2-20:決行は二日後
セブとモル、そしてセブの中にいる私は、暁光の巫女たちに内緒で土の精霊から祝福をゲットし、その足でスカルの部屋こと魂の研究室の前までやって来た。
当然ながらアポなしの突撃訪問だから、扉を開けたスカルはものすごくびっくりしてる。
「魔王様っ!? と、モルさん!? どうして急に……?」
「訳は後だ。第四王子、お前に頼みたいことがある」
とりあえず立ち話もなんだし他の王子や巫女に見つかると厄介だしってことで、私たちは無事研究室の中に招き入れてもらえた。
出してもらった背もたれ付きの椅子に深く腰掛け、目の前の丸椅子に所在なさげに浅く座っているスカルへ、セブは威圧感たっぷりに問いかける。
「単刀直入に言う。由紀の魂を慈雨の巫女として転生させたい。出来るか?」
そのためだったのか。セブの口ぶり的に、てっきり魂の契り関連のヤバい話が来るんだと思ってた。
なんだ、よかった。慈雨の巫女になってセブの体から出られるなら願ったり叶ったりだよ。
一方スカルの方は、魔王からのあまりにも突飛すぎる依頼に口をぽかんと開けたまま固まってる。前髪の向こうに隠れてる琥珀色の瞳もきっと大きく見開かれてると思う。
「返事は?」
容赦なく返事を催促するセブに、スカルはハッと我に返ったみたいに喋りだした。
「ちょっ、ちょっと待ってください。慈雨の巫女って、いったい何ですか?」
「ナチュリアに暁光の巫女がいるように、かつてマテリアにも慈雨の巫女がいた。それを復活させる」
「それで……由紀さんの魂を?」
「由紀には器となる肉体がない。慈雨の巫女で代用できれば都合がいい」
セブの話を一通り聞いたスカルは黙って何か考え込んでる。
「異世界からの転生者……暁光の巫女もそうなんですよね? だとすれば、同じように由紀さんが慈雨の巫女になれる可能性はゼロではないはずです」
ですが、ってスカルが言葉を続けた。
「そのためには慈雨の巫女の体と由紀さんの魂を結びつけないといけません」
うっ……スカルの声がいつにも増して真剣だ……たぶん一筋縄じゃいかないよってことなんだろうな……。
「そこでお前の出番ってわけだ」
セブ、無茶振りする気満々ですね? きっと私たち今すっごく難しいことをスカルにお願いしてると思うんだけど。
ほら、スカルが顔の前で焦った感じで手を振ってるよ?
「いくら何でも手がかりが少なすぎます……! ぼくは慈雨の巫女のことも、由紀さんのことだって詳しくは知らないのに」
「手がかりなら、こちらで用意した」
セブが軽く促すと、すぐ後ろに控えていたモルたんが進み出てスカルに何かを見せた。
「これは?」
「慈雨の巫女の耳飾りだ。かつての巫女が実際に身に着けていたものらしい」
「っ……すごいです! これならいけるかもしれません!」
スカル、前のめりで喜んでる。普段は全然前に出るタイプじゃないんだけど、本当こういう魂関連の話題のときだけは別っていうか。楽しそうで見てるこっちも嬉しくなっちゃう。
それにしても、実際身に着けてたアイテムってやっぱ強いんだ。借りといてよかった。ありがとう水龍たん。
「あとは由紀さんについて、もう少し教えてもらえませんか?」
丸椅子に座り直したスカルがじっとこっちを見ながら問いかけてきた。
(だってよ、由紀)
(あ、はい)
私について。いきなり教えろって言われても困っちゃうな。何をどう教えたらいいんだろう?
「由紀さんの場合は、ぼくの術で直接魂に触れさせてもらうのが早いので……もし差し支えなければ……」
「それで構わん」
えっ!? そこは私の意思確認要るんじゃないかな!?
(さっき何だってできるって言っただろ?)
(言いました……)
あれはでも勢いというか言葉のあやというか……そりゃ言ったのは間違いなく私だけど……。
「言質は取ってある。進めろ」
「わかりました。じゃあ、遠慮なく」
せめてちょっと考える時間ぐらいは欲しかったな~!?
というわけで、セブがスカルに導かれるまま診察台みたいな簡易ベッドに横たわった。
「陛下」
セブが振り向くと、心配そうにこっちを見てるモルたんの姿が目に映った。大切な主の体に何かしでかされやしないかと不安に思ってるみたい。
「心配ない。第四王子に任せておけ」
何かあっても手を出すなって意味だ。モルたんもそのことを察したのか「かしこまりました」って素直に引き下がった。
「では、始めます。目を閉じて、ゆっくり深く呼吸してください」
始まっちゃった。スカルはさっき「直接魂に触れさせてもらう」って言ってたから、今からやるのは恐らく魂に触れる秘術だ。巫女の二回目の訪問の後でモルたんが私に使ったあの術。
嫌だなぁ……あれ頭痛くなったり気持ち悪くなったりするし。あ、でも今体動かしてるのはセブだから、セブが頭痛くなったりするってことか。大丈夫かな。
セブが目を瞑ってるから、外で何が起きてるのかはわからない。スカルも特に話しかけてくる様子がない。
静かな研究室で、ただセブの呼吸の音だけが微かに聞こえてくる。これってもう始まってるのかな。
(由紀さん、お久しぶりです!)
(ウボァアッ!?)
いきなり話しかけるのやめてほしいな!? 久々にまあまあな奇声発しちゃったんですけど!
(すみません……! あの、じゃあ、始めますね)
(よろしくお願いします……)
あーびっくりした。黙って始めてくれてた方が心臓によかったかもしれない。
(気分が優れないときは手を上げて教えてくださいね)
手……どうやって……?
不安を残したまま、魂に触れる秘術が始まった。
セブは話しかけてこないから、意識があるのか無いのかわからない。私の方も何だかふわふわして夢見てるみたいな心地になっていた。
思ってたより悪くないかも。このまま滞りなく終わってくれるといいんだけど。
(わー! 小さいころの由紀さん、可愛いですねー!)
おい待て。この王子、私の記憶にアクセスしてるな?
(プライバシーという概念、ご存知ない……?)
(ぷ……?)
(人の記憶を勝手に覗かないでほしいんですけど)
(わ、ご、ごめんなさい!)
セブだけかと思いきや、意外とこの世界の人たちはコンプラ意識がガバガバなのかもしれない。
(見るというより、大事な記憶だけが自然と流れてくる感じで……)
(つまり止められないってことね)
(ごめんなさい……)
(いいよ、もう慣れたし)
記憶見られるのに慣れるのもどうかと思うけどね……某魔王のせいでね……。
(ちなみに今は何が見えてるの?)
(えっと……由紀さんみたいな人たちがいっぱいいます……何か売ってるんでしょうか……本?)
(ごめん今見たことはすぐ忘れて今すぐ)
どう見ても同人誌即売会です本当にありがとうございました。
(あっ魔王様とモルさんの絵が描かれてますよ由紀さん!)
(忘れろォッ!!)
公開処刑すぎる……!!
そんなこんなで息も絶え絶えになりながら、スカルによる魂に触れる秘術は無事終了した。
私だけこんな特大精神ダメージ受けるの辛すぎる。推しに自作小説読まれたときに匹敵するレベルの最悪体験だった。
でもこれで慈雨の巫女になって、セブの体から出て、晴れて壁として推し主従を横から末永く見守ることができるようになるなら! 全然大した苦労じゃないですね!
「魔王様、由紀さん、ご協力ありがとうございました!」
「ああ」
気のせいかな、セブの声にあんまり元気がないような。
「陛下」
モルたんがすぐさま駆けつけてきた。やっぱりセブ元気ないよね。
「平気だ、問題ない」
簡易ベッドから起き上がりながらモルにそう返す裏で、セブは私に話しかけてきた。
(随分とうなされてたみてぇだな)
(うんまあちょっとね)
これ以上私の黒歴史に触れないでいただきたいですね……!
(大丈夫か?)
フォワァッ!? ななな何事!? 魔王セブリオン・マテリアがただのオタクを心配して声かけを!? そ、そ、そんなことが許されるのですか!?
(お前人のことを何だと)
(ごめん……待って……普通にすっごく嬉しい……)
嬉しすぎて心臓爆ぜそうな気持ちと自分を含むセブモルのオタクたちに対して心から申し訳ない気持ちと、そもそもうなされてた原因が私の黒歴史っていうある意味自業自得なので心配かけたセブにも申し訳ない気持ちで……総合すると申し訳なさが勝つな……詫び土下座、するか……。体無かった……。
(変な奴だな)
困ったように笑うセブの声が優しい。どうしよう心臓がもたない。今無いけど。
(っていうか! セブの方こそ大丈夫!? 何か元気なくない!? スカルの術の最中も全然話しかけてこないし)
(おいおい、俺は最強の魔王だぞ? どうってことねぇよ)
軽く流されちゃった。本当に何でもないのかな。私の時みたいに頭痛くなったり気持ち悪くなったりしてなきゃいいんだけど。セブ、そういうの隠しそうだし。
「で、どうだ? 慈雨の巫女と由紀の魂を繋げそうか?」
「はい、おかげさまで大丈夫そうです!」
「よし、ではマテリアで慈雨の巫女顕現の儀を執り行う。決行は二日後だ」
セブとモル、そしてスカルがそれぞれ頷きあった。
「そうはさせませんよ」
研究室の扉が開き、一番見たくない人影が姿を現した――暁光の巫女。やっぱり来ると思ってた。推し主従を見守る壁になるため、ここで邪魔されるわけにはいかない。
前話で自重した分、奇声があふれ出しました
次回更新は木曜!
引き続きよろしくお願いします~!




