2-16:まおうは キーアイテムを てにいれた!
水龍たんが見せてくれた小さな耳飾り。それは原作ゲームのパッケージイラストにも描かれている、慈雨の巫女がかつて身につけていたものだった。
(セブ、これ何とかして水龍たんから借りれないかな?)
(? このまま貰っとけばいいだろ)
(ダメです借りるだけです絶対に)
水龍たんの大事なものだって言ってんだろこの魔王。
(わかった、わかったって)
本当にわかってるのか? 厳しい視線を送る私に気づいているのかいないのか、セブは水龍たんに話を持ちかけた。
「慈雨の巫女にもう一度会いたいか?」
水龍たんの表情がパッと明るくなる。
「あいたい! あえるの!?」
「ああ」
セブの返事を聞いて水龍たんは飛び上がって喜んだ。その場で跳ねたり宙返りしたり、全身で嬉しそうにはしゃいでる。
「わーいわーい!」
「その代わり、暫くこれを預からせてもらう」
あ、水龍たんの動きが止まった。ちょっとまずいかも。
「なんで……?」
「慈雨の巫女を呼び出すために必要だからだ」
ああ……水龍たんが物凄く不安そうにしてる……もうちょっと言い方とか何とかならないかな……!?
「おともだちのあかし……」
今にも「かえして」って言い出しかねない雰囲気。何とかしなきゃ。
すると、隣で黙って聞いてた暁光の巫女がにわかに口を挟んだ。
「セブ様、返してあげよう? この耳飾りはきっと、水の精霊様にとって本当に大切なものなんだよ」
おやおやおや? いつもセブに助太刀してくれてたはずの巫女が、なぜか水龍たんの肩を持ってるよ?
もしかして、慈雨の巫女復活のキーアイテムを何としても渡したくないとか、そういうことなの?
何にせよ、せっかく目の前に復活の手がかりがあるんだから、もうちょっと頑張りたい。どうしてもダメなら水龍たんごとマテリアに連れ帰ろう。
(お前まで魔王みたいな考えでどうする)
推しからの正論が痛い。
(ま、こっちで何とか説得してみるわ)
セブはそう言うと水龍たんにもう一度向き合った。
「悪かった。だが、もう一度巫女に会うために、今は少しでも手がかりが必要なんだ」
セブの目が真っ直ぐ水龍たんの目を見つめてる。
「必ず返す。その時は、慈雨の巫女を連れてくると約束しよう」
「……わかった。やくそく」
水龍たんは丸まった尻尾の先をこちらに差し出してくれた。セブがそっと手を出すと、その指先に尻尾を器用に絡めてくれる。現代日本の指切りみたい。
「……水龍様、本当にいいの? 大切なものなんでしょう?」
ここまできて横槍入れてくるか。この巫女、どうしても私たちに耳飾りを渡したくないらしい。
「いいの! あめのみこのおともだちは、すいりゅのおともだち!」
天使だ。現代日本のオタクたちに届けたい、この笑顔。
「しゅくふくあげるね。ばいばい! またきてね!」
今回も精霊の力で城まで送ってもらえそう。それはいいんだけど、また巫女がついてきたらどうしよう。それに……。
一人でもやもや考え込んでたら、その不安が伝わったのかセブが巫女の様子を見てくれた。
「あんなアイテム知らない。原作にはなかった。急いで対策を練らないと。追加ルートの進行にも影響が」
……こっちには目もくれず、一心不乱にブツブツ呟き続けてる。
(……そっとしとこう。下手に触れない方がいいと思う)
(同感だ)
強い光に包まれ、私とセブはマテリア王城へと帰還した。その隣に巫女の姿はなかった。
***
それから三日。巫女から特にアクションはなく、私たちは次のダンジョンに備えていつも通りの日常パートを過ごしていた。
今朝もモルたんが用意してくれた朝食と紅茶をありがたくいただき、その後は執務室で書類とにらめっこ。
(セブってこれずっと一人でやってたの? 偉すぎない?)
(こういうのやってた奴らはだいたい処分したからな。俺がやるしかねぇだろ)
三日も経てばハーブの力を借りなくてもセブが目を覚ますってわかってきた。急ぎの時とか、体の主導権を渡したい時とかはどうしても必要だけど。
モルたんは今も目覚めのハーブ調理法研究を続けてくれてる。そのおかげで、特製ハーブドリンクは初期よりどんどん飲みやすさが上がってきてる。もうその辺の青汁よりよっぽどおいしいんじゃないかな。
主の体に極端な苦味を与えるわけにはいかない。そんなモルたんの志とたゆまぬ努力に心の底から感謝しつつ、私はセブにある提案をしてみることにした。
(ちょっと相談なんだけど)
(何だ)
(耳飾り受け取ったし、残りの二精霊は無視して慈雨の巫女作ってみない?)
実は水の聖域から帰ってきてずっと考えてたんだよね。この耳飾りって明らかにキーアイテムっぽいし、残り二精霊回ったところで慈雨の巫女の情報が増えるかはわからない。
暁光の巫女と一緒に精霊巡りをすればするほど追加ルートに近づくのは間違いないわけだし、だったらこれ以上行かない方がよくない? と思ったってわけ。
決してモルたんのハーブドリンクをこれ以上飲みたくないとかそういうことじゃない。むしろそれは今後も飲み続けたい。
(……)
ここで沈黙されるとちょっと怖いんですけど。せめて賛成か反対かぐらいは言ってほしいな。
(あのー……セブリオン・マテリアさーん……?)
(……駄目だ。精霊巡りは続ける)
反対されちゃった。なんでだろう?
(理由聞かせて)
(黒雲を払うには、どのみち精霊からの祝福が必要になる。だったらこのまま全部回った方が早いだろ)
うーん、確かに一理あるけど。
(それってマテリアの精霊じゃダメなの?)
慈雨の巫女が現れればマテリアの精霊たちも出てくるって水龍たんは言ってた。
推測だけど、慈雨の巫女の力で酸の雨を止ませるなら、マテリアの精霊から祝福を受けないといけないんじゃないかな。
(いるかいないかもわかんねぇ奴らを頼るわけにはいかねぇな)
セブの言う通り、マテリアの精霊が本当にいるって証拠はまだどこにもない。水龍たんの言葉だけを信じるのはちょっと楽観的すぎたかも。
……本当は、このまま追加ルートに近づくのが怖かった。魂の契り解消クエストのことがずっと頭から離れない。今回は巫女が何も仕掛けてこなかったけど、次はどうなるかわからない。だからつい水龍たんの言葉に縋っちゃったんだ。
(ごめん、セブの言う通りだ。今の話は忘れて)
(ああ、まあ気にすんな)
何かちょっと歯切れ悪い感じなのが気になるけど、とりあえずこの話は無し。気持ち切り替えて、風の精霊攻略のことを考えよう。
***
というわけで、水の精霊攻略から一週間。セブと巫女は風の精霊の聖域の前に立っていた。
「開いてる……?」
聖域の扉が、開放されてる。
「どういうことだ」
セブも巫女も、もちろん私も戸惑いを隠せなかった。聖域の扉は本来なら封印が施され、固く閉ざされている。だから火の聖域も水の聖域も、聖なる力を持つ巫女が扉を開けてきた。ここもそうなるはずだった。
「扉、壊されてる」
巫女が冷静に状況を分析してる。セブの目越しに私も扉を確認したけど、封印の紋が刻まれてたであろう箇所が派手に壊されてた。ということは、魔物の類いじゃなくて、封印の仕組みを知る人間がわざと壊したってことになる。
「セブ様気をつけて。中に侵入者がいるかもしれない」
「そいつは随分面白ぇ話だ」
何が起きてるんだろう。当たり前だけど原作にこんな展開はない。誰かが侵入したとして、いったい誰が? 何のために?
(ここでぐだぐだ考えても仕方ねぇ。進むぞ)
(そうだね、気をつけて)
セブには最大限警戒してもらうとして、私も怪しい奴が隠れてないかしっかり注意して、とりあえず聖域を攻略しよう。
「行くぞ」
「うん」
原作にはない侵入者のいる聖域へ、セブと巫女はいつにも増して慎重に歩みを進めていった。
一気に不穏になってきちゃった……!?
次回更新は火曜!
引き続きよろしくお願いします~!




