2-26: 初めまして、だな
※若干の出血描写があります……!
私の推し。最強の魔王セブリオン・マテリア。ついさっきまで私の魂が居候してた場所。
その推しが私を見てる。紫水晶の瞳が私を捉えてる。
「初めまして、だな」
「全然初めましての感じしないけどね」
あ、私の声だ。慈雨の巫女になったからってCVつくわけじゃないんだね。
私の返事を聞いてセブがいきなり笑いだした。
「お前、元気そうじゃねぇか」
そうなんですよ。巫女の初登場ムービーの流れは私の記憶経由でセブに共有してた。だからセブはぶっ倒れる私を受け止める気満々だったはず。
ごめん。オタクが想定外に元気いっぱいで。
セブがこっちに近づいてくる。私と同じ契りの紐を結んだ左手が、私の顔の方に伸びてくる。その指先が、真珠の耳飾りに触れた。
「よく似合ってる」
きょきょきょ距離感~~~~!? いやまあ本来の想定ではもっと近いはずだったから今さらではあるんだけど、やっぱりこの近さはモルにしか許されないはずでは!?
噂をすればモル! 凄まじい勢いでこっちに向かってますね!? クソオタクが大切な主に至近距離まで近づいて申し訳ございません~!!
金属が金属をはじき返すような、鋭い音が響いた。見ると、剣を抜いたモルが私たちに背を向けて何かに対峙してる。
「邪魔です、消えてください」
暁光の巫女――! やっぱり来たんだ。ネクロマンサー衣装で、手には大鎌。殺意マシマシって感じ。
「邪魔は貴様だ。消えろ」
モルが守ってくれたんだ。昨日部屋に来たモルの言葉を思い出す。
「巫女さん……!?」
スカルが困ったような顔で慌てて巫女に声をかけてる。
「どうして魔王様たちを攻撃するんですか!?」
巫女は後ろに跳んで間合いを取ると、スカルをじろりと睨みつけた。
「魔王様たち? 私が今から殺すのは、ユキさんだけですけど?」
スカルがびびって涙目になってる。同情はするけど、今のはオタクの地雷を踏んだスカルが悪いと思うよ。
「貴様の好きにはさせん。死ね」
モルも巫女以上に殺意マシマシだった。
今の私は巫女に真正面から命を狙われてる。控えめに言って大ピンチだけど、心は落ち着いていた。
こっちにはモルがいるし、セブもいる。ただのオタクを守らせるなんて正直申し訳ない気持ちしかないけど、とはいえ世界最強の主従二人がいれば怖いものなんてないでしょ。
最悪スカルが巫女の側についたとしても、なんとかなるはず。
「その余裕、いつまでもつか楽しみです」
巫女が大鎌を振りかぶった。迫る刃をモルは余裕でかわして私とセブに守護の術をかけながら、鎌を持つ巫女の手を狙い正確な一撃を叩き込んだ。
「ぬるいですよ」
――よけた。巫女がモルの剣を見切った? あり得ない。
巫女が鎌を返し反撃に出る。その身のこなしは水龍たんと戦ったときとは比べ物にならないぐらい鮮やかだった。巫女、相当レベル上げてきてる。
もちろんこんな反撃をモルは喰らったりしない。けど、油断はできなさそう。一歩退いて、冷静に巫女の動きを観察してる。
「あれ、いいんですか? あたしを自由にさせて」
巫女の目が怪しくきらめいた。まずい。モルもすぐに気づいて一気に間合いを詰め、攻勢に出る。
「そうそう、それでいいです。じゃないとあたし、あなたの大切なユキさんを直接攻撃しちゃいますから」
マテリア侵攻で巫女が使った術。スカル由来の、地面から相手の魂に直接攻撃する術だ。今の私があれを喰らったらきっと一溜りもない。
オタクの体をセブに抱えさせるわけにもいかないし。
いやそんなことより、私には今ここで何としても主張しておかないといけないことが。
「モルたんの大切な主はセブリオン・マテリアであって私じゃないんですが!!??」
思ってたよりクソデカボイス出ちゃった。隣でセブがちょっとだけ驚いてる。スカルはもっと驚いてると思う。
巫女も怪訝そうにこっちを見てる。
「たんを付けるな」
「ごめんなさい」
推し、冷静~!
私のクソデカボイスで巫女に生じたほんのわずかな隙をモルは見逃さなかった。
大鎌を剣で払い、構えが解けたところに刺突を撃ち込む。
巫女はギリギリなんとか致命傷を避けた。けど、黒いワンピースのお腹のところが破けて血がにじんでる。
「次で終わりだ」
剣についた血を振り払い、モルがゆっくり歩いて巫女に近づく。
だけど、巫女の方も余裕を崩してない。大ピンチのはずなのに、何かおかしい。
「離れろ、モル!」
突然セブが叫んだ。その声に反応し、モルがすぐさま巫女から距離をとる。
さっきまでモルがいた位置に、魔力でかたどられた矢が次々と撃ち込まれた。その色は、緑。
「大丈夫? 姫」
風を司るナチュリアの第三王子、ヴァニアだ。嘘でしょ、ここまで巫女についてきたってこと?
「……」
巫女が一番驚いてるかも。金輪際声も聞きたくないとまで言って拒絶した相手が助けに来たんだもん、そりゃびっくりするよね。
モルはもう一度守護の術をかけ直してくれた。
「私の注意不足で陛下にご心配をおかけし申し訳ございません」
「気にするな。次に備えろ」
そう言いながらセブが私を庇うように少し前に出る。
「由紀、俺の傍から離れるな」
「わかった」
斜め後ろから見る推し、良すぎる。良すぎるけど、このままだとモルが二対一で戦うことになるよね。援護にいかなくて大丈夫かな。
「……つっても、今の俺は戦える状態じゃねぇ。この場はモル頼みだ」
そうだった。この人魔力使い果たしてる。スカルもきっと同じだよね。ピンチじゃん。
「姫の敵は俺の敵。姫が望むなら、君もその娘も……実の弟だって手にかけてみせる」
こっわ。スカルもショック受けてる。覚悟決まりすぎてるよこの第三王子。
モルを睨んでたヴァニアの翠玉の目が、セブに狙いを移す。
「本当は魔王様、貴方も殺したいところだけど。姫が望まないからね。今日のところは諦めるよ」
「やれるものならやってみることだな。こちらはいつでも構わんぞ」
普通に煽ってる……そうか、戦えないってバレないようにしてるんだ。
「その言葉、忘れないでよ」
ヴァニアが不気味に笑った。モルがその声を阻むように切先をヴァニアに向ける。
「貴様が陛下に近づくことなどない。王子だろうが巫女だろうが、何びとたりとも陛下にも由紀にも触れさせはしない」
モルたん……頼もしい……!
「その減らず口、すぐに利けなくさせてやるよ」
ヴァニアが腰の後ろに差していた片手剣を抜いた……ちょっと待って。これまずいかも。
「モル気をつけて! そいつ、かなり強くなってる!」
私が言ったのが先かヴァニアが動いたのが先か、一瞬のうちに間合いを詰めたヴァニアが剣を横に薙いだ。
すかさずモルは防いだけど、急すぎる攻撃のせいで体勢が崩れてる。
ヴァニアが続けざまに打ち下ろし、斬り上げた。その最後の一撃がモルの肩口を掠める。
「モルっ!!」
モルもただではやられない。攻撃が通って少し油断したヴァニアの胴を思いっきり蹴飛ばすと、距離を取ってすぐに体勢を整えた。
「……おい、どうなってやがる」
セブが動揺を隠しながら低い声で私に問う。
「……ヴァニアが」
ヴァニアは最初の攻撃で弓を使ってた。でも今は片手剣を使ってる。
この組み合わせで武器を装備できるのは、原作だとあれしかない。
「あいつ、隠しジョブとってる」
あと2話ぐらいで終われるかな……!?
次回更新は日曜!→度々すみません火曜になります……!
引き続きよろしくお願いします~!




