3-5:戦闘のボイスは普段から考えておくべき
「まずは第四王子の部屋に向かう」
人けの少ない西の塔から侵入したモルと私は、魂の研究室こと第四王子スカルの部屋に向かうことにした。
セブもスカルに会いに行くって言ってたし、一番手がかりがありそうなのがここだ。
スカルの部屋はナチュリア城の一階西寄り、私たちが今いる塔から最も近いエリアにある。
「モル、私考えたんだけど」
塔を出る前に、私はモルにある作戦を伝えることにした。
「スカルの部屋には私一人で行かせて」
「は……?」
モル、何を言われたのか理解できないって顔してる。そりゃそうだよね。
「あの巫女のことだから、絶対罠を仕掛けてる。なら、二人同時に引っかかる必要はないでしょ」
「それならおれが」
「だめ。モルはセブを助けて。セブの居場所がわかるまで、モルは絶対無事でいて」
どんな状況だったとしても、単純に私の力だけでセブを救出できるとは思えないし、モルには万全の態勢でいてもらわないと。
それにセブのピンチを救うのはモルだってマテリア王国の法律で決まってますからね。知らんけど。
「駄目だ。由紀を守ると、陛下に誓った」
あ~!? 昨日のセブモル特大供給シーンのことですね!? それを出されちゃったら、もう納得するしかないですけど~!?
「うー……じゃあ、バレないようにこっそり見てていいから。でもなるべく手は出さないで」
「わかった」
というわけで、私は契りの紐でモルの気配を感じながら、一人で塔を出てスカルの部屋に足を踏み入れた。
……誰もいない。セブもスカルも、それどころか巫女やヴァニアの姿もなかった。
当てが外れた? ここにいないとしたら、いったい何処に……?
とにかく次の場所を探さなきゃ。そう思って部屋を出ようと振り返った瞬間、勢いよく扉が閉まった。
「やばっ」
急いで扉に向かったけど、押しても引いても鍵をひねっても、何をしてもびくともしない。 完全に閉じ込められた。そして、私にこんなことをするやつは一人しかいない。
「一人で来るなんて、相変わらず殊勝な心がけですね」
暁光の巫女……! いつの間にか姿を現していた巫女に、私は思わず一歩後ずさる。といっても、すぐ後ろには開かない扉。このままじゃあっという間に追い詰められちゃう。
その状況を見てほくそ笑むみたいに、巫女が口を開いた。
「どうせ、どこかに隠れてるんでしょう? ユキさんのピンチですよ? いいんですか、モル?」
「モルならセブのところに向かってる。だからここにはいない」
私の言葉を聞いた巫女は半信半疑な感じに見えた。けど、すぐに笑顔を浮かべて私に告げる。
「セブ様は、もうあなたたちの元へは戻らないそうですよ」
……は? 何言ってるのこの人。
「それあんたの妄想でしょ?」
「事実です」
暁光の巫女は悠々と言い放った。
「セブ様は魂の契りを解消してあたしと共に生きるって言ってくれましたから」
「妄想力たくましすぎでしょ」
どう考えてもセブがそんなこと言うわけないよね? 今日ここに至るまでの絶え間ないセブモル供給が、二人が離れ離れになるわけないって証明してますけど?
「可哀想な人。妄想だと思いたいなら勝手にどうぞ。じきにあたしとセブ様は魂の契り解消の儀を行います。そうすれば、あなたもモルも事実だって認めざるを得ないでしょう?」
ハッタリだ。モルを不安にさせるようなこと言っておびき出すつもりなんだ。この巫女、本当いい性格してる。
この会話に乗じてなんとか情報を引き出さなきゃ。
「だからスカルもいないってわけね」
「そうです。元々スカルは好感度最上位でしたから、手懐けるのも簡単でした」
「このまま追加ルートに進むつもり? 理論値最速はもういいわけ?」
「ああ、そんなこと」
……そんなこと? おかしい。この人、理論値最速でセブを迎えにいくために、172回も死亡リセットしたんだよね?
「そんなこと、セブ様の幸せに比べたらどうでもよくないですか?」
どうなってるの。何かがおかしい。考えなきゃ。
……いや、待って。そもそも理論値最速を出したいって、本当にこの人が言ってた?
私から聞いたときは否定されなかったし、ステータスの理論値は狙ってたはず。だから、てっきり最速でセブに会うことが目的だって信じ込んでたけど。
まさか、最初から別の目的だったってこと? もしかして、私と同じで原作にないルートに進もうとしてる?
「あんたの目的は追加ルートじゃないってこと? それなら……」
それなら話が変わってくる。追加ルートに進まないなら、私たちは協力しあえるかもしれない。
けど巫女は、私の言葉を容赦なく遮った。
「あなたに話す必要、ないですよね? あたしはセブ様と幸せになります。その未来に、あなたの存在は邪魔にしかならない」
あっ、これヤバいかも。巫女がスカルのナイフを取り出した。
部屋の中だからネクロマンサーの大鎌は使いにくいもんね。ってそんな冷静に分析してる場合じゃない。
「あなたも苦しみたくないでしょう? 即死効果が出るように祈っててくださいね」
絶対に嫌です。どうしよう。すぐ背後は開かない扉。逃げ場がない。なら、戦うしかない。
私はアイテム袋から持ってきた武器を取り出し、装備した。先端に魔晶石のついた、両手持ちの杖。
袋から出すと、杖は一メートルを超えるぐらいの長さに伸びた。金属製っぽい質感だけど、不思議と重くはない。
しっくりと手に馴染んだそれを、私は強く握りしめ、全力で振り回した。
「てええええええい!!」
「何……っ!?」
モルの術のおかげで、巫女にアイテム袋は見えてない。だから巫女視点だと私がいきなり武器を構えて振り回したように見えてるはず。
巫女はとっさに後ろへ下がった。チャンスだ。このまま押し切ろう。
スカルには悪いけど、部屋のものが多少壊れても気にしないで思いっきり振りまくるしかない。
「えいっ! このっ! あっちいけ!」
……もうちょっとカッコいい掛け声、出したかったな。でもとりあえずこれでピンチは脱したはず。
「……舐めないでください」
げっ、巫女が杖を止めた! ピンチ脱してないかも!
止められた杖がうんともすんとも動かない。嫌な汗出てきた。手が滑りそう。
「巫女になりたてのはんぺんさんと、育成が進んでいるあたし。勝ち目なんかないって、最初からわかりますよね?」
おっしゃる通りでございます。それでも、抗わなきゃ。
巫女に止められた杖が、そのまま奪い取られた。部屋の奥に投げ捨てられ、もう拾いにいけない。
逃げないと。巫女から目を離さないままで後ずさろうとした私を、巫女が突き飛ばした。
思いっきり尻もちついちゃった。地味に痛い。倒れ込んだ私に、巫女が馬乗りになってくる。さすがにヤバい。どうする。
「モルを呼ぶなら今ですよ、はんぺんさん」
巫女が余裕ぶって見下ろしてくる。ムカつく。絶対こんなところで負けたくない。
「いないって言ってるでしょ。あんた一人ぐらい私で十分だから」
「可哀想。じゃ、死んでください」
巫女がナイフを両手で構え、振り上げる。勢いよく振り下ろされた刃が、私の胸を貫いた。
さすがにピンチでは?
次回更新は日曜!→すみません月曜朝になります!
引き続きよろしくお願いします~!




