2-23:推しの体で過ごす最後の日
ナチュリアの第四王子スカルと、マテリアの国王セブリオンこと私が広間で一緒に食事をとっている。これで正式な客人として招いてる感は多少出たかな。出たって信じたい。
本当はこういうとき、他の貴族とか親兄弟ほか王族たちがいてくれると様になるんだけど、だいたいみんな先に死んでるかセブが手を下してるかなんだよね。びっくりするほど誰もいない。
「まずは非礼を詫びよう。合意もとらず連れてきてすまなかった」
もしここにいるのがセブ本人だったとしてこれを言ったかはすごく微妙なラインなんだけど、一応言っとかないと。国際問題は断固として回避したいから。
「いえっ、あのっ、由……魔王様、ぼくは気にしてませんので」
スカル今私の名前出そうとしたな。今の私はマテリア国王として振る舞ってるんだから、その辺はちゃんとしといてもらわないと。モルたんの士気にもかかわってくるからね。
「ところで王子よ、顕現の儀にはあと何が必要となる?」
「慈雨の巫女の魂の器となる体。それと、魂を器に繋ぎ留めるための秘術。あとは魔王様の莫大な魔力です」
「俺が万全の状態だとしても、王子の秘術の力を借りねばならんというわけだな?」
「そうです」
結果的にスカルの身柄を確保できたのは正解ってことか。ありがとうセブ。
「慈雨の巫女の体は明日の儀式で生成するから大丈夫です。秘術はぼくが必ず完成させます。魔王様はゆっくり休んでいただいて、明日に備えましょう」
「そうか。頼んだぞ」
……とは言ったけど落ち着かないなぁ。今挙がらなかったこまごましたものはきっとモルが準備してるんだろうし、モルとスカルが忙しそうにしてる中私だけのんびりボーっとしてるのも正直気が引けるんだよね……。
それより何より、暁光の巫女がまた攻め込んできたらどうしようって不安も大きい。今日は確実にセブが起きないから、私とモルとお城の兵士たちだけでナチュリア軍を追い払わないといけない。スカルを戦わせるわけにはいかないし。
「……あの、魔王様」
スカルが何か言おうとしてる。ヤバッ、考えすぎてつい険しい顔しちゃってたかも。平常心で、なるべく人当たりいい感じで。
「どうした?」
「ナチュリアの者たちは……きっとここには来ないと思います」
珍しい。スカルがわざわざ自分からこういうこと教えてくれるなんて。
「理由は?」
「今の巫女さんと兄さんたちが協力しあって攻めてくるのは……難しいんじゃないかと……」
スカルの言うことは一理ある。今の巫女は本気でセブしか見てない。
ルビーもヴァニアもまだ巫女に好意を抱いてるだろうけど、原作のルートから外れてる今、あの巫女が想定外の動きをするかもしれない王子たちを駒として使うとは思えない。カインは兄上にしか従わないから論外。
「貴重な意見に感謝する」
スカルはきっと、セブと私にゆっくり休んでほしくて言ってくれたんだ。その気持ちはうれしい。
けどやっぱり気になるのは気になるよ。攻め込まれる可能性は、低くてもゼロじゃない。少しでも考えて備えなきゃ。
だって、実際に戦ってくれるのは私じゃない。モルとお城の兵士たちだ。できることなら危険な目になんて遭ってほしくないから。
「引き続き準備をよろしく頼む」
「はいっ!」
私は私で何かできることがないか考えよう。
***
モルたんの計らいで今日の執務はなし。明日に備えてゆっくり休むのが魔王の務め。
「ピッピ、異常はなさそう?」
「特に怪しいヤツは見当たらねーな」
「そっか、ありがと」
朝食を終えた私は城内をぐるっと一周してからセブの部屋に戻ってきた。
前回巫女たちに侵攻されてからおおよそ一か月。城の修繕はまだまだかかるけど、かろうじて塞ぐべきところは塞いだって感じ。
今の時点でナチュリア軍が攻め込んできた場合の脳内シミュレーションも一通り済んだ。最低限のトラップも仕掛けた。あとは来ないことを祈るのみ。
私はベッドに寝転がり、ため息を吐いた。左手を上げ、契りの紐をなんとなく眺める。少しずつ角度を変えると、深い青色の石の中に時々紫色がきらめく。
この紐が私とセブ、それからモルを繋いでくれてる。目を閉じると、城じゅうを忙しなく動き回るモルの気配がハッキリとわかる。
そういえば、私がこの体から出たら紐はどうなるんだろう? もう私とセブの魂を繋ぐ必要もなくなるわけだし、お役御免になるのかな。それはそれで、ちょっと寂しいかも。
「ねえピッピ」
「どーした?」
「私がセブの体から出ても、たまには一緒におしゃべりしてくれる?」
「気が向いたらなー」
「……ありがと」
この部屋で過ごすのも今日が最後か。だいぶ長いことセブとして過ごしてきたし、さすがにちょっと名残惜しい。
とりあえずもう一回あれやっとこう。原作スチル再現。あと、処分したはずのセブモル小説が本当にどこにも残ってないか、私の尊厳にかけて最終チェックしなきゃ。
それともう一つ。慈雨の巫女になったらどうやって世界を救うか。今のうちにできるだけ調べておこう。
そんなこんなであれこれ片付けてたら、あっという間に夜になってた。
結局巫女たちは攻めてこなかった。もしこの先来るとしたら明日、儀式の直後だ。とりあえず今日のところはひと安心。
「陛下」
ホッと息をついたのもつかの間、モルが部屋に来た。何かあったのかな?
「入れ」
「失礼いたします」
こうやってセブのふりしてモルと話すのも明日の儀式まで。ただのオタクにしてはとんでもなく貴重な体験だったなぁ。
「明日の準備は滞りなく完了いたしました」
「ご苦労」
わざわざ報告に来てくれたんだ。さすがモルたん。
「第四王子からも問題なく儀式に望めると報告を受けています」
「わかった」
「体調はお変わりありませんか?」
「ああ、問題ねぇ」
モルは少し安心したような顔をして、丁寧に一礼した。
「ではお休みなさいませ、陛下」
「おやすみ」
去っていくモルの後ろ姿を、私はなんとなく目で追っていた。一歩、二歩、扉の取っ手に手をかけて、その動きが止まる。
モルはしばらくそのまま動かなかった。何か言い残したことがあるのかな。私から声かけた方がいい感じ?
「……由紀」
びっくりした。まさかセブじゃなくて私に話しかけてくるなんて。
奇声を我慢するので精一杯すぎてお返事できなかった。ごめんモルたん。
「我が君はお前に会うことを楽しみにしておられる」
モルは扉の方を向いたまま話し続ける。
「巫女からはおれが守る。だから死ぬな」
そう言ってモルは振り返ることなく部屋から出ていった。
…………。
「ピッピ~!?」
「グエッ!? オイ絞めんな離せぐるじい~!」
***
いよいよ慈雨の巫女顕現の儀が始まる。ちなみに体の主導権はまだ私。セブにはギリギリまで休んでもらって、儀式の直前にハーブドリンクを飲んで交代する。
私とモルとスカルの三人は、城から少し離れた禁足地――かつて「慈雨の泉」と呼ばれていた場所へ向かった。
ナチュリアに暁光の巫女が現れたように、マテリアにもかつてはここから慈雨の巫女が現れてたんだ。でも、今は……。
「ああっ、泉が……!」
スカルが悲鳴にも似た声を上げた。
慈雨の泉は酸の雨に侵され、あちこちが崩落し、荒廃の限りを尽くしていた。
ここで儀式するんですか? 本当に?
次回更新は火曜!
引き続きよろしくお願いします~!




