2-9:追加ルートに進みたくないオタクと、進みたい巫女と、魔王
自由すぎる魔王セブリオン・マテリアは良からぬことを思いついたみたいです。
「由紀を慈雨の巫女として顕現させれば、酸の雨問題も俺の体から出たい問題も両方解決だろ」
あの、ちょっと待ってね? 俺天才みたいな雰囲気かもし出してますけど、全然状況前に進んでないからね?
「私の魂はここにあるからいいとして、結局体はどうするわけ?」
「……やっぱその辺で生贄確保するか」
「ダメです」
小学生向けの道徳の教科書とか借りてきたらいいのかな。
「そもそも、本当に私を巫女にするの? こんな魔力ゼロのオタクを?」
「暁光の巫女も同じオタクだろ? 何とかなるって」
うわあ推しの口からオタクなんていう単語を出させてしまった。全世界に申し訳なさすぎる。
いや、推しの口で喋ってるのは私の方か? どっちにしろダメだった。全世界のセブリオン・マテリアファンの皆さん本当にごめんなさい。
「陛下」
「どうした、モル?」
「暁光の巫女なら、慈雨の巫女について何か手がかりを知っているのでは?」
さすがモルたん! モルたんの言う通り、私と同じオタクでありかつ追加ルートの分私より原作に詳しいかもしれない暁光の巫女なら、何か知ってるかも。
「確かにその可能性はあるな。だが、それなら由紀も同じ情報を持ってるんじゃないか?」
「えっと、原作にはルート分岐があって……私が一周しかしてない方のルートを、巫女は何周もしてるはず。もしそっちのルートでしか取れない情報があるなら、巫女の方がずっと詳しいと思う」
私の説明を聞いて、セブはどうしてか少し納得いってないみたいな様子を見せた。
「どうして由紀はそのルートを一周しかしなかったんだ?」
うっ……嫌なとこ突くなぁ。セブは私が通常ルートを何十周もしてるの知ってるから、違和感持つよね。
っていうかセブ、本当に追加ルートの記憶は何も見てないんだ。もしかして、私が追加ルートのことを思い出したくなさすぎて心の奥底に封印してたから、セブも見れなかったとか?
「あのルートは……二人が魂の契りを解消しちゃうから……」
モルたんが勢いよく椅子から立ち上がった。
「魂の契りを解消する……? おれと陛下が……?」
そんなことあり得るはずがないって顔でこっちを見てる。一方で、セブは冷静だった。
「そうすればモルの命は助かるってところか」
私は黙って頷いた。それを見たモルたんはいつになく焦った様子でセブに進言する。
「陛下、私は」
「わかってる。そう易々と放してやるつもりはねぇから安心しろ」
セブの言葉を聞いて納得したのか、モルたんは静かに椅子に座った。けどその目にはまだ不安の色が残っている。
セブが改めて私に問う。
「暁光の巫女は今もそのルートを狙ってるってことで合ってるな?」
「うん。巫女はその、追加ルート以外は眼中にないと思う」
「なら尚更巫女に話を聞いた方がよさそうだな。追加ルートに進ませないためにも、奴の手の内を知る必要がある」
追加ルートに進ませないって聞いて、モルたんがちょっと安心したみたい。よかった。
ところで、私には一つ懸念点がある。巫女に話を聞くこと自体は賛成なんだけど……。
「もしかして、またナチュリアに行かなきゃダメ?」
前回は行かなきゃって思ったから巫女を助けに行ったけど、初回訪問のトラウマで、本当のところできればあんまりナチュリアには行きたくない。
「いや、向こうに来させる」
助かった~。セブはモルたんに、ナチュリアへ書状を送るよう指示した。
あとのことは巫女が来てから、ってことで本日の会議は終了。モルたんは書状を送るために部屋を去り、セブはピッピに口を返した。
「オイコラよくも俺っちのラブリーでキュートなミラクルボイスを奪いやがったなクソ魔王」
ピッピからの容赦ない罵倒を完全にスルーして、セブは私に問いかけてきた。
「何故追加ルートのことを黙っていた?」
「それは……」
「モルが生き残るなら、まず最初に俺たちに伝えるべきじゃないのか」
セブの言う通りだ。追加ルートに進んでほしくないのは、突き詰めれば私のエゴでしかない。
「……ごめんなさい」
「こっちも魂の契りをタダで解消できるとは思ってねぇ。何か良くないことが起きるから、黙ってたんだろ?」
「モルの記憶が全部消える。今までの人生を何もかも忘れて、蝶だったことも、セブのことも忘れて、最初からただの人間だったみたいに一人で生きていく」
「……そうか」
モルは絶対にそんなこと望まない。……これも、ただ私がそう思いたいだけなのかもしれないけど。だとしても私は、二人が主従をやめなくて済む道を探したい。
セブはそれ以上私を責めることはなかった。追加ルートに進ませないって言ったさっきの言葉は本音だって信じたい、けど。私の記憶越しに通常ルートでモルが死ぬところを見ちゃってるセブが本心でどう思ってるかはわからない。
何だかモヤモヤした気持ちを抱えたまま数日が経ち、暁光の巫女がマテリア王国を訪れる日が来た。
事前にナチュリアから来ていた返信には条件が書いてあった。私じゃなくて、セブ本人と話せるようにすること。そりゃまあ話せるなら推しと話したいよね。
条件を受け入れた私たちは、モルたん特製のハーブドリンクを飲んでセブに体の主導権を渡し、謁見の間で巫女の到着を待った。
「セブ様っ!」
巫女、やけに嬉しそうだな? ……あれっ、ちょっと待って。
すっかり忘れてたけど、これって三度目のマテリア訪問イベント扱いになっちゃったりしない、よね? もう原作と全然違うこと起きまくってるし、気にしなくて大丈夫だよ……ね……?
巫女は間違いなく今でも追加ルート突入を狙ってるはず。今日いきなり突入確定しちゃうことはさすがに無いと思うけど、警戒は怠らないようにしなきゃ。
「セブ様、ひとつだけお願い聞いてもらえますか? あたし、セブ様と二人きりでお話したいです」
モルに退室しろってことね。巫女にお願いして来てもらってるのはこっちだし、仕方ない。条件を呑んで、モルには外に出てもらうことにした。
去り際、モルがセブの耳元で囁いた。
「由紀、陛下を頼む」
モルたん……!! 推しが私に直接お願いを……!? 奇跡すぎるありがとうモルたん。絶対絶対応えるね。
追加ルートへの進行を防ぐためには、魂の契り解消クエストを発生させないのが何より大事だ。そのことは事前にセブに伝えてあるし、注意が必要な会話も一通り教えた。
原作プレイ時、決して追加ルートに踏み込まないように周回し続けた私は、どの台詞がフラグになり得るか全て把握してる。
でもそれは相手も同じ。向こうは逆に何度も追加ルートを周回プレイしてきてる。どうすれば魂の契り解消クエストに持ち込めるか、私と同じぐらいには知り尽くしてるはず。
一瞬たりとも気は抜けない。セブと巫女の会話の流れをしっかりと見届けなきゃ。私に託してくれたモルたんのためにも。
巫女の猛攻、始まる。
次回更新は木曜!
引き続きよろしくお願いします~!




