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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第2章:推しと対話

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2-14:これで泣かないのはどうしても無理


『魔王に転生したけど私、解釈違いです! ~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~』


第2章:推しと対話


2-14:これで泣かないのはどうしても無理


「陛下」


 モルの声に、私はハッと顔を上げた。銀色の瞳がこっちを見つめている。


「発言を、お許しいただきたく」


 モルの申し出を私は受け入れた。モルは一礼すると、巫女の前に進み出る。


「巫女様、今日のところはここでお引き取りいただけませんか」

「……何のつもり」


 巫女が露骨に顔をしかめる。けどモルはあくまでも礼節を保ったまま、毅然とした態度を崩さない。


「お引き取りください。貴女がお示しになった案で私の命が確実に救われるとしても、陛下はそのような手段はお選びになりません」


 モルの言葉に巫女はすぐ反応した。自身の末路を知らない哀れな従者に、心からの憐憫の目を向ける。


「あなたが知らないだけだよ、モル。あなたを喪ったセブ様が、どんなに悲しそうだったか……!」


 巫女が言葉を詰まらせてる。その目には、涙まで浮かんでる。


「だとしても」


 そんな巫女を前にしても、モルの意思は変わらない。


「私がかつての誇りを失うことを、我が君は決してお望みにならない」


 ――ああ、何ぐちゃぐちゃ考えてたんだろ、私。モルはセブのことちゃんと信じてる。巫女をナチュリアに帰したって大丈夫って心から信頼してる。


 なら、私の採るべき選択肢は一つだ。


「っつーわけだ。俺らが魂の契りを解くことはない。今日のところは解散だ。また来週よろしく頼むぜ」


 有無を言わさず巫女に帰国を促す。私もセブを信じる。モルが信じてくれるセブで在り続ける。


「……わかりました。その自信がいつまでもつか楽しみにしておきます」


 転移装置の場所は知ってますので、と巫女は一人で去ろうとした。念のため、モルに頼んで見張りの兵士をつけさせ、装置まで送らせる。

 応接室を出て行く巫女とモルを見送った私は、ソファーに深くもたれて独り溜息を吐いた。


 ……モルに助けられちゃったな。


 この世界で生きる生身のセブに、あくまでもゲーム内の数値に過ぎない「好感度」がどれだけ影響を与えるのかはわからない。けど、ナチュリアの王子たちだっていきなりあんな騒動を起こしたし、影響が小さいとは考えにくい。最悪の場合、魂の契り解消クエストが発動する。


 でもモルはセブを信じてる。そのことが私を何とか支えてくれた。


 兵士に巫女を任せたモルが応接室に戻ってきた。ソファーに深々ともたれてる主を見て、いたわるようにそっと声を掛けてくれる。


「お疲れでしょう、陛下。お茶をお持ちします。どうぞお部屋でお待ちください」

「……ああ、頼む」


 モルの優しさが沁みる。でもそれに甘えてちゃだめだ。私が油断してたせいで、巫女につけ込む隙を与えた。モルにも迷惑をかけた。


「モル」


 主からの呼びかけにモルが振り向く。

 私は、あえて私として、モルに頭を下げた。


「ごめん。私が油断したせいで。私のせいで、魂の契りが」


 私からの謝罪をモルは黙って聞いている。その目線が私と同じ高さまでゆっくりと下りてくる。


「陛下」


 銀白色の髪が揺れ、内側の薄紫色が僅かに覗く。

 モルが、跪いてる。私に。私なのに。


「顔をお上げください、陛下。しもべはいついかなるときも、陛下を信じています」


 ずるい。こんなの、陛下として答えるしかないじゃん。まるで本当にセブに向けているみたいな、モルの真っ直ぐな想いが、眩しくて、痛くて、うれしい。

 だめだ、さすがにこれ泣かないのはどうしても無理。モルたんごめん。本当にごめん。せめて思いっきり天井を見上げて、涙を見せないように耐える。


「ありがとな、モル」


 声が震えて上擦る。泣いてるのバレバレだ。こんなの私だって解釈違いだけど、今だけは許してほしい。

 モルは主の涙に触れることなく、そっと一礼すると紅茶を用意しに行ってくれた。

 私もセブの部屋に戻ろう。モルたんが紅茶を淹れて戻ってくる前に、いつもの陛下に戻らなきゃ。

 だけどその前に。部屋に着いた私はタヌキモモンガのぬいぐるみに狙いを定めた。


「ピッピ~~~~!! ピッピ聞いてモルたんが~~~~!!」

「ぐぇっ!? オイコラその顔と声でまとわりつくんじゃねーようっとうし……つーかオメー……泣いてる? 何があっ……俺っちで涙を拭くんじゃねー鼻水もやめろーーーー!」


 ***


 一週間後。セブと巫女は水の精霊の聖域に足を踏み入れた。

 私はセブに状況を説明して、巫女との会話は最低限にしてもらうようにお願いしてる。

 セブは実際その通りにしてくれてる。けど巫女の方は寂しそうな顔をしてはいるものの、あんまり動じてなさそう。もう規定の好感度に達したから関係ないって思ってるのかも。


 会話が控えめなせいか、火の聖域以上にサクサクと攻略を進めた二人はあっという間に最奥の精霊の座までたどり着いた。


「水の精霊よ、姿を現せ」


 魔剣ダモクレスを構えたセブが呼び掛ける。精霊の座が揺れて、青色の光とともに水の精霊こと水龍がその姿を見せる。


 その姿を見たセブは、思わず剣の構えを解いた。


「……小さいな?」


 原作と全く同じ反応。そう、水の精霊は、手のひらサイズ。その見た目は龍というよりどう見てもタツノオトシゴだ。


「まてりあの、おうさま?」


 かかか可愛い~! 舌足らずな幼い声。青くてつやつやな体。こっちを見てきょとんと首をかしげるその仕草。つぶらな瞳。


 水の精霊、通称「水龍たん」は原作ファンの間でも絶大な人気を誇る、作中屈指の萌えキャラなのだ。

 画面越しでも可愛かったけど、実際に目の前で見るともっと可愛い。このサイズ感。連れて帰りたい。


 いけない、オタクの思考を読まれて怖がられないようにしないと。平常心。


「水の精霊。慈雨(じう)の巫女について貴様が知る情報を余さず吐け」


 待てこの魔王水龍たんに向けて容赦なく魔剣を構えやがりましたね?


「こ……こわいの……」


(今すぐ剣を下ろせ水龍たんが怯えてるでしょうが)

(こいつは精霊なんだろ? ならこのぐらい別に……たん?)


 水龍たんを泣かせたら現代日本からオタクが大挙して押し寄せるぞ。


「もう、だめだよセブ様。精霊様が怖がってるよ?」


 困ったみたいに笑いながら、巫女は水龍に目線を合わせてかがみ、にこやかに話しかける。


「大丈夫、怖がらないで。この人は優しい人だよ」


 ちゃ、茶番~! そういえばあったなこの茶番。

 巫女の圧倒的聖女パワーで水龍たんはちょっとだけ警戒を解いてくれた。


「しゅくふくがほしいの?」

「そう。あたしたち、この世界を救うために精霊様の祝福を集めてるの」

「それと、慈雨の巫女の情報もだ」


 まだ若干の威圧感が残る魔王に怯えてはいるけど、水龍たんはセブが発した言葉に興味を示した。


「あめのみこ? きみは、あめのみこのおともだち?」

「あー、まあ、そんなところだ」


 見え見えの嘘だ……。でも、水龍たんは疑わない。


「おともだち! おはなししよ!」


 水龍たんはテンションが上がったのか、その場でくるくる宙返りしている。動画に収めたい可愛さ。

 その動きが、突然ぴたりと止まる。


「そのまえに、『しれん』しなきゃだった」


 水龍たんの周りに、大量の水がどんどん生成されていく。これ、戦闘前のムービーだ。


「セブ様っ! 気をつけて!」


 巫女が杖を構え、加護の術を展開する。目の前で急激に高まっていく水の魔力に、セブも魔剣を構え直した。


「いくよー!」


 精霊の座のあちこちで水柱が次々と噴き上がる。戦闘開始だ。


(セブ気をつけて。水龍たんはちっちゃくて可愛いけど油断しちゃだめ)

(さっきまでとずいぶん言うことが違うじゃねぇか)


 セブの言う通りなんだけど、こればっかりは仕方ない。普段は可愛い水龍たんだけど、戦闘時は絶対に油断しちゃいけない。


 噴き上がった水柱が渦を巻き、龍の形になってセブと巫女に襲い掛かる。何本も何本も、苛烈な攻撃が無尽蔵に繰り出され、辺りに飛び散った水しぶきさえも聖域の壁や柱を容赦なく抉り取る。

 そう、水龍たんは、カインルート狙いのオタクたちから最大の難関って呼ばれてるぐらい、超攻撃的な戦闘スタイルのつよつよ精霊なのだ。



情緒の高低差が激しい回だな?


次回更新は土曜です!

引き続きよろしくお願いします~!

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