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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第3章:推しと世界

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3-2:はからずも聖地巡礼

 勢いよく開け放たれた扉の向こうに、モルが立っている。その足が一歩、また一歩、主のもとへ近づいてくる。

 いけない、このままじゃ私、主従の間に挟まっちゃう。

 素早く立ち上がった私は、音もなく壁際に移動して正面から二人をバッチリ観察できるベストポジションを確保した。


「我が君、お加減はいかがですか?」


 モルはベッドサイドに近づくと、主の枕元でそっと跪いた。心配そうに小首を傾げたモルの銀髪が揺れる。

 私からは見えないけど、セブの視点からだと内側の薄紫色がチラッと見えたはず。この事実だけでご飯百杯はいける。


「問題ねぇ。心配かけたな」


 セブはそう言って起き上がろうとするけど、どう見てもまだ苦しそう。そんなのモルたんが許すわけないよね。


回復職の者(ヒーラー)からしばらくは安静に、とのことです。今日はゆっくりお休みください」


 起き上がろうとしたセブを優しく押し戻しながら、諭すみたいな口調でモルが言った。物腰は柔らかいけど、今日は絶対に起きるなっていう強い意志を感じる。


「城のことは私にお任せを。慈雨(じう)の巫女顕現の公表は、後日正式に執り行いましょう」


 主の気がかりを先回りして潰しておくことで何としても休ませようとする、従者の鑑ですモルたん。

 だけどセブはまだ何か言い足りないことがあるみたい。


暁光(ぎょうこう)の巫女と第三王子に警戒しろ。城じゅうの監視を怠るな。いざとなったら俺が……」


 そう言いながら力なく伸ばされたセブの手を、モルが取った。跪いたままの姿勢で、その手の甲にモルの顔が近づいて……髪で見えない!

 モルの髪がちょうどカーテンみたいになって見えなかったんですが!? けど、今、絶対手の甲に、キスしましたよね!? しましたよね!!??


「ご安心ください、我が君。由紀は必ず守ります」


 こんな、こんな主従の特大供給を、この距離で浴びちゃった……涙出てきた……。

 壁になってよかった。人生一周分を軽く越える供給だったと思う。

 あっ、セブが気まずそうな顔で私の方見てる。たぶん今、凄まじい勢いで魔力が回復したんだと思う。けどどう考えても気まずいのは私の方なんだから、そんな顔しないでほしいな?


 セブにはゆっくり休んでもらおうってことで、私とモルは部屋から出た。ついでにモルがこの先私が使う部屋に案内してくれることになった。


「ここだ。自由に使え」


 案内された部屋には簡素なベッドと収納、机と椅子、それから大きな窓があった。なんだろう、この部屋どこかで見たことある気がする。


「何かあればおれを呼べ。場所は……わかるな?」


 そう言ってモルは私の左手首の契りの紐に視線を落とした。この紐のおかげで、セブの体から出た今も私はセブモルGPSに組み込まれている。


「うん。ありがとう、モル」


 モルを部屋から見送って、私は何となくベッドに腰かけたり、窓を開けてみたりした。

 マテリア城は高い城壁に囲まれてるから、窓を覗いても城下町の様子はあんまりよく見えない。

 代わりによく見えるのは、空一面を覆った魔天蓋(まてんがい)。酸の雨を防いでくれる、この国にとっての存続の要。セブの魔力の大半を食いつぶしているもの。

 これに力を捧げてるせいでセブモルが……って思うと嫌だけど、見た目だけならわりと気に入ってる。ただのゴツい黒い石かと思わせて、実はカラフルな蛍石があちこちに散りばめられてるから結構きれいなんだよね。


 しばらくの間魔天蓋を眺めていた私は、ある違和感を覚えた。

 契りの紐の効果で伝わってくるモルの気配……近くない? さっきからずっと、すぐ隣の部屋にいる感じなんですけど。


 意を決して部屋を出て、私は隣の部屋の扉をノックした。


「どうした?」


 やっぱり。モルたん、隣の部屋にいたんだ。


「あの、もしかしてここって」

「おれの部屋だ」


 なんということでしょう。隣の部屋に推しが。


「ちょっと入ってみてもいい?」

「ああ。好きにしろ」


 やった! 欲を出してみてよかった! ここで新たなセブモル供給に繋がる何かが見つかるかもしれないからね!


「お邪魔しまーす」


 モルの部屋は想像通りシンプルだった。というか、置いてるものがほぼ私の部屋と同じ。大きな窓があるのも一緒。このフロア、同じ作りの部屋がいくつか並んでるのかも。


 そしてやっぱり見覚えがある。しかもさっきの私の部屋よりこっちの方が記憶に近い気がする。

 簡素な家具。大きな窓。窓から見える魔天蓋。そして……私の部屋にはなかった、部屋のすみに不自然に空いたスペース。


「モル、この部屋って」

「かつて陛下がお使いになられていた部屋だ」


 やっぱり!? そういうことだよね!? 部屋のすみのスペースは、昔ピッピが置かれてた場所。ここは、臣下たちに利用されてただ国のために魔力を捧げ続けてた頃の、セブの部屋。

 つまり、セブとモルが初めて出会った部屋だ。この大きな窓。ここから蝶だったモルが飛び込んできたんだ。


「聖地じゃん……」


 つい心の声が漏れちゃった。モルは意味がよくわからなかったみたいでキョトンとしてる。

 この部屋で、モルは人の姿を与えられて、セブのしもべとして魂の契りを交わしたんだ。す、すごい場所にお邪魔しちゃった。感動で泣きそう。


「ありがとうございました……」


 謎に感極まって頭を下げてる私を見てモルが戸惑ってる。わざわざ説明するのもややこしいから、ごめんだけどスルーさせて。

 困惑するモルにひたすらお礼を言いまくり、聖地の余韻を噛みしめながら私は自分の部屋に戻った。


 ***


 次の日。すっかり調子を取り戻したセブに呼ばれ、モルと私はセブの部屋で作戦会議をすることになった。もちろん部屋にいるピッピも一緒に。


「俺たちの果たすべき目的は一つ。酸の雨を止ませること。以上だ」


 そう、やるべきことは単純。とにかく雨を何とかして、これ以上セブが魔天蓋に力を捧げなくてもすむようにする。それが、セブとモルが悲しい結末を回避できるたった一つの道だから。


 そしてこの道には大切な条件がある。


「二人が魂の契りを維持できるようにすること」


 たとえ黒雲を払い酸の雨を止ませる手段があったとしても、セブとモルが今の関係性を失っちゃうなら意味がない。

 原作のやり方、暁光の巫女のやり方とは違う方法で、この世界を救う。慈雨の巫女にしてもらえた私なら、できるはず。


「だな。で、どうするかだが……」

「あ゛っ、ちょっと待って!」


 いきなりで本当ごめんだけど、大事なこと思い出した。


「何だ?」

「これ、水龍たんに返さなきゃ!」


 私は耳についてたアクセサリーを外して手のひらに載せた。水龍たんの思い出の品、慈雨の巫女の耳飾り。


「……ああ」


 絶対忘れてただろこの魔王。私も人のこと言えないけど。


「水の精霊か。何かのついででいいだろ」

「よくないわっ!」


 指切りまでして約束したでしょうが。絶対すぐ返しに行かなきゃだめです。


「ユキ、オメー精霊のことたん付けで呼んでんのかよ……」


 ピッピがちょっと引いてる。


「まあ、モルたんもモルたんですし……」

「たんを付けるな」

「ごめんなさい」


 そのうち私ごめんなさいの代わりにありがとうございますって言っちゃいそうで怖い。


「陛下」

「何だ」

「水の精霊は慈雨の巫女のことを詳しく知っているはず。これを返しに行くついでに、慈雨の巫女が持つ力について情報を得てはいかがでしょう」


 モルたん、ナイスアシスト! 実際、原作に登場しない慈雨の巫女については私も全然わからないし、セブもモルも特に何か知ってるわけじゃない。

 黒雲の払い方も手探りだし、情報が増える分にはセブも反対しないでしょ。


「わかった。そういうことなら早い方がいいだろ」


 というわけで、私たちはナチュリアに行くことになった。目指すは水龍たんのいる水の聖域。

 せっかくナチュリアに行くんだし、ついでにスカルとも話したい。兄王子たちの様子を聞いておきたいし、ついでに暁光の巫女と第三王子ヴァニアの行方も確認できるといいんだけど。



遅くなりすみません……!

次回更新は火曜!

引き続きよろしくお願いします~!

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