2-18:おわかりいただけただろうか
……ここで魔王が発した言葉をもう一度振り返ってみましょう。
「土の聖域に行く。お前も来い」
はいこれ。モルに向かって言ったこれです。うん。あの。待って。
(ちょっと待って待って何これ私だけついていけてないんだけど!?)
(待っても何も、言葉通りだ。土の聖域に乗り込む。モルも連れていく)
(巫女を待たずにこっちから行くってこと?)
(第三王子が扉壊して祝福を奪ったんだ。なら、俺らがやってもいいだろ)
理屈は通ってるけど。けどですよ? マテリアの魔王が同じ事やったら国際問題に発展しない……?
(大丈夫だ。バレなきゃいい)
この魔王……やっぱり自由すぎる。
「決行は明日だ。ハーブ用意しとけ」
「いつでもご用意いたします」
モルたんが当然のように返事して、あまりにもトントン拍子に事が進むから、私はつい気づくのが遅れた。
……もしかして、いや、もしかしなくても、セブモル共闘チャンスですか!?
通常ルートラスボス戦でしか共闘しないセブモルが。敵として戦わなきゃだから余裕をもって観察できなかったセブモルが。目の前で、むしろ目の前通り越してセブ視点で、じっくりとたっぷりと戦いぶりを観察できるってことですか……本当に……?
信じられない……奇跡だ……今私に身体の主導権があったら危うく感動の涙を我慢できず垂れ流してるとこだった。
(セブありがとう……本当にありがとう……!)
(別にお前の為じゃねぇよ)
推しの呆れたような声も今の私には気にならない。それでも感謝を伝えたい。ありがとうセブ。あなたの無茶振りが、一人のオタクの魂を浄化しました。
まあ欲を言えばこの体から出て、モルだけじゃなくセブの雄姿も目に焼き付けたかったですけどね……!!
***
次の日。セブとモルはマテリアの転移装置を使ってナチュリアへと飛んだ。飛び先は土の聖域。場所は私の記憶から特定した。
聖域入口の大きな扉は固く閉ざされている。その中央には封印の紋が浮かび上がっている。
モルが何も言わずすっとセブの前に出た。剣を抜き、封印の紋に向かって二、三斬りつける。紋が消滅し、扉がゆっくりと開きだした。
「行くぞ」
「はい」
どうしよう心の準備がまだなんだけど。緊張がヤバい。今手があったら手汗でびしょびしょだと思う。
いよいよセブとモルの共闘が始まる。二人が土の聖域に今、足を踏み入れた。
「……暗いな」
モルがすぐに小さなカンテラを取り出し、魔力を込めて灯す。十分な明るさ、とは言えないけど数メートル先ぐらいまではよく見えるようになった。
土の聖域はとにかく暗い。そのことはモルに伝達済み。
昨日、主からの無茶振りを聞いたモルは、眠ったセブに代わり表に出た私を捕まえるや否や、土の聖域について根掘り葉掘り徹底的に質問を浴びせまくった。
さすがモルたん。主のための予習に抜かりがない。その徹底した従者みを味わってテンションが上がった私は、モルたんの質問攻めに気の済むまで長時間付き合い続けた。おかげで今結構眠い。
暗いダンジョンでただ見てるだけだと寝ちゃいそう? 大丈夫。土の聖域はそんなに甘くないから。
「陛下、こちらでお待ちください」
モルがセブにカンテラを渡し、一人で先に進んだ。セブはきっと何だろうって思ってるけど、私とモルはこの後何が起こるか知っている。
モルの姿が暗がりに消えるか消えないか辺りまで離れると、いきなり天井からハイエナに似た魔物が三匹落ちてきた。
「モル!」
セブの声に魔物たちが反応し、一斉にこっちを向く。爛々と輝く獣の目に、剥き出しの牙の隙間から涎が洩れてる。怖すぎ。
魔物たちが自分から目を離したその隙を、モルは逃さなかった。抜き放った剣が閃き、魔物たちの体を刻む。目にも留まらない速さでバラバラにされた魔物たちは、形を保つことが出来ず消滅していった。
推し、強い。さすがはラスボスの一人。精霊でもないただの雑魚敵なんて余裕ってことですね。最高。
ちなみに今のは一応、人が通り抜けた後に後ろから襲い掛かるタイプのトラップだったわけなんだけど、モルたんはあえて一人で前に出ることで逆に挟み撃ち状態にしてやり過ごしましたね。優秀。
トラップを見事処理したモルが剣を収め、主の元へ歩み寄ってくる。
「お怪我はございませんか?」
「当然」
主の返事を聞いたモルの顔が、ほんの少しだけ得意げに見えた。気のせいかな。オタクの幻覚だったらどうしよう。
「由紀に聞いたのか?」
「はい。差し出がましい真似を失礼いたしました」
「いや、助かる」
セブがカンテラをモルに返す。モルがそれを両手でそっと受け取る。この距離感、大切にしたい。
二人は聖域の最奥を目指して再び歩き出した。
土の聖域はこんな感じのドッキリ系トラップがあちこちに仕掛けられてる。敵も全体的にアンデッド系が多かったり、地面から急に手が~みたいなタイプだらけだから、結構ホラー感あるんだよね。本来は。
でもモルがドッキリ要素を先んじて全部潰してるし、セブもあんまり驚くタイプじゃないし、私も私で何が起きるか全部わかってるし、正直言ってホラー感が欠片もない。
ここスカルと来るといい感じにビクビクしてくれて楽しいんだよね。ラスボス主従二人にそこまでしろとはさすがに言えないけど、せめてもうちょっと、怖そうな雰囲気ぐらいは味わいたいな?
「雰囲気っつわれてもな」
あっ、今わざと声に出して文句言ったよこの魔王。絶対わざと。
「由紀、陛下を困らせるな」
ほら! モルたんに聞かせるためにわざと声に出したんだ。それなら私の代わりにモルたんにごめんなさいしといてほしい。
「由紀が『モルたんごめん』ってよ」
「たんを付けるな」
さすがに理不尽じゃない?
そんなお喋りをしながらも、二人は次から次へと目の前の魔物を薙ぎ払っていく。さっきも地面から大量のゾンビが……っていう最恐ホラー演出が入るはずだったんだけど、セブが広範囲高火力の術で出てくる前に全員焼き払ったから無事カットになりました。
それ以外の細々とした敵襲は全部モルが完璧に露払いしてる。いかなる者も陛下に触れることは許さないっていう強い意志を感じる。
始終そんな調子だったので、二人は怪我一つなく万全の状態で精霊の座まで辿り着いた。
「精霊よ、姿を見せるがよい」
セブがちゃんと魔王感出して精霊を呼んだ。けど、返事がない。
「気配はするんだが」
モルがカンテラをセブに手渡し、受け取ったセブが精霊の座をあちこち照らして見渡す。
薄暗く見通しの悪い精霊の座の奥に、こんもりと小さな岩山のようなものがあった。
「まさか……これが?」
セブは訝しんでるけど、原作知識のある私にはわかる。この山。高さは間近で見上げたらギリ首痛くなるぐらい。お椀を伏せたみたいな形の小さな山。間違いなくこいつが土の精霊だ。
私から話を聞いていたモルも当然わかってる。
「お気をつけください、陛下。これが土の精霊です」
「この中にいるんじゃなくてか?」
「山そのものが本体です」
(……厄介そうだな)
セブが思わず心の中で独り言を漏らした。私も心の中で激しく同意する。
水龍たんが超攻撃型だとすればこっちは真逆。超守備型の戦闘スタイルで、とにかく堅い。延々と持久戦を強いられる迷惑な相手、それが土の精霊なのだ。
山が、動く。土の精霊戦が始まる。
特大供給で奇声率上げてこ~!
次回更新は土曜!→すみません日曜に2話まとめて更新します!
引き続きよろしくお願いします!




