2-22:特大供給、来ました。
マテリア王城の、謁見の間。ナチュリアから魔法で転移してきた私たちは、気がつくとここに立っていた。
国王セブリオン・マテリアと従者モル、そしてナチュリア王国の第四王子スカル。以上三名。あと私。
(これって拉致、だよね?)
完全にやらかしてるよね? ナチュリアの王子をマテリアの魔王が拉致してるよね? 国際問題ど真ん中だよね?
「合意の上だ。な?」
「あ……えっと……は、はい! 合意です!」
魔王の圧で無理矢理言わせてるよねこれ。あとそういうのは連れてくる前に聞かないとダメです。
「モル、第四王子に部屋を用意してやれ。俺の力が完全に回復するまで王子の身柄はマテリア王国で預かる」
「かしこまりました」
「二日後。俺が回復し次第、慈雨の巫女顕現の儀を執り行う。王子、お前は俺が起きるまで、モルとともに儀式の、準……」
セブの言葉が途切れ、視界が揺らぐ。モルが我が君って呼びながら駆けつけて、体を支えてくれた。スカルも心配そうにこっちを見てる。
(大丈夫!?)
(何でもねぇ。力を……使いすぎた、だけだ)
そうだった。今回はダンジョン攻略も精霊戦も全力で、詠唱ありの術を二回も使ってる。そこから三人も転移させてたら、いくら最強の魔王でも限界ってものがあるよね。
(セブ、無理しないで。あとのことはモルたんに任せて、今日は休もう?)
(……そうさせてもらうしかなさそうだな)
よっぽど限界が近かったのか、セブは素直に聞いてくれた。
「モル、あとは……」
「陛下の思し召しのままに」
心強い。モルには迷惑かけることになっちゃうけど、今回は素直に甘えとこう。
たぶん、前に転移魔法で戻ってきたときと同じで私もセブと一緒に寝ちゃうと思うし。
「お部屋までお連れします」
モルが肩を貸してくれた。セブが寝る前に部屋まで着けるといいけど。
謁見の間を去る前に、モルが所在なさげにしてるスカルに声をかけた。
「私はこれから陛下をお部屋にお連れします。暫しの間こちらでお待ちください。では、失礼します」
「わかりました。あの、お大事に……!」
心配してくれてるスカルの声を聞きながら、私たちはセブの部屋へと向かっていった。
***
次の日の朝。目を覚ました私がゆっくりと起き上がると、ベッドのへりにモルが顔を伏せて眠っていた。
……界隈のみんな、息してる? 特大供給、来ました。
モルたん、普段は絶対主よりも後に寝て先に起きてるから、寝顔を拝めることは基本的に無いんです。無いんですが。
セブのことがよっぽど心配だったのかな。つきっきりで見守ってくれてたんだ。全然起きそうな気配がない。
どうしよう。下手に動いたら起こしちゃうよね。せっかくなのでぜひとも寝顔は拝見したいんですが。でもモルたんの安眠を妨げるわけにはいかないし。
その声は突然私の耳に飛び込んできた。
「オッ、ユキ~起きたか~? こいつ一晩中……」
「黙れクソタヌキ消し炭にされたいか」
ピッピお願いだから空気読んで。
「ん……」
ああっモルたんが起きそう!? せめて目覚めの瞬間を目に焼き付けなくては!?
「わが……きみ……?」
ま゛っっってありがとうございます。尊すぎて今真顔。これ、あの、ま゛っ、私が見ていいやつじゃないです。フゥッ。界隈のみんなにこの、奇跡の光景がどんなものなのかをどうしても、伝えたいんですが、その、フヒィッ、無理かも。とにかく今ここにいるのがセブリオン・マテリアじゃなくて本当にごめんなさい。
モルたんは自分がうっかり寝過ごしたことにようやく気づいたみたい。慌てて飛び起きると、一瞬のうちにその場で跪いた。
「申し訳ございません、陛下」
真顔のおかげか、私がキモ・オタク全開で萌え狂っていたことはバレてなさそう。助かった。
「悪ぃ、心配かけたな。大丈夫か?」
取り繕うわけじゃないけど、精一杯セブっぽい感じで話しかけとこう。きっとセブはモルが寝過ごすなんてありえねぇってすごく心配するはずだから。
「お心遣い痛み入ります。私は大丈夫です。陛下こそ、お変わりありませんか?」
モルたんは一瞬続きを言うかどうかためらったように見えたけど、すぐに言葉を続けた。
「昨晩はかなりうなされていらっしゃいましたので」
そうだったんだ……。私は全然心当たりないんだけど、セブがうなされてたのかな? それでモルは気になってずっと付き添ってたんだね。
魂に触れる秘術のあとで元気なかったのも気になるし、もしかするとセブ、あんまり調子よくないのかも。
とにかく今日は一日ゆっくり休んでもらって、私たちで儀式の準備を進めておこう。
儀式といえば。スカルはどうなったんだろう?
「第四王子はどうした」
「王子にはこの階の空き部屋をご案内しました。不自由のないよう、使用人をつけています」
そこまで話すと、モルは少しだけきまり悪そうに目を伏せた。
「本当は客人専用のお部屋をご用意出来ればよかったのですが……ナチュリアがいつ攻め込んできてもおかしくない状況のため、なるべく我らの近くでお過ごしいただくことが得策と判断いたしました」
「それでいい」
モルたんの判断を褒めつつも、私は心の中で頭を抱えた。そういえば、セブがスカルを拉致しちゃったんだった。モルの言う通り、ナチュリアが停戦をやめ、第四王子奪還を掲げて攻め込んできても文句は言えない。
慈雨の巫女顕現の儀は二日後。それはナチュリアにいる暁光の巫女にも把握されちゃってる。
暁光の巫女は、絶対何か仕掛けてくる。私を慈雨の巫女にするために協力するとは言ってたけど、そのあと私を殺すつもりなのは間違いないし。
なるべく急いで儀式の準備を進めよう。まずは何が必要かスカルと話さなきゃ。
「広間で朝食にしよう。第四王子も呼んでくれ」
「かしこまりました。ご用意いたします」
モルは一礼し部屋を出た。本当は広間じゃなくてこの部屋とかで適当に食事を済ませつつしっかり打ち合わせをしたい。
けど、一応王族同士だし、ちゃんとした食事の場を設けといたほうがいいのかなって思った。その方が拉致じゃないって言い訳も立つでしょ。
朝じゃなくて昼とか夜とかにすべき? ナチュリア側がどう動いてくるか読めないし、善は急げってことで。
「おーい、そろそろ喋ってもいいかー?」
忘れてた。
「ピッピ、さっきはよくもモルたんを起こしてくれやがったな……?」
「あれはオメーの自業自得だろーが」
「ハァ!? 全然自業自得じゃないですけど!?」
このクソタヌキ。私が魔法使えるようになったら絶対燃やす。
「俺っちの声はオメーにしか聞こえねーんだから、自業自得だろ」
……はいぃ? 今、何とおっしゃいました?
「それってどういう……?」
「どうもクソもねーって。俺っちはセブリオンの頭ん中に直接話しかけてっからな。あいつには聞こえてねーよ」
「そういう! 重要情報を! なんで事前に言わないかな!?」
どうりでモルたんピッピのこと無視してるなーって思ってたんだよね。じゃあさっきのは完全に自業自得じゃん。つら。
「あれっ? でもセブがあんたの口乗っ取ったときはモルに話通じてたよね?」
「俺っちも話そーと思えば話せるぜ? 必要ねーから話してねーだけだ」
そういうものなの?
「早く支度しねーとあいつが戻って来るぞー」
いけない、急がなきゃ。私のせいで推しを待たせるわけにはいかないからね。
程なくして、控えめなノックの音が響いた。
「陛下、朝食のご用意が整いました」
「今行く」
ギリギリセーフで身支度を終え、私はモルと一緒に広間へと向かった。
余裕で日曜更新になってる~!? 申し訳ない……!
本日もう一話更新します!
引き続きよろしくお願いします!




