3-10:クソデカボイスで国家侮辱
「信じて。私と一緒に、巫女を止めよう。巫女と、セブと、私たちのために」
私が差し出した右手を、ヴァニアはしばらくの間黙ったまま見つめていた。その視線が逸れ、唇が微かに震える。
「……無理だ」
「どうして……!?」
思わず聞いちゃった私を嘲笑うかのように、ヴァニアが言葉をぶつけてきた。
「君だって知ってるんだろ? 姫と同じ、異世界から召喚された君なら」
「……何のこと?」
どうしよう。確かに私も現代日本からやって来たけど、ヴァニアの言ってることに全然心当たりがない。っていうかヴァニア、どうして私がこの世界のものじゃないって……あっ、泉で慈雨の巫女として顕現されたときの儀式、最初から全部見られてた感じ?
「とぼけるなよ。こっちは風の精霊から全部聞いてるんだ」
ナチュリアの風の精霊。本来なら暁光の巫女とセブが倒すはずだったのを、ヴァニアが先回りして一人で倒しちゃったやつだ。
もしかして、精霊のやつが余計なことを喋っちゃったパターンですか?
「魔王がこの世界の理を歪めている」
うわ出た。土の精霊も言ってたやつじゃん。風のやつも言ってたの? いっぺんまとめてシメとかないといけませんね?
「魔王から魔力を取り戻さぬ限り、世界が滅びの道から外れることはない。魔王を倒せ。雨を止ませよ」
ムカつくけど、主人公側から見た悪役の言われようなんてまあこんなものか。それがナチュリアの総意ってことね。
「……これが、風の精霊に聞いた言葉。魔王の討伐は俺たちナチュリア王国の目的とも合致する」
そう。今は一時休戦になってるけど、本来ナチュリアとマテリアは領土をめぐって争い続けてる。
ナチュリアから見ればセブは敵国の王。世界最強の魔力を持つ、目の上のたんこぶみたいなもの。
倒せるものなら倒してしまいたいはず。原作の通常ルートみたいに。
「ヴァニアも、それが正しいと思ってる?」
私は、あえてヴァニアに問いかけてみた。四王子の中でただ一人、マテリアへの転移魔法陣を独自で確保して情報収集を続けていたヴァニアなら、きっと思うところがあったはず。
「……俺は」
ヴァニアはどこかためらうみたいに視線を泳がせた。
「俺は、マテリアの惨状をこの目で見てる。魔王は……無茶苦茶なやつだけど、自分の国を守るために戦ってるってことぐらい、俺にもわかる」
一つずつ選ぶように、ヴァニアは思いを言葉に変えてくれてる。
「世界のために誰かを犠牲にするなんて、本当は間違ってる。だから俺は、魔王に手を差し伸べようとする姫の優しさを、守りたい」
「ヴァニア……」
ちょっと見直したかも。ここまで巫女のこと想ってるのに報われないの、つらいな。
「……ただ、」
ヴァニアが、さらに言葉を繋げる。
「現実はそううまくいかない。姫の望み通り魔王を生かして世界を救うには、姫と魔王が結ばれるほかない」
「なんでっ……」
つい反論しようとした私の声に被せて、ヴァニアが言う。
「そうしないと、ナチュリア王国が魔王の存在を許さない」
……は? なにそれ。
「国の目的は魔王の討伐。討伐対象を生かしておくなら、相応の理由が必要だ。婚姻関係でも持ち出さないと、承認なんてしてもらえるわけない」
そんな理由で? そんな理由で追加ルートに進ませるってこと? そんな理由でヴァニアは自分の気持ちを我慢するわけ? そんなの、
「国がクソじゃん!?!?」
クソデカボイスで国家侮辱しちゃった。ごめんヴァニア。けど止められそうにないかも。
「まずなんでナチュリアはセブが世界のために死ぬこと前提にしてるわけ!? セブもモルも死なせませんけど!? つまりそもそも討伐とかいう目的は無効! だから婚姻関係も不要!」
私の剣幕にヴァニアが気圧されてる。まだまだこんなもんじゃ終わらないけどね。
「私はセブを死なせないで世界を救う。そのために慈雨の巫女になったんだから。ねえヴァニア、」
ヴァニアの肩がびくりと震えた。
「私の力はセブとモルがいないと使えない。二人が魂の契りを保っていてくれなきゃだめなの。だから私はセブと巫女を止めたい。私の、慈雨の巫女の力で、誰かが世界のために我慢したり犠牲になったりしなくていいように」
もう一押し、私の考えをヴァニアに届ける。
「巫女とセブをくっつける必要なんてないよ。そんなの世界を救った後でいくらでも好きにしたらいい。ヴァニアだって、国のために我慢しなくていい」
ヴァニアが、目を見開いてる。
「お願い、ヴァニア。私をセブのところに連れていって。一緒に巫女を止めて」
今度こそ。祈るような気持ちでもう一度右手を前に出して、あとは本当に目をつぶってひたすら祈った。
――差し出した右手を、ヴァニアの手が取った。
と思ったら、ぐいっと引っ張られた。
「ちょぉっ!?」
思いっきりバランスを崩した私は、勢いそのままに前へ倒れ込んだ。はからずもヴァニアの胸に飛び込む形になっちゃった。
ヴァニアの腕が私を支える。どうしよ、これあのハグされてるみたいな状態だと思うんですが……!?
「魔王のところに飛ぶよ。俺から離れないで」
「ふぁい……」
動揺しすぎて情けない返事しちゃった。そうだ、大事なこと伝えとかなきゃ。
「ごめん私まだ服濡れてるから、先にあの、巫女に使った乾かすやつを、お願い、人助けだと思って」
このままだとヴァニアだって不快だろうし。
「……」
……今、明らかに面倒くさって感じの顔された。でもすぐに柔らかな暖かい風が私を包んだ。か、乾いた~!
「ありがとうございます!」
「じゃ、飛ぶよ」
いよいよ、セブのいるところへ。近くまで来てくれてるモルには本当申し訳ないけど、オタク、飛びま~す!
***
周りで渦を巻いていた風が凪いで、辺りが静まり返る。砂埃が入らないように閉じていた目を恐る恐る開けると、そこにはどう見ても見覚えしかない玉座と、最強の魔王。
「……セブ?」
じゃないよね。
「ユキ!? オイ待てそいつナチュリアの!? 何がどーなってるんだよ!?」
「ピッピごめんね話せば長くなるからあとでね」
セブに変化したピッピがいるってことは、ここは紛うことなきマテリア王城、謁見の間。
「ヴァニア、どういうこと?」
「姫はなるべく『原作』に忠実にしたいって言ってた。原作だとマテリア城で魂の契りを解消するんだろ?」
そうか。一回しかやってないし思い出すのも苦痛だからすっかり忘れてたけど、原作の追加ルートで魂の契り解消の儀を行うのは、確かにここマテリア城だ。
そして、実際に儀式が執り行われるその部屋は。
「……モルの部屋」
セブとモルが魂の契りを結んだ場所。人としての体、寿命、名を与えられたモルが、魔王セブリオン・マテリアに仮初めの忠誠を誓った場所。
あの部屋に、巫女とセブがいる。
いよいよ運命のご対面です
次回更新は火曜!
引き続きよろしくお願いします~!




