3-3:二代目慈雨の巫女ってことで何卒
セブとモルと私は隣国ナチュリアにある水の聖域……の、入口に転移した。これは原作からの仕様なんだけど、ダンジョン内に直接移動はできないんだよね。
「行くぞ」
一度クリアして開けっぱなしになってる扉から、セブの掛け声に応じて私たちは中へ足を踏み入れる。
クリア済みの聖域は、特に魔物が出てくるわけでもない平和な場所だ。二人に遅れないよう気持ち早めに歩きながら、私はふと思った。
そういえば慈雨の巫女ってどんなキャラなんだろう……?
まずい、原作に出てこないキャラだから、話し方とか全然わかんない。そもそもCVついてないから思いっきり私の声だし、別人だってバレバレだよね……?
「セブ、慈雨の巫女ってどんな人……?」
「知らん。二代目ってことにして乗り切れ」
そんなめちゃくちゃな。しかもどうしようか考える間もなく精霊の座に着いちゃった。これはもう当たって砕けるしかないやつ。
「まてりあのおうさま、ひさしぶり!」
水龍たん! 笑顔でしっぽふりふりしてて、か、かわいい~!
あ、水龍たんが二人の後ろにいた私に気づいた。
「あめのみこー!」
か、かわいすぎる~! 水龍たんがこっちに来てくれた! ちっちゃい! かわいい! 助けてさっきからキモいにやけ顔が止まらない。
わたしの目の前まで来た水龍たんが、止まった。しまった。オタクのキモいにやけ顔で怖がらせちゃったかも。
「あめのみこ、ちがうひと?」
即バレました。あまりの即バレっぷりにセブが笑いをこらえてる。
「ご、ごめんね水龍様。私、前の巫女とは別人っていうか、実はまだ慈雨の巫女になったばっかりで……」
「そうなの……」
しょんぼりさせちゃった。ごめん水龍たん。
「にんげんは、じゅみょうがあるから、しょうがないね……」
精霊は不死っぽい感じだもんね。かわいそうだけど、とにかくこっちは目的を果たさなきゃ。
「これ、返すね」
小さな真珠の耳飾り。水龍たんから借りていた、慈雨の巫女の装備品。
「ありがとー!」
大事な「おともだちのあかし」が戻ってきて、水龍たんは嬉しそうにくるくる回ってる。
「さて水龍。貴様の知ることを吐いてもらうぞ」
私は思わずギョッとした顔でセブの方を見た。この魔王、水龍たん相手にまた怖がらせるような威圧感を……!
「なぁに?」
あれっ? 水龍たんがおびえてない。一度戦ってるから、もうお友達認定されてるってことかな。
「俺たちは慈雨の巫女の力で酸の雨を止ませたい。だが、現状何をすべきかもわからない有り様だ。確か貴様の話では、慈雨の巫女が復活すればマテリアの精霊も復活するということだったな?」
「そうだよー」
水龍たんはふわふわ揺れながらのんきに答えてる。
「今のところそのような気配は感じないんだが、何か他にも手順が必要なのか?」
セブの問いかけに、水龍たんはしばらくうーんって言いながら考えてた。かわいい。
「みんな、きづいてないかも。あめのみこがおきたよー! って、みんなのおうちに、おしえにいってあげよー!」
「聖域を回れ、ということか」
「でも、聖域の場所って……?」
「それはすいりゅもわかんないの……」
ですよね。うん、水龍たんは悪くない。
仕方なかったとはいえ、臣下のほとんどをセブが処分しちゃったマテリア王国では、口伝の類がどこにも残ってない。蔵書室はあるけど、王を傀儡にし続けた負の歴史を持つこの国にまともな資料はあんまり残されてない。
「モル、何か手がかりはないか?」
こういうときセブが頼るのはやっぱりモルたんだよね! ありがとうございます!
だけどモルは目を伏せて、力なく首を左右に振った。
「申し訳ございません」
「モルでもわからねぇか……どうしたもんかな……」
みんなが頭を悩ませてる中、私は別の可能性を考えていた。もしかして、マテリアの精霊、存在してない、かも。
この世界は運営がゲームとして構築した世界。だから、データとしてプログラムされてないものはそもそも存在できない可能性がある。
たとえば私の声。本来なら慈雨の巫女の専用ボイスがつかなきゃおかしい。だけどそれは設定されてないから私の地声が出ちゃってる。
たぶん、慈雨の巫女の見た目だけは没データとして入ってたんだ。だけどジョブやステータスが設定されてるとは思えない。前世の私の運動神経の無さがそのまま反映されてるっぽいし。
それに追加ルートを何周もしたはずの暁光の巫女だって、マテリアの精霊についてはそこまで詳しくは知らなさそうだった。
水龍たんの話がどうにもあいまいなのも、マテリアに精霊の情報が全然残っていないのも、ストーリー上に設定だけ残して肝心の実装はしなかったからって考えれば合点がいく。
……問題は、これを正直に言ったところでこの世界の住民のセブたちにちゃんと伝わるのかってとこなんだよね。あまりにもメタすぎるっていうか。
「手間だが、地道に探し歩くしかねぇな。よし、マテリアに帰るぞ。邪魔したな、水龍」
セブとモルが挨拶もそこそこに帰ろうとする。頭に浮かんだ可能性をいったん振り払って、私も二人に続こうとした。
「あめのみこ、まって」
水龍たん? どうしたのかな。
「あめのみことすいりゅ、あったことあるね? おうさまといっしょにいた」
あー、私がセブの中に居候してたときのことか。
「うん、会ったことあるよ」
「じゃあすいりゅとあめのみこは、おともだち! これあげる!」
そう言うと水龍たんは何か取り出して私の手のひらに乗せてくれた。ちっちゃくて、きらきら光ってて、花びらみたいな薄い欠片。
「すいりゅのうろこ! だいじにしてね!」
ちょっと待って、激レアアイテムじゃん。『水龍の鱗』は水龍たんを特殊なやり方で倒した時にのみ低確率でドロップする、滅多にお目にかかれない超貴重品。
初戦ではまず取れないから、レベル上げ用のボス戦ダンジョンを解放して、そこでひたすら水龍マラソンをしてやっとゲットできるもの。それをこんな何の努力もせずに貰っちゃうなんて……!
「いいいいいいの? 本当に?」
「いいのー」
そっかー。じゃあありがたくいただいちゃおうかな。
この鱗、暁光の巫女の最強装備に必要なんだよね。私が持ってても使い道ないんだけど、せっかく貰えたしきれいだしレアアイテムだし、大事にしまっておこう。
水の聖域を出ると、セブが振り返って私たちに声をかけた。
「お前らは先に戻れ。俺はスカルに会ってくる」
まさかの別行動ですか? 一国の王ってこんな気ままな感じで大丈夫なのかな。
「会ってくるって、そんないきなり行って大丈夫?」
「問題ねぇ」
セブの体が黒い炎に包まれた。うん、変化の術ですね。
「この姿なら怪しまれねぇだろ」
背が少し縮んで、琥珀色の長い前髪が目を隠してる。スカルだ。
「由紀さんとモルさんは、ヴァニア兄さんの転移魔法陣を使ってください。ぼくはお城でぼくに会ってきますね!」
自由すぎるよこの人。
「かしこまりました。我が君の仰せの通りに」
魔王のこの自由奔放さ、正直モルがかなり助長してる気がするんだよね。ううん、気がするじゃなくて、実際に助長してると思う。
モルに気配を消す術をかけてもらって、私たちはナチュリアの城下町にあるヴァニアの転移魔法陣にたどり着いた。
使えなかったらどうしようって思ったけど、問題なく起動してくれた。
モルと一緒にこれ使うの久しぶりだな。私がピッピに変身して一人でナチュリアに忍び込んだあの日のことが頭に浮かんでくる。
あのときモルはセブの体を私が動かしてるって気づいてたんだよね。モルにとって大切な主の体でいっぱい無茶なことして心配かけて、悪いことしちゃったな。
「モル、あのときはごめんね」
「陛下がご無理をなさるのはいつものこと。それを支え、お守りするのがおれの仕事だ」
モルたん、覚悟決まってるな……。日頃から自由すぎるセブに振り回されてきたんだろうな。
「……お前は」
モルの銀色の瞳がじっと私を捉える。
「陛下とは、違う。もう、あんな無茶はするな。陛下を悲しませるな」
心配してくれてる。不器用で遠回りですっごくわかりづらいけど、モルは優しい。
「うん。ありがと、モル」
「……帰るぞ」
転移魔法陣が発動し、モルと私はマテリアへと送られた。
精霊本当にいなかったらどうしよう
次回更新は木曜!
引き続きよろしくお願いします~!




