3-1:【ゆる募】知名度
皆さん、ごきげんよう。お元気ですか? 現代日本産限界オタク、由紀です。
ついさっきまで私、推しの体に居候してたんですが、このたび慈雨の巫女として自分の体を手に入れ、見事脱出に成功しました~!
これで心置きなく最推し主従を横から眺める至高の「壁」ライフが始まる……はずだったんですが。肝心の推し、世界最強の魔王セブリオン・マテリアがぶっ倒れまして。
しかも倒れたセブが待てど暮らせど全然目を覚まさない、と。仕方ないからもう一人の推しである完璧な従者モルと、なぜかいろいろ手伝ってくれる隣国の第四王子スカル、そしてオタク私の三人でがんばってセブをお城まで連れ帰った、それが今。というわけです。
「つ……着いたあぁ……」
えっと、早速訂正させてください。三人でセブを連れ帰ったって言ったけど、嘘です。
運んでくれたのは私以外の二人。というかほぼモル。私はついていくだけで精一杯。
超インドア派オタクの私に体力なんてものは備わってないわけです。絶対これ前世の運動不足がステータスに反映されてる。
「由紀さん、大丈夫ですか?」
スカルの心配が沁みる。道中も何回も振り返って声かけてくれたんだよね。
「なんとか大丈夫……」
一方モルは息も絶え絶えの私に構うことなく城の入口に向かって兵士たちに指示してる。
「陛下のご帰還だ。回復職の者を集めろ」
そのままセブを背負って城内に入ろうとするから、私とスカルは急いで後についていく。
……そこまではよかったんだけど。なんと私、入口で思いっきり門番に止められちゃった。
「何者だ!?」
そっか、私もうセブじゃないんだ。冷静に考えなくても部外者じゃん。「どうも~慈雨の巫女で~す」って名乗ったとしても「いや誰やねん」ってツッコミ来ちゃうよね絶対に。どうしよう、知名度がほしい。
先に行っていたモルが城内からこっちに声をかけてくれた。
「あとで説明する。通せ」
これだけ。この一言で私を城内に通しちゃった。強すぎるこの人。
ついでに本来なら部外者のスカルもしれっと通しちゃった。さすがすぎる。
ひとまずセブを部屋まで運んでベッドに寝かせたけど、相変わらず目を覚まさない。
しばらくすると、モルが集めてくれた魔王軍の回復職の人たちが入ってきた。作業の邪魔になっちゃいけないから、私とスカルは一度部屋の外に出る。
とはいっても、出たところで行くあてもないんだよね。仕方ないからそのまま廊下で待っていると、スカルが気を利かせて話しかけてくれた。
「魔王様の魂は今眠っている状態です」
さすが人の魂覗ける系王子。眠ってるってことは、私と交代してたときみたいな感じかな。今は交代先の私がいないから動けなくなっちゃったってことか。
「そっか。原因ってわかる?」
「わかりません。けど……」
スカルが言い淀んでる。それで何となく私も勘づいちゃった。
魔力の使い過ぎ、だよね。きっと。私を慈雨の巫女としてこの世界に顕現させるのに相当力を使ったんだと思う。
私が難しい顔しちゃってたのか、スカルが慌てて声をかけてくれた。
「ゆ、由紀さんのせいじゃないです! 魔王様もきっとそう仰ると思います!」
私もセブならそう言うと思う。セブはそうやって自分一人で抱え込もうとする。
「ありがと、スカル」
「由紀さん、僕は一度ナチュリアに戻ります。ヴァニア兄さんと巫女さんのこと、ルビー兄さんたちに報告しないといけないので」
「わかった。スカル、何から何まで本当にありがとう」
「転移装置、お借りしますね。モルさんによろしくお伝えください」
スカルが去ったあと、私は廊下の壁にもたれてぼーっとしていた。程なくして、セブの治癒にあたってくれてた回復職のリーダーとモルが部屋から出てきた。
セブの意識はまだ戻ってないみたい。原因は不明。とはいえ恐らく魔力の枯渇だろうからまずは休息、しばらくは安静に、ってことらしい。
「由紀」
回復職のリーダーが部屋に戻ると、モルが私に声をかけた。
「おれは陛下の代わりにこなすべき執務がある。お前は陛下のお傍にいてくれ」
待って? 何言ってるのモルたん? セブが目を覚ましたとき最初に視界に映るべき顔は、モルたんに決まってるんですけど!?
「大丈夫。私はマジで大丈夫だからモルが傍にいてあげて。ほら王様の仕事なら私だってできるし余裕だし」
ついオタク特有の早口でまくし立てる感じになっちゃった。ごめんモルたん。
「駄目だ。今のお前は正体不明の部外者だ。城の者に怪しまれる。陛下のお仕事を任せることは出来ない」
き、厳しい……。でも正しい。いくらできるって主張しても、部外者の私じゃセブの代わりは務まらない。
「由紀、おれの代わりに我が君を頼む」
ファ~ッ!? お、推しにそんな風に頼まれちゃったらオタクは断れませんけど!?
「わかった。セブが目を覚ましたらすぐ知らせるね」
「いや、必要ない。言われなくとも把握できる」
魂の契り、便利すぎる。前より便利になってない?
***
そんなわけで、私は今セブの部屋にいる。回復職の人たちは今できることを一通りやってくれたみたいで、一旦全員引き上げてる。
この部屋、しばらく足を踏み入れることもなくなるかなって思ってたのに、即戻ってきちゃったな。
「ユキ~! セブリオンの体から出れたんだな! よかったじゃねーか!」
タヌキモモンガのぬいぐるみピッピが嬉しそうに声をかけてくれた。主がピンチだっていうこんなときでも、ピッピは自分のことみたいに喜んでくれる。本当、使い魔の風上にも置けないやつ。
「ありがとピッピ。セブがいい感じに作ってくれたよ」
「そいつはよかったなー。で、そのセブリオンは眠っちまったってことか」
「……私が慈雨の巫女になるために、たくさんセブの魔力使っちゃったから」
ピッピの言葉にそんな意図は全くなかったと思うけど、やっぱり私のせいでセブを苦しめちゃったって思うとやりきれない。
「オイオイ、ユキを巫女にするって言いだしたのはセブリオンだろ? 気にすることねーって」
「でも……」
「セブリオンはつえーよ。ユキ一人増えたとこでどーってことねーって」
そう、だといいんだけど。
「つーかユキがそんなこと言ってたら一番セブリオンの魔力使ってるあいつの立場はどーなるんだよ」
「モルたんは特別だから。セブにとってこの世界のどんなものとも替えの利かない、特別な人だから」
世界を敵に回しても、それでも手放せなかった、たった一人の従者。
セブにとってこの世界は、ただ自分の魔力を奪い続ける酷い場所だった。
モルだけが、生まれて初めて、自分から魔力を注ぎたいって思えた特別な存在だったんだ。
「ユキー、せっかく『壁』になれたんだろ? 楽しまねーともったいねーって!」
「……そうだね。ありがとピッピ」
落ち込んでても仕方ない。ピッピに気をつかわせちゃうだけだし、とにかく今はセブが目を覚ますまで元気に待とう。
……っていうか、今こそ私の出番じゃない?
判明したてほやほやの新事実「私がセブモルに萌えるとなぜかセブの魔力が回復する」を発揮すべき時、今でしょ。
正直セブが心配でそれどころじゃないんだけど、そうも言ってられないよね。病める時も健やかなる時も妄想。それがオタクの嗜み。今こそ日頃の鍛錬の成果を発揮しなくちゃ。
というわけで、本日のセブモル妄想~! たとえばここにいるのが私じゃなくてモルだったら!?
いや、だめだこのテーマ。申し訳なさが押し寄せてくる。モルたんだって本当はずっと付きっきりでいたいはず……!
あの時だってそうだった。二日前、目を覚ました私がゆっくりと起き上がったらベッドのへりにモルが顔を伏せて眠っていたあの時。うなされてたセブを心配して、モルは夜通し傍で見守り続けたんだ。
それにしても、あれたまんなかったですね……寝起きのモルたん。
めったに拝めないっていうか私のようなオタクが見ることなど到底許されないはずの、寝ぼけた感じのモルたんが、ちょっと眠そうに顔を上げたときにチラッと、あの、髪の、内側の……紫……!!
主の魔力の色……セブとモルたんが魂の契りを交わした証……と、とうとい……!!
「っ……」
ままま待って? セブが起きそう。もしかして今ので回復しちゃった感じですか?
「由紀……」
うわーどうしよう助けて無理目を覚ました推しが私の、私の名前を、呼……。
「我が君!!」
モルたん、はっっっや。
はっっっや。
というわけで第3章、始まりました~! 評価・感想・リアクション、何でもいただけるととってもとっても励みになります!
引き続き火・木・土・日に更新予定、次回更新は日曜、明日です!
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