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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第1章:推しに転生

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4/10

1-4:暁光の巫女(主人公)が早すぎる

 モルの報告で、私の頭は急激に冷静さを取り戻した。クソタヌキとじゃれ合ってる場合じゃない。来ちゃったんだ。暁光(ぎょうこう)巫女(みこ)が。

 この世界の原作ゲームにおける主人公であり、現代日本からの転生者であり、世界を救う力を持つ少女。お隣のナチュリア王国から、私が今いるここマテリア王国に、お忍びで。来てしまったのだ。


 ……早すぎでしょ。


 心の中で悪態をつきつつ、適当に放り投げたクソタヌキこと使い魔ピッピを放置して、私はモルとともに急いで謁見の間へと向かった。


 ***


 シンプルながらも品のある、動きやすそうな白の膝丈ワンピース。甘く明るいキャラメルブラウンの髪と瞳。左耳の上あたりには、色鮮やかな桃の花の髪飾り。

 見るからに「愛され主人公」。それがこのゲームにおける暁光の巫女の姿だった。


 暁光の巫女と対面した私の脳内は、前世のいかなる時よりも爆速で回転していた。

 だって、ありえない。異暦611年の6月。ゲーム内時間でいうと開始三か月目だ。このタイミングで巫女による魔王訪問イベントが発生するなんて、普通絶対ありえない。


 魔王に会うには、四人の王子のうち第三王子とのイベントを進める必要がある。進めたうえで第三王子と一緒にここマテリア王国を訪れ、特定の場所で迷子になって魔王軍に捕まるイベントを起こさないといけない。

 つまり、このタイミングでここに来る奴はセブ好きのガチ勢か、何も知らずにたまたま来ちゃった豪運プレイヤーのどちらかだ。


 さらにもっと言えば、セブ好きのガチ勢ほどこの早すぎるタイミングでは来たがらない。セブ関連のイベントは一度進めたら止められない、一方通行タイプだから。

 この訪問イベントも一度開始すると毎月必ず発生するし、全部参加しないといけない。


 しかもイベントの進行に合わせて要求されるステータス値が設定されてて、もし足りなければその時点でイベントは終了。続きを見ることは出来なくなってしまう。

 だから、セブのイベントは開始前にステータスを漏れなく育成して、条件達成してから始めるのがセオリーなのだ。


 要するに、たぶんこの人はたまたま運よくここまで来ちゃっただけ。とにかく夢を壊さないように原作通りのやり取りを心掛けて、とっととお引き取りいただこう。


 ところで、今セブの中の人は私なわけだけど、暁光の巫女の中の人ってどうなってるんだろう。プレイヤーは画面の向こう(?)にいるわけだし、汎用の主人公人格的なものが入ってたりするのかな。

 そわそわしないよう必死で耐えている私の前で、暁光の巫女はふるふると肩を震わせて今にも泣き出しそうな顔でこっちを見つめている。


「やっと、会えたね」


 んんん? 今、いきなり原作に無い台詞が聞こえてきたような。ここの暁光の巫女の第一声って「あなたは……?」じゃなかった?

 まさかまさかもしかして、この人も、中身は転生者ってこと……!?


 目が泳ぎそうになるのを必死で耐える。今の私はマテリア王国の魔王セブリオン・マテリア。隣国であり敵国でもあるナチュリアから迷い込んだ小娘を尋問して沙汰を下さなきゃ。


「ナチュリアの者が許可なく我が国を(おとな)うとは、余程命が惜しくないようだ」


 玉座に深く腰掛け、堂々と、なるべく偉く見えるように祈りながら、私は原作通りの台詞を発した。大丈夫。どこからどう見ても完璧に魔王。CV:大野坂(おおのさか)絵夢也(えむや)の力は偉大。


「セブ様だ……本物のセブ様……」


 暁光の巫女、泣いてる。噓でしょ。待って待って愛が重い。

 この人、ガチの(かた)だ。たまたまここに来たんじゃない。どうやったのかは知らないけど、ステータス成長の理論値を叩き出して、最速でここまで来たんだ。


 すぐ傍でモルたんの舌打ちが聞こえた。まずい。敵国の小娘が大切な主を、馴れ馴れしくも愛称で呼びやがったからかなりキレてるはず。モルたんはこういうとこ本当に厳しい。

 まずはモルたんのメンタルケアを優先。さりげなく目配せして、大したことじゃねぇから気にすんなって伝える。


 で、巫女なんだけど……さすがにこれは何か言わないとまずい、よね。原作にない状況だし、原作にない台詞が出ても問題ない、よね?


「泣いてる、のか……?」


 暁光の巫女の肩がぴくりと跳ねる。俯き涙を流す巫女は顔を上げてくれない。


 や、優しすぎたか~!? まだ初対面だもんね? せめて「泣いて罪から逃れようなど、随分と甘い考えをお持ちのようだ」ぐらい厳しめに言っといたほうがよかったのかな!?

 で、でもでも、理論値でセブに会いに来たアツすぎるオタクを見たら、いくらなんでもそんな邪険なこと言えないよ~!


 つい私のオタク目線の同情が滲み出ちゃった。反省しなきゃ。今の私はセブなんだから。

 幸い、その後暁光の巫女は原作通りの台詞を言ってくれて、私も原作通りの台詞を返して、無事初回の訪問イベントは終わった。


 去り際、暁光の巫女が不意に立ち止まると、こっちに振り向いて微笑んできた。


「絶対に、二人で幸せになろうね、セブ様」


 そう言い残し去っていった巫女を、私は呆然と見送った。


 ずっとすぐ傍で控えていたモルが、私の前に歩み出た。このまま暁光の巫女の首を刎ねに行ったらどうしようっていう私の恐怖をよそに、モルは前で跪いて、陛下、って心配そうに声をかけてくれた。

 主の顔を真っ直ぐ見上げる銀色の瞳が不安そうに揺らいでる。天使。けどごめん、主は今ちょっとそれどころじゃないかもしれない。


 暁光の巫女。原作にない台詞を吐いたから、確実に転生者。さらに、セブの姿を見て泣いたことから、ほぼ確で理論上最速でセブに会いに来たガチ勢。

 そして、最後の。二人で幸せになろうね。


「最悪だ」


 無意識に口から零れる言葉を止められなかった。最悪。最悪なのだ。

 今回の相手、暁光の巫女の中の人は、間違いなく「追加ルート」狙いだ。


 体調悪いフリをフル活用して(ごめんモルたん)、私は自室に引っ込んだ。

 さっき放り投げたピッピを丁寧にチェストの上に戻して、重たい丈の長いマントを外して、私は魔王のでかいベッドに倒れ込んだ。


「無理~~~~!!」


 枕に顔を埋め、足をバタつかせてどうにか感情を処理する。ついでに枕からセブの匂いがしたりしないかなって邪な気持ちを抱いたものの、今の私はセブなので、自分自身の匂いはよくわからないの法則が発動したらしく、よくわからなかった。死にたすぎる。


「何が無理なんだよ」


 ピッピが気を利かせて聞いてくれた。いい奴だな。


「暁光の巫女も、私と同じ転生者だった」

「いーじゃねーか。仲間ってことだろ?」

「良くないっ!!」


 思ったより大声が出て自分で自分にびっくりした。外のモルたんに聞こえたかも。


「うっせー……何がそんなに良くないんだよ」

「あの人、『追加ルート』に進むつもりなの!」

「追加ルート?」

「原作で、後から追加された、セブの攻略ルート」

「攻略って、やらしー関係になるってことか?」


 言い方よ。でもまあ大体合ってるので、頷いた。


「ちょっと待て、セブリオンは死ぬんじゃなかったのか?」

「基本的にはね。唯一生存するのが、暁光の巫女とセブが結ばれる、追加ルート」

「何だよ~そーゆーのは最初に言っといてくれよな~。それなら追加ルートで全部解決じゃん」

「違う!!」


 またしてもクソデカボイスが出ちゃった。そろそろモルたんが来そう。ごめんすぎる。


「……で、何が違うんだ?」

「解釈」


 私は即答した。


「何て?」


 ピッピにはうまく伝わっていないようだ。無理もない。オタク特有のこの概念をこいつが理解しているとは思えない。

 けど、これからともにセブモルを救う同志として、ピッピには追加ルートの問題点を何としてもご理解いただく必要がある。


「確かに追加ルートに進めばセブもモルも死にませんよ? 暁光の巫女とセブが結ばれるのもまあこの際我慢しますよ。でもね、でも、その代わり、ふたっ、二人、が……っ」


 言葉が詰まってうまく出てこない。だめだ、思い出すだけで辛すぎて無理かも。ピッピが引いてる気がする。気にしちゃだめ。勇気を出せ自分。


「二人が……っ、主従じゃなくなっちゃうんですよぉッ!!」


 言えたぁっ! ハアハアと上気しながら私はピッピを見た。


「別に良くね?」

「良くねぇえええええ!」


 何を申すかと思えばこのクソタヌキ、セブモルが、主従じゃなくなっても別にいいだと!?


「セブモルはなあ! これまで主従として重ねてきた日々を誇りに思いながら志半ばに命を落とす、そんな尊い二人なんですよ通常ルートでは!! 追加ルートだって! 二人とも主従をやめたいなんて一っっっっ切望んでなかった! それなのにッッ! セブもモルもォッ、相手の命を守るために、別れを、選ばざるを得なかったんですよぉお!?」


 涙出てきた。二人が何したって言うんですか。セブモルが主従のまま幸せになれないこんな世界クソじゃないですか。

 あと推しの美声でこれ言ってるの本当にしんどい。一刻も早く体を返還したい。


「だから、絶対追加ルートには進ませないし、死なせない。セブモルには、セブモルのまま、幸せに生きてもらうんだから」


 じゃなきゃ、私が転生してきた意味ないもんね。せっかくこの世界に介入できる立場なんだから、原作にはない真ルートを開拓してセブモルを永久(とわ)に幸せにするぐらいやってやるわ。


「わーったわーった、俺っちはセブリオンのヤローが死ななきゃ何でもいーからさ、ユキはユキの気が済むようにやってみたらいーんじゃねーの?」

「うわ~んありがと~ピッピ~」

「その顔と声で泣きつくな気色わりー」


 このタヌキモモンガ、見かけによらず結構いい奴だ。時々地雷踏み抜いてくるけど。


「で? まずはこれからどーする?」

「暁光の巫女がどこまでシナリオを進めてるか把握したい」


 私の考えはこうだ。理論値最速で来てるってことは、巫女は第三王子のイベントと同時に第四王子のイベントも進めてるはず。

 四人の王子にはそれぞれ固有のイベントが用意されてるんだけど、セブの追加ルートに進むためには、第三王子と第四王子の固有イベントをある程度までこなしておく必要がある。


 特に、初見プレイヤーが進めがちな第一王子、第二王子のイベントを一切無視して第四王子を狙って会いに行くのは、かなりの運と知識を必要とする。奴に遭遇できるか否かは完全ランダムだから。

 でもあの巫女なら絶対やってる。


「敵情視察ってわけだな。具体的にどの辺を見たいんだ?」

「ナチュリアの第四王子の研究室」


 私がその場所を伝えると、ピッピは突然黙り込んだ。


「……本気で言ってんのか?」


 かなり引いてる。けど無理はない。第四王子の持つ「能力」と私の今の状況は、壊滅的に相性が悪いのだ。見つかれば正体バレ間違いなし。

 だから、向こうに悟られることなく、一方的に敵情視察を済ませる必要がある。


「そこでピッピの千里眼スキルが使えないかなーって思ったんだけど」

「わりーけどムリだな。俺っちの千里眼は範囲が限られてる。この城内が精いっぱいってとこだ」

「ですよねー。うーん、別の方法を考えなきゃ」


 私の言葉を聞いたピッピはしばらくうんうん唸って考え込んでいた。と思いきや突然、いかにも妙案をひらめいたと言わんばかりの明るい声を出した。


「ナチュリアに行ってみよーぜ☆」


 何を言っているんだコイツは? 宇宙空間を背景に抱く猫みたいな顔をしながら、私は心からそう思った――。



第五話は明日火曜に更新します!

以降、火・木・土・日更新です~!

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