2-5:暁光のセブリオン・マテリア
皆さん、お待たせいたしました。私の中で眠ってたセブの魂がいま再び目覚めのときを迎えようとしています。
ということで、とりあえず「目覚めのハーブ」をもりもり食べてみたんだけど……にっっっっっっがい。
「う゛ぇっ……み……みず……」
この苦味、何とかならないのかな……推しと交代する度にこれだとさすがに私のメンタルがもちませんけど……。
モルたんが部屋の水差しから水を注いできてくれた。優しさが沁みる。天使。もちろんこんなときでも、モルたんは事前の毒味を忘れない。今日も完璧。早くこの素晴らしい心遣いをセブ本人に浴びてほしい。
「……で、この後はどうすれば……?」
前回は私の気合いというか力業というかで無理矢理セブを起こしたけど、もうちょっとスマートに交代する方法ってないのかな。あとできれば今度こそ私の意識を保ったまま交代させてほしいんですが。私は祈るような気持ちでスカルの顔をじっと見た。
「今回はぼくがお手伝いします」
心強い。魂に詳しい系王子のスカルが力を貸してくれるなら百人力だよね。どうか今度こそ貴重なセブモル供給緊急生放送を見逃さないで済みますように……!
「それじゃいきますね。倒れると危ないので、ここに座ってください」
スカルが出してくれた椅子に座り、次の指示を待つ。
「目をつぶって。ゆっくり呼吸して。もう少し……」
何か催眠術みたい。いつもより少し落ち着いた感じのスカルの声が心地いい。言われるがまま、私は少しずつ意識を手放していった。
(……由紀さん、由紀さん聞こえますか? スカルです)
名前を呼ばれて私は目を覚ました。……真っ暗だ。体の感覚もない。ただスカルの声だけが直接頭の中に響いてくるみたいに聞こえる。返事、した方がいいんだよね? でも、どうやったらいいんだろう。とりあえず念じてみるか。
(由紀です……聞こえてます……!)
(よかった……! 今から由紀さんの魂と魔王様の魂がお話しできるように、ぼくが繋ぎますね)
えええいきなり!? ちょ、ちょっと心の準備が追いついてないんですけど!?
(あのっ、待っ、えっとその、い、今私とセブの魂はどういう状態なんですか!?)
(今、セブリオンさんの魂は完全に目覚めて表に出ています。由紀さんの方は『眠っている』状態に近いですね)
へー、そうなんだ。全然実感がない。いやそれどころじゃない待って待って、私、とうとう推しと対話できるんですか!? 本当に!? 現実!?!?
(そう気負わずに、契りの紐のお試し版だと思ってください。じゃ、繋ぎますね)
どうしようヤバい落ち着け自分こういうときは素数だ素数を数えろよしいくぞ……えっと……0? 0って素数? あれっ1から? 無理~! 数学わかんなすぎる~!
(お前が由紀か)
待っ!!? 待ァッ!!!?? CV:大野坂絵夢也~!! まってたすけてむりかも。寿命が向こうから来てる音がする。
(……落ち着け)
エ゛ッ待ってくださいこれもしかしなくても今私の思ってること駄々洩れな感じですか……?
(そういうことになるだろうな)
いやプライバシーという概念どこいった。違うそうじゃない。とりあえず謝罪をだな。
(た、大変申し訳ございません……こんなお聞き苦しいオタクの叫びを……というかあの、ずいぶん長いことお体お借りしてしまってすみません……マントも本当ごめんなさい弁償します……)
(今はそれいいわ。それよりお前に確認したいことがある)
わぁ~心が広い! さすが推し! 一国の王!
(……)
(すみません一人ではしゃいで申し訳ございません。一切気にせずスルーしてください。で、確認したいこととは?)
私が問いかけると、真っ暗だった目の前が突然開けて明るくなった。
(ひぇあぉウッフ!?)
びっくりして変な声出ちゃった。
(悪ぃ、そこまでビビると思ってなかった。見えるか?)
どうやらセブが視界を共有してくれたみたい。自分では動かせないけど、セブの動きに応じて見える範囲が変わる。
椅子に座ったままのセブをモルたんと巫女が心配そうに見つめてる。セブの目から見るモルたん、味わい深いですな。……あ゛っ待って露骨にモルたんから視線を外さないでくださいごめんなさい。
(こいつが暁光の巫女だな?)
目の前には、ネクロマンサー衣装でソウルイーターを持った巫女が映ってる。
(はい)
(お前の前世の記憶で見たときと雰囲気が違うんだが、ナチュリアの王子どもといるときのこいつは、原作の感じで合ってるか?)
(たぶん、合ってるんじゃないかと……記憶?)
ちょっと待って。この男今聞き捨てならないことを言いませんでした? 記憶? てか原作とも言いましたね?
(確認したかったのはそれだけだ。あとは俺に任せときな)
いや待って? 絶対任せといちゃいけない気がするんだけど。
あっ、視界が高くなった。椅子から立ったのかな。ああっモルたんが主の帰還を察して跪いてるっ! そっち見てそっち!
「お前が巫女だな?」
「はいっ……!」
いやそっちじゃないんですよぉっ! 逆! 逆サイド!
(気が散る。黙れ)
(大変申し訳ございません)
気を取り直してここからは静かに実況するね。あとさっきの聞き捨てならない台詞は後ほど確認させてね。
「セブ様……やっと、本当に、会えた……」
暁光の巫女、感極まってる。けどセブは完全にスルーしてるっぽい。
「モル、俺は面白ぇことを思いついた。王子どもの対処は俺に任せとけ」
「承知いたしました。我が君のお望み通りに」
供給~!! これ、これです!! この世界に来て、やっと、はじめての、セブモル会話シーンが!! 録画させてくださいお願いします!! あんまり騒ぐと怒られるからこの辺にします!!
でもねモルたん、お望み通りにとは言うけど、間違いなく良くないこと考えてるよこの人。私は正直嫌な予感しかしないんですが。
と思った直後、視界全体が何か黒い炎みたいなものに包まれた。
(ええっ怖っ何!?)
(いいもん見せてやるから、黙って見ときな)
数秒後、黒い炎みたいなのは消えた。ほっと一安心……おや? 何か視界低くなってない? 巫女と同じ目線になって……る……? しかもちょっと待って、みんなやたら驚いてない? 巫女とかあご外れそうな勢いですけど。
「うん、いい感じ♡」
ハアァァッ!? お、推しの口から、巫女の声が!
こいつ、この男、やりやがった。暁光の巫女に変化したんだ。……なにゆえ?
「行こっ、スカル」
待て待て待て颯爽とスカルの手を取って部屋の外に向かうんじゃない。とんでもないやつですよこの推しは。
(まあ見とけって。あ、いざとなったらフォロー頼むわ)
頼むわ、じゃないわ! モルたんこんなのに日々付き合わされていたのか……苦労してたんだな……。
というわけで、モルたんと巫女を部屋に置き去りにして、巫女に扮した魔王と第四王子スカルが部屋の外に出てきちゃいました。外には地の底から舞い戻りし兄王子たち、カインとヴァニアの二人がいるわけですが……ん? ちょっと待って。王子、増えてない?
「巫女、無事か!? すまない、弟たちがこんなことを……」
ルビーだ。ここの騒ぎを聞きつけて来てくれたのかな。
「兄上! このような者に慈悲をかける必要などありません! 今すぐ俺が成敗してご覧に入れますッ!」
「させないよ、カイン兄さん。姫は俺との将来を望んでるんだから」
暴走甚だしい弟王子たちにルビーが頭を抱えてる。かわいそうに、この人ナチュリア唯一の常識人だからなぁ。
すると、スカルの手を離し、巫女が王子たちの前に歩み出た。
「みんな、あたしのせいでこんなことになってしまって……本当にごめんなさいっ!」
勢いよく頭を下げた巫女に、王子たちの視線が集まる。
「あたし、みんなのことが同じぐらい大好きで、大切で……だけど今は、黒雲を払うお役目も果たせていないから……世界を放っておいてあたしだけ幸せになるなんて、今はどうしても考えられないの」
これ、魔王が言ってるんですよね? モルたんに顔向けできなさすぎる。大切な主にこんなことをさせて、オタクは申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも本人が一番ノリノリなんだよなぁ。
「巫女……」
「姫……」
嘘でしょみんな魔王に絆されてる。こいつは巫女のガワを被った最強の魔王ですよ?
「だからお願い。世界が平和になるまでは、みんな今までどおり大切なお友達でいてくれる?」
ま、魔王からあふれんばかりの聖女パワーが漏れ出してる~! 王子たちの心が浄化されてる!
涙をこらえる感じでほんのり震えた声に、恐らく潤んだ瞳での上目遣い……セブモル界隈のみんな、大丈夫そ? 息してる? 今はなき作業通話アプリを開いて緊急会議ものだよねこんなの。
こうして、魔王の聖女パワーに完全に騙された兄王子たちは、まるで憑き物が落ちたぐらいの晴れやかさで塔から去っていった。
(ざっとこんなもんだろ)
(いったいどこでこのあざとさを……?)
(元々変化は得意だからな。お前の記憶も大いに参考になった)
(そのことについて詳しくお話しいただきたいのですが)
こいつ見てますね? 私の記憶、覗いてますね?
(ああ、見たぞ)
プライバシーという概念、ご存知~!? こんなあっさりと「それが何か?」みたいな感じで言われるとは思ってませんでしたけど!?
前世ってワードが出たから現代日本でオタクやってた頃のやつか。原作ってワードも出たけどこれはつまり二次創作の記憶も……見られ……?
社会的死では??
強く生きてほしい
次回更新は木曜です!
引き続きよろしくお願いします~!




