幸せに生きていたって教えてあげましたよ」
ひどい。そんなこと言ってセブを追い詰めたんだ。その選択がセブをどれだけ苦しめたか、追加ルートを見たなら知ってるはずなのに。
正直キレそう。けど、我慢だ。今聞かなきゃいけないことは他にもある。
「なんでセブにそんなこと教えたの? あんたは追加ルートに進まないんでしょ?」
そう、ここがおかしい。巫女の狙いが追加ルートに無いなら、わざわざセブに教える必要もないはず。
私に問い詰められても、巫女は悪びれる様子もなく平然としていた。
「魂の契りは、解消しますから」
「どうして?」
巫女がどうしてそこまで契りを解消させたがるのか、全然わからない。
だって、セブにとってモルの存在がどれだけ大きいかなんて、通常ルートでも追加ルートでも、わかりきってるはずなのに。
だから私は、次に巫女が告げた言葉が理解できなかった。
「モルと出会ってしまったことが間違いだったからですよ」
解釈バトル勃発の予感……!
追ってもう一話アップ予定です~




