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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第2章:推しと対話

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2-24:泉がヤバけりゃ魔王もヤバい、いろんな意味で

 かつて「慈雨(じう)の泉」と呼ばれていたその場所は、酸の雨が降り注ぐ死の地になっていた――ヤバくない? 儀式どころじゃないんですけど。


魔天蓋(まてんがい)が崩れたか」


 モルにつられて見上げると、泉の上空にぽっかりと穴が開いていた。空を覆っていた魔晶石の天井が崩れて、酸の雨が垂れ流しになっちゃってる。

 これってセブしか直せない、よね。一刻も早く起こした方がいいよね。


 私は持ってきたビンを開け、モルたん特製目覚めのハーブドリンクを一気に飲み干した。改良に改良を重ねられた今のドリンクは本気でおいしい。市販できるレベル。

 これを飲めるのももう最後だし、本当はちゃんと味わって飲みたかった。でも今はそんなこと言ってられない。

 っていうか、まわりに漂う腐臭と酸由来のツンとした臭いがきつくて、とてもじゃないけどじっくり味わうなんて無理。


(セブ、起きた? 出番だよ)

(……ああ、了解だ)


 起き抜けに申し訳ないけど、事は一刻を争うからね。私が魔天蓋の穴を見上げたら、セブはすぐ状況を把握してくれた。

 さっそく体の主導権を交代する。これが最後の交代……なんだけど、感傷に浸る余裕がない。


「下がっていろ」


 交代を察してくれたのか、モルとスカルはセブの声に従ってすぐ泉から離れた。二人の動きを確認したセブは魔剣ダモクレスを手にすると、その切っ先を大地に突き立てる。

 魔剣の先から大地へ魔力が送り込まれていく。砕けて地面に散らばっていた魔晶石の破片が、送り込まれた魔力に囚われてひとつ、またひとつと浮かび上がってくる。


 それらが徐々に集まって、ぽっかりと空いた穴を塞いでいく。ものの数分で魔天蓋は見事に補修された。


「これで雨の心配はなくなった。あとは……さすがに荒れすぎか?」


 確かにちょっと荒れすぎかも。どろどろに溶けた岩の柱。草花が生い茂ってたはずの大地は腐り果てて悪臭を放ってる。泉だった場所はヘドロが溜まってるし、どこもかしこも無残な有様だ。


「水の精霊でもいりゃ浄化してくれそうなもんだが」


 残念だけど、精霊の祝福をもらったからといって好き勝手に精霊を召喚できるみたいな特典はない。

 困ったな……いざとなったら腹くくるけど、できればもうちょっときれいなとこで慈雨の巫女になりたい。新しい体がいきなりヘドロまみれになるのはさすがにつらい。


「大地のことなら、ぼくに任せてくださいっ」


 スカルだ。そういえばこの子、土を司る王子だった。


「このぐらいなら、なんとか……!」


 スカルが深く呼吸しながら、大地に両手をかざした。手の平に琥珀色の温かい光が灯る。その光が腐った大地に生命を与え、浄化していく。


「元の姿へお戻り」


 きつい腐臭がちょっとずつ弱まってきた気がする。どろどろに溶けていた地表もなんだか息を吹き返してるみたい。


「魔王様、手を貸してください」


 言われるがままセブが右手を差し出すと、スカルはそっと手を繋ぎ、空いている方の手に光を集め、強めた。


「土の精霊様の祝福の力をお借りします」


 スカルの光で腐り果ててた大地はきれいに蘇り、おまけに新芽が芽吹き始めた。すごい。


「ご協力ありがとうございます、魔王様」

「あとは水だな」


 大地はきれいになったけど、肝心の泉は枯れたまま。どこかから引いてくる当てもないし、水を司る王子カインは今ここにいないし。


「面白ぇことを思いついた」


 ……セブがこれ言う時、だいたいろくでもないことになる気がするんだけど。見覚えのある黒い炎が目の前を覆う。嫌な予感しかしない。


「――よし。やるか」


 この声。間違いない。


「カ、カイン兄さん!?」


 変化(へんげ)したんだ。ナチュリア王国第二王子、水を司るカインに。


(お前の記憶借りるぞ)

(あっ、はい)


 もしかして、記憶を覗くのに許可取ってくれるようになった? とうとう推しに倫理観というものが根付き始めた感じですか?


「なるほど、こんな感じ……か?」


 カインになったセブの手に青い光が集まってきた。泉には大きな魔法陣が描かれ始めてる。

 この魔王、私の記憶からカインの見よう見まねで水の上級術使おうとしてるんだ。何でもありか。


「で、精霊の祝福とやらを借りて……」


 うわ、水が湧いた。泉の真ん中からどんどん水が湧き出してヘドロを押し流してく。

 カインの声で詠唱を終えるころには、澄んだ清らかな水が泉を満たしていた。


「お見事です、陛下」


 モルたんからの褒めが発生ィ! ありがとうございますゥッ!


「んじゃ、やるか」


 元の姿に戻ったセブとスカルが頷き合う。始まるんだ。とうとう、私が慈雨の巫女になる。


「では、いきます」


 あれっ待っていきなり? 何か段取りの説明とかないわけ?


「心配すんな。俺らに任せとけ」


 いやいやお気持ちはありがたいけどさ、何がどうなって慈雨の巫女になれるのかは把握しときたいな!?


「まず、魔王様と由紀さんの魂を切り離します。そこに魔王様が魔力を注ぎ込んで、由紀さんを慈雨の巫女としてこの世界に顕現させます」


 なるほどね? 説明ありがとう、スカル。つまり私は一旦魂の状態でセブの体から出るってことかな?


 あっ、なんか視界が二重にぶれだした。浮かび上がってる?

 うわぁ待って、私だけセブから浮いてる!? これ、あれです。幽体離脱ってやつです。待って怖いどんどん浮き上がってくんだけど!?


「大丈夫ですよ由紀さん! ぼくがしっかり捕まえてますから。気にせず、スポッと、出ちゃいましょう!」


 そんなノリでいいのか?? えーい何もわかんないけどなんとかなれー!


「っ……!」


 出た! なんかわかんないけど出た感覚あった! 私、とうとう推しの体から外に出ました~!!


 セブが私の足元にいる。かなり浮かんでるんだ私。私が出た瞬間にふらついたセブを、モルがしっかり支えてる。


「セブ、大丈夫!?」

「由紀さん」


 スカルが私に声をかけた。


「今の由紀さんの声は魔王様には聞こえません」


 えっそうなの?


「……あいつの声がしねぇ」


 セブの言葉にモルが少し目を見開いてる。


「成功です。今、由紀さんの魂は魔王様から完全に切り離されました」

「あいつは……由紀は今どこにいる?」

「今はこの辺りにいますよ。ちょっと待っててください、すぐ見えるようにしますから」


 スカルが詠唱を始める。そっか、私今浮遊霊なんだ。セブたちからは見えないんだ。ということは。


 今のうちに間近でセブモルを観察するチャンスじゃない!?


 早速セブモルを……いや待って。二人の距離、近。

 もちろんわかってます、これは決してわざとじゃなくてセブがふらついたのをモルたんが支えてるだけだから仕方ないと言いますか不可抗力と言いますかですね。いやしかしだな。近いわけです。はい。


 それにしても、改めて外から見るセブリオン・マテリア、顔が良すぎるな……ビジュ優勝主従じゃん……やっぱりもうちょっと近くで見たい。

 っていうか、あれっ? さっきから必死で空中を泳いでるのに全然二人に近づけませんけど?


「由紀さんそれ以上近づかないでください……これ以上は押さえきれません……! また魔王様の体に戻っちゃいますよ!」


 スカルに叱られちゃった。あとたぶん今のお叱りで私が煩悩まみれの行動に走ったことがセブモルにバレた。二人の呆れたような視線が痛い。


 そのあとすぐ、スカルが詠唱を終えた。私を見える状態にする術が完成したっぽい。


「魔王様、見えますか?」

「ああ、見えた」


 私の方は特に変わった感じしないんだけど、見えてるのかな? とりあえずセブの方見たら、目が合った。上下左右にフワフワ移動してみる。目線がついてくる。


 ……うわー!? 待ってどうしよう!? 今私、推しの前に立ってるってことだよね!? 待ァアって!? モルもこっち見てる!? 今、私、推し二人に同時に認知され、えっ、無理! 無理~!!?!?



さすがに落ち着いてほしい


がっつり日付変わっておりすみません……!

次回は木曜更新です!

引き続きよろしくお願いします~!

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