1-3:ピッピお前に転生させろ
食事を終え、モルに城内の様子が気になるとそれっぽい言い訳を述べた私は、無事魔王城をぐるっと一周案内してもらうことに成功した。
ゲームだと基本的にこっちの城はダンジョン扱いだし、探索しようにもあちこち崩落しててほぼ一本道しか進めなかったんだよね。だから、こうやって当時見れなかった部屋まで案内してもらえるのはとっても助かる。
なるべくバレないように振舞ってはいるつもりだけど、初見の部屋に入ったときはどうしても嬉しくて顔がにやけそうになるし、部屋中余すことなく記憶しようとついついガン見しちゃう。
いくら抑え込んでも、ほんの少し漏れた違和感をモルは見逃してくれない。
「陛下」
差し出がましいようですが、と付け加えながら、モルはあくまでも控えめに主に進言する。
「やはり本日はお休みになられては。その、いつもより……ご無理をしていらっしゃるように見えます」
うっ、どうしよう。私がバレないようにって気を張ってるのが裏目に出ちゃってる。
銀色の瞳で真っ直ぐ射貫くみたいに見つめてくるモルたん。抗いがたい。けど、流されるわけにはいかない。
「気にすんな。これぐらい何でもねぇ」
これ以上詮索されたくなかったから、つい突き放すような言い方になっちゃった。モルはすぐに深々と頭を下げて、申し訳ございませんって謝ってくれた。その声が、ちょっとだけ悲しそうに聞こえる。
違う、謝らせたかったわけじゃない。悪いのは私。セブの体を乗っ取って、モルを騙している私なんだ。
居たたまれなくなった私は無意識に一、二歩後ずさっていた。その足が、魔王特有の丈の長いマントの裾を、思いっきり踏んづけてしまった。
「ぅわっ……!」
「我が君!」
危うく頭から床にダイレクトアタックしそうになった私を、モルの腕が抱き留める。おかげで辛うじて失態を晒さずに済んだ。
ついでに図らずもめちゃくちゃ絵になる光景が出来上がってしまった。モルの顔が近い。銀白色の髪の、薄紫に染まった内側が今にも触れそうな距離で揺れている。ヤバい。この状況…………見たい!!
カメラどこだカメラ!? 誰か今すぐこの奇跡の光景を全方位からパッシャパシャ撮ってJPEGにして私に送り付けてくれませんか!? お願いします何でもします!! 誰か!!
オタクの魂の叫びも虚しく即座にモルたんに抱き起された私は、反省した。自分のマントを踏んでコケそうになるなんて、魔王失格すぎる。
こんなのでモルたんに正体を隠し通せるわけがない。あとさっきの光景を外から見れなかったのがオタクとして悔しすぎる。
「……我が君」
モルたんの、いつもより少しだけ低い声。怒ってる。もしかして、バレちゃったのかな。
とにかく謝ろう。魔王らしからぬ不甲斐ない姿を見せちゃったし。
「悪ぃ、心配かけたな。すまなかった」
謝っては見たものの、モルの表情は晴れない。むしろ余計につらそうに見える。
これはかなり私の主観が入ってる気がするけど、今のモルたんは、セブが秘密を明かさず一人で抱え込んでるのを見て己の従者としての無力を思い知り大切な主の助けになれないことを心の底から悲しんでいる、そんな顔をしている。
無理。私が転生したせいで推しがこんなに苦しんでるなんて耐えられない。
クソタヌキが何か言ってたけど、もう知らん。モルに正体を伝えよう。
「モル」
「はい」
改めて言うとなると緊張するな……信じてもらえるかな……きっと怒るだろうな……。
「私、セブリオンじゃないんです。異世界から転生した、由紀って言います。ごめんなさい! こんなつもりじゃなかったんですけど、なんでかセブの体に入り込んじゃって。あっ、でもすぐ出ていくんで、ご迷惑はお掛けしないんで、だから……」
オタク特有の早口でまくし立てる私の前で、モルがぱちぱちと目を瞬かせてる。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってこういうのを言うんだろうな。その顔につい見入ってしまって、私のマシンガン言い訳が止む。
沈黙。気まずい。すると突然、モルが見開いていた目を細め、フフッと声に出して、笑った。
「今回はまた随分と手の込んだ悪戯ですね」
悪……戯? もしかして、全然バレてない? それどころか、今私が言ったことも嘘だと思われてる?
てかモルたんのフフッが反則すぎる。この人原作で滅多に笑わないんですよ? それをこんなところで、こんな……セブの前だからか~!? 今はセブじゃなくて私なんですけどね!? 悔しい! セブに見てほしかったこの笑顔!
いやそれどころじゃなかった。悪戯だと思われちゃったこと、きっぱり否定しなきゃ。
「や、違くて」
「無駄ですよ。貴方の魂がそこに在ることは、私には全てお見通しですからね」
何だろう、この感じ。例えるなら、あれだ。ちょっとえっちな年上のお姉さん家庭教師に、高校生俺が「ダメだぞ♡」って叱られている、あの感じだ。
ごめん私のオタクフィルターがかなり掛かってる感は否めないけど、正直……グッと来た。
推しがあざとすぎる。私がそう見ているだけなんだけど。
その後も何とか誤解を解こうとしてみたものの、モルは一切聞く耳を持ってくれなかった。
主の言うことなんだからもうちょっと信じようとしてくれてもいいと思うんだけど、完全にスルー。何故かとにかく私を休ませようとする圧がすごかった。笑顔なんだけど、目は笑ってない感じ。
……きっとセブの体調が心配でどうしても休ませたくて仕方なかったんだと思う。過保護可愛いね。
結局モルにうまいこと言いくるめられ、お休みをいただいてしまった私はすごすごとピッピの待つ自室に戻ってきてしまった。
「オイ。見てたぞ。いきなり正体バラそうとしやがって。しかもなーにイチャイチャしてやがんだよ」
「ハァ? イチャイチャなんてしてませんけど? セブモルはあくまでも主従であって断っっっじて恋愛関係ではないんですが?」
まさかクソタヌキに地雷踏み抜かれるとは。うかつだった。
これ以上何か言ってきたら燃やす。そう決意したのが顔に出ていたのか、ピッピはそれ以上何も言ってくることはなかった。
よし。……ところで、見てたって、どうやって?
私がそれとな~く質問してみたところ、ピッピは反応遅っ! とツッコミを入れてきた。
「千里眼。俺っちはこの部屋から一歩も動かずに城じゅうの様子を監視できるんだぜ」
何という便利スキル。つまりモルたんが城のどこで何をしていてもセブには筒抜けってことですよね? そういうネタはもっと早く教えてほしかったな?
というか、そもそもだけど。私、こいつに転生したらよかったのでは?
こいつに転生してたら千里眼でセブモル拝み放題。万事解決。ここは楽園。人生薔薇色。
「おいピッピお前の体よこせ」
「ハァ!? ざけんな何考えてんだよオメー」
いきなり体を求めだした私にピッピが本気でドン引きしている。でも退くわけにはいかない。壁になって推し主従を末永く見守るために、君の体が必要なんだ。
「これもセブとモルと私のため。二人と一人のオタクを助けると思って。さあ」
「セブリオンはまだしもあいつとオメーのことまで知らねーよ! てか待てユキちょっと待てって本当にヤバい」
「はいはい聞きませんよーさっさとそのふわふわボディをよこしやがれくださーい」
「そうじゃなくて! マジで大変なことになってるって! 聞けって!」
その時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「陛下、お休みのところ申し訳ございません。急ぎご対応いただきたく」
私は慌ててピッピを放り投げ、なるべく魔王としての威厳たっぷりに見えるよう落ち着いた様子で答えた。
「何事だ」
モルは一つ息を吐くと、姿勢を正して目の前の主に報告する。
「暁光の巫女が訪れました」
……えっ、早くね?
第四話は明日更新!
引き続きよろしくお願いします~!




