2-2:中の人への質問は御法度です
停戦中の隣国ナチュリアから、いきなり第四王子が助けを求めてやって来ましたよっと……なんで?
自分で言っててなんだけど、意味が分かんない。しかもナチュリアにいる暁光の巫女のピンチを、なぜマテリアの魔王に?
第四王子スカルは玉座の前で跪いてこっちを見上げてる。さっきまで必死で助けを乞うていたその口から、ナチュリアで今何が起きているのかがようやく明かされようとしていた。
「兄さんたちの様子がおかしいんだ。マテリアから戻った次の日、ルビー兄さんが巫女さんと婚約を結ぼうとして」
待って早速ついていけない。巫女はルビーの好感度なんてほとんど上げてなかったはず。突然何がどうしてそうなるわけ?
情報が少なすぎるから、ひとまずスカルの説明の続きを待つ。
「巫女さんはルビー兄さんからの求婚を断った。そしたらカイン兄さんが怒っちゃって……巫女さんを追放しようとするから、ヴァニア兄さんが匿ってるんだ」
とにかく王子たちが揉めてるってわけね。ちょっとだけ状況が見えてきたかも。念のため合ってるか確認しとこう。
「ほう、では巫女は今ヴァニアのもとにいるのだな」
「はい。ただ……ヴァニア兄さんも様子がおかしくて……巫女さんのこと部屋に閉じ込めて、カイン兄さんたちだけじゃなくて誰にも会わせないようにしてるんだ」
「軟禁状態、というわけか」
スカルは頷き、そのまま俯いてしまった。
私の見立てによれば、これは、あれですね。好感度システムが悪さをして、いろんなことがあちこち拗れてややこしくなってるやつ。
はっきり言って関わりたくないんだけど、このまま放置してもし巫女に何かあったら、この世界を救えなくなっちゃうかもしれない。それは困る。
「わかった。力を貸そう」
スカルが勢いよく顔を上げた。その口元は信じられないといった風にぽかんと開いてる。かと思えば、見る見るうちに満面の笑顔に変わっていった。
「ありがとうございます! このご恩はいつか必ずお返しします!」
スカルが何度も何度も頭を下げてくるから、若干申し訳なく思えてきちゃった。一応相手は隣国の王子様なわけだし、あんまり無下にするのもよくないよね? ちょっとだけ優しくしておこう。
「構わん。我がしもべに秘術を授けたのはお前だろう? その借りを返すだけだ」
あ、どうしてそのことをってリアクション。この前モルたんから聞いちゃったんだけど、もしかして秘密だった?
モルとの取引がバレてどぎまぎしてるスカルは、何を血迷ったのか魔王にこんな質問をぶつけてきた。
「あの、あなたは今……魔王様、なんですか? それとも……」
それ今聞く!? 何考えてるんだこの王子。今、魔王セブリオン・マテリアの中の人はオタクですけど!?
背後からモルたんの咳払いが聞こえてきた。これはおそらくお怒りですね。スカルにも伝わったのか、肩をびくりと震わせてか細い声でごめんなさいって謝ってきた。
全く、余計な事言ってくれちゃって。ちょっと優しくしとこうと思ったけどやっぱ無し。
「お前は我が魂の中にいる者が見えているな」
「!? は、はい……」
「ならば、中の魂と俺が自由に会話できる術も知っているだろう?」
この際だから聞けることは聞き出しとかないとね。と思ったら、なぜかスカルは不思議そうな顔でこっちを見てる。
「? そのようなこと、魔王様ならぼくに聞かなくても……」
うんそれはその通りなんだけど! そうじゃなくて! 中身がオタクのときの話をしてるんですよ! 伝われ!
私の魔王らしからぬ必死の顔芸からスカルは何かを感じ取ってくれたらしい。助かる。
「そういうことなら、えっと、『契りの紐』がおすすめです」
「契りの紐?」
そんなアイテム原作にあったっけ?
「ぼくが魔王様の中にある二つの魂を見て、それぞれと相性がいい紐を組んで編みます。その紐を身につけることで、魔王様とその人の魂は魔力を使わなくてもぐっと近づきやすくなります。そうすればきっと話せるようになるはずです」
便利アイテムじゃん。絶対ゲットしなきゃ。紐ってことはミサンガみたいなものかな。
「それをいただこう。巫女の救出は任せておけ」
取引成立。いきなり変なこと言われてびっくりしたけど、おかげでやっとセブと話せるようになりそうだし、結果オーライだよね。
そんなこんなで、私はスカルに巫女救出のお手伝いをするって約束し、準備が整い次第ナチュリアを訪ねることとなった。
去っていくスカルを見送った後、すかさずモルが主の前に進み出て跪く。
「陛下。かの者への助力、本当によろしいのですか」
「何か懸念があるのか?」
「陛下を誘い込む罠の可能性が」
モルが心配するのも無理はない。スカル本人が嘘ついてる可能性はないと思うけど、暁光の巫女がスカルを騙して私をおびき寄せてる可能性は十分あり得る。
でも、もし仮に罠だったとしても私は行く。セブの体から脱出するために、とにかく今の状況を何とか動かしたい。
もちろん、出来るだけ危険な目には遭わないように。身の安全を確保すべく、私はモルにこう告げた。
「心配には及ばねぇ。お前も来るだろ、モル」
モルは少しだけ目を見開いた。
「私も、ですか」
「城の修繕は配下どもに任せとけ。ナチュリアのやつらも王子があのザマじゃ攻めてこねぇだろ」
私の提案を聞いて、モルは迷っているみたいだった。少し間をおいてから、モルは真っ直ぐこっちを見ながら口を開く。
「それは、陛下としてのお考えでしょうか。それとも……」
そういうことね。私の独断なのか、原作通りのセブの意見なのか聞きたいわけだ。
もう原作にないルート突き進んじゃってるから、これは完全に私の独断。だけどきっと、セブも同じように行動すると思う。だから、私の答えはこう。
「両方だ」
ちょっとずるい答えだったかも。だけどモルは納得してくれた。
「かしこまりました。私も、陛下とともにナチュリアへ参りましょう」
モルの合意を取り付けた私は、早速ナチュリアへと向かうべく、城じゅうの配下に対して不在の間の指示を済ませておく。それから自室に戻り、ピッピに状況を報告した。
「なんでまたナチュリアはそんなややこしーことになってんだ?」
「推測だけど、今は原作でいうとエンディングを迎えた後の状態になってるんだと思う」
原作でエンディング後に起こるイベントはただ一つ。個別ルートに突入した王子と巫女の婚約だ。
「ちょっと待てよ。ユキの話じゃ、あの巫女はセブリオン狙いなんだろ?」
「そう。だから巫女は『誰のルートにも入ってない』はず」
その場合、第一王子のルビーと結ばれることになる。たぶん今巫女にはこの条件が適用されてる。
厄介なのが、原作だと王子からの求婚を断る選択肢は無いんだよね。だけどセブ狙いの巫女は容赦なく断っちゃった。
「というわけで、王子たちによる巫女争奪戦が始まっちゃったかもしれないってわけ」
「あー……」
ピッピからめんどくせーって感じの声が漏れた。わかるよ。
「なんでマテリアの魔王がナチュリアの痴情のもつれを面倒見てやんなきゃなんねーんだよ」
うん。ピッピの言う通り。それは本当にそうなんだけど。
「セブと話せるようになるかもしれないし、それにもし万が一巫女に何かあったら黒雲を払えなくなっちゃうから」
実際は巫女に頼らないやり方もあるかもしれない。けど現時点では、酸の雨を降らせる黒雲を払ってこの世界を救うためには、巫女の協力が不可欠。
王子たちを雑に扱ったり、モルに酷いことして平然としてたり、私だってあの巫女に思うところがないわけじゃない。今回のことだって自業自得だって思うけど、それでもし死なれちゃったら後味悪すぎるし。
「というわけで、ちょっとナチュリア行ってきま~す!」
魔王らしからぬ軽いノリでピッピに挨拶し、私はモルと一緒にナチュリアへと向かう。
ナチュリアへの移動は転移装置で。帰りはまあ四人の王子の誰かが何とかしてくれるって信じよう。無理なら馬とかで帰るか。乗ったことないけど。
転移装置に乗る直前、私は気になっていたことをモルに訊いてみた。
「そういえばモル、俺がナチュリアに行ったとき、なんで付いてきたんだ?」
どう考えても訊いてるのは私なんだけど、一応セブが言ってるていで尋ねたおかげか、モルも主にお答えする感じで丁寧に語ってくれた。
「普段の陛下であればご自身のお召し物に躓かれることなどあり得ないと判断し、僭越ながら後を追わせていただきました」
やっぱりマント踏んづけたあれが原因か~。というかモルさん、言い方は丁寧ですけど、言外に私のポンコツっぷりをディスってません?
「陛下が第四王子の部屋から出られてすぐ私も潜入し、室内にいた第四王子から陛下の中に在るもう一つの魂について聞き出すことに成功いたしました」
ここで完全にバレたってことね。思ったより早いな……。
「魔王から巫女を守ってやると適当な口約束を交わすと、王子は魂に触れる秘術について簡単に口を割りました。その後は人目を避けるべく建物の外へ出て裏庭に潜み、どうやって陛下のいらっしゃる塔の上の部屋まで登ろうかと思案していたところ、ぬいぐるみ姿の陛下が空から降ってこられた、というわけです」
そっかぁ……推しが完全に一枚上手でしたね……さすがモルたん……。
「陛下」
「……何だ」
急にモルが転移装置の前で跪くからちょっと戸惑っちゃった。
「どうか、くれぐれも、決してご無理はなされませんよう」
あっ、釘刺されてますね。我が君のお身体で無茶なことしやがったら殺すの意味ですこれは。
「……肝に銘じるとしよう」
そんなこんなで、いざナチュリアへ。巫女救出クエスト「塔の上に幽閉されたお姫様を助ける的なやつ」スタートです。
早く欲しい契りの紐!!
次回更新は土曜!
引き続きよろしくお願いします~!




