2-1:私だけ話せてないのおかしくない?
皆さんごきげんよう。由紀です。
暁光の巫女によるマテリア侵攻から三日。現代日本から推しの体に転生しちゃった限界オタクの私は今……激しく落ち込んでいます。
推し主従の感動の再会シーン……見逃した……絶対絶対絶対絶対見たかったのに……!!
セブモルのオタクとしてこれ以上の失態、ある? 無いよね? 私が意識を失っている間に復活したセブが魔剣の一閃で巫女を撃退、見事感動の再会を果たしたセブモルは二人きりで謁見の間を後にしたんですよね? なんで私が見てないときにそういうことするんですか?
「ま、ドンマイ。そのうち見れるって」
部屋のすみからタヌキモモンガのぬいぐるみピッピが雑に慰めてくる。雑すぎてムカつくけど、貴重なセブモルの再会シーンは現状こいつの目撃談からしか享受できない。
「つーか同じ体にいるんだし記憶覗きゃいーじゃん」
「それは倫理的にアウトだから」
いくらなんでもね。人としてね。さすがにね……ごめんなさい。実はこっそり見ようとしました。今回だけはどうしても、どうしても我慢できなくて……!
まあ残念ながら見れなかったんですが。前は見ようと思えば見れたのになんで? 人の道を外れて成果ゼロ、つらすぎ。
それとですね、一つ全然納得できないことがあって。
「私だけ一回もセブに会えてないんだけど」
モルもピッピも、巫女でさえ本物のセブを目撃したり会話したりしてるのに。私だけがまだ会えてないのおかしくない? 距離的には一番近くにいるのにな?
「近くにいるほど見えないことって、あるだろ?」
「何いいこと言った感出してるんだこのタヌキ」
ぬいぐるみだから表情動いてないけど、絶対ドヤ顔で言ってるわこいつ。声がドヤってる。
セブモル感動の再会記念日以降、セブの魂はまた眠っちゃったらしい。無事なのはわかったし、きっとまたすぐ起きてくれるとは思うけど、とりあえず今は私がこの体を使ってる状態。
領土をめぐって争っていたマテリア王国とナチュリア王国は、一時停戦状態になった。実際のところは、一方的に攻め込んでいたマテリアがお城ボロボロになっちゃって余裕ないから侵攻をやめたって感じ。
停戦をいいことに、モルは早速ナチュリアから目覚めのハーブの仕入れルートを確保したみたい。しごでき。
というわけであれから三日、私は未だにセブ本人とお話しできてない。どうやったら話せるようになるのかも、今のところハーブぐらいしか手掛かりがない。
でも、一つだけいいことがあった。部屋のデスクに残しておいたメモ書き。「あなたと はなしたい」の下に「俺も」って書かれてた。
これ、あの、セブの直筆ですよね? 推しから直筆で返事が来たということで合ってますよね? 家宝、生まれちゃったな。保存用にラミネートしたいんだけど、マテリアにラミネート機ってありますか?
あっ、もちろん例のセブモル小説は処分済み! 正直名残惜しかったけど、これ以上推しの目にあんなものを触れさせるわけにはいかないからね……!
「ところでユキ、原作だとこのあとどーなるんだ?」
それ私も気になってたんだよね。原作だとマテリア侵攻は一度始まったらエンディングまで戻れないはず。つまり本来なら、セブもモルもあのとき死んでないとおかしい。
でも今、私たちは普通に日常を送ってる。私もモルも無事だし、巫女やナチュリアの王子たちもたぶん普通に生きてるだろうし。
まだ原作の時間軸が始まって半年も経ってないけど、状態としては三年目のエンディング後と同じ……ってことになるのかな。
原作の通常ルートだと王を失ったマテリア王国はナチュリア王国に併合される。死んだ魔王から解放された魔力と巫女の祈りで黒雲が晴れ、酸の雨が降らなくなった世界でナチュリアからの支援を受けながら、マテリアはナチュリアの一部として緩やかに復興していく。
けど今のこの世界だとセブは生きてるし、ナチュリアから併合の話も出てこないし、正直言って全然先が読めないんだよね。
「原作はマテリア侵攻で終わりだから、この先どうなるかは私にもわかんない」
するとピッピがいきなりはしゃぎ出した。
「やったじゃねーかユキ! 死ぬはずだったセブリオンが死ななかったってことだろ!?」
そうなるのかな。私はピッピみたいに素直には喜べなかった。
確かにセブモルはマテリア侵攻を生き延びた。けど、暁光の巫女はまだセブ攻略を諦めてないだろうし、マテリアを侵す酸の雨も止んでない。私もまだセブの体から出れてないし、相変わらず問題は山積みだ。
……だけど、確かにピッピの言う通り、最大のピンチ「マテリア侵攻」は乗り切った。たぶんここからは原作にないルートに突入するんだよね。ってことはつまり、セブモルが主従のまま生存する真ルート、始まったんじゃない?
なんかテンション上がってきたかも。この調子でセブの体から出て、推し主従を見守る壁としてセブとモルたんが黒雲の晴れた世界で幸せに生きていけるように頑張ろう!
「陛下」
噂をすればモルたん! 控えめなノックの音と大切な主を呼ぶ柔らかな声音が本日も完璧でございますな~!
「どうした」
私はセブとしてお返事をする。セブの魂が目覚めた以上、私は私として話した方が良くない? って思ったんだけど、モルたんはセブの見た目で私の口調で話されるのがどうしても無理みたい。
というわけで私は今も、かつてなりきりアカウントで鍛えたセブのRPを続けている。推しの要望が最優先だからね。仕方ないね。
さて、モルたんの用件は何だろう?
「ナチュリアより、第四王子が陛下にお目通り願いたいと」
スカルが? 一人で? なんで?
理由が読めないけど、嫌な予感しかしない。私は扉の向こうで待つモルに「わかった」と告げ、魔王特有の丈の長いマント(予備)を羽織り部屋を出て、モルとともに第四王子スカルの待つ謁見の間へと向かった。
謁見の間に入ると、玉座の前で本当にナチュリアの第四王子スカルが跪いていた。ちょっとびっくりしちゃった。あくまでも魔王らしく堂々と玉座に腰掛け、私はスカルに呼びかける。
「面を上げよ」
スカルは恐る恐る顔を上げた。まあ、上げたところで長い前髪に隠れた顔は下半分ぐらいしか見えないんだけど。
こないだの侵攻でこっちの強さを思い知ったからか、それとも魔王の体にオタクの魂が共存してるのが怖いのか、スカルはかなりおどおどしているように見えた。
そういえばこの子、人前とか苦手なタイプだったな。なるべく優しく接してあげたいけど、今の私は泣く子も黙る最強の魔王セブリオン・マテリア。
「ナチュリアの王子が護衛も付けずおいでになるとはな。用件は何だ」
スカル、魔王の威圧感を前に小型犬みたいにぷるぷるしてる。ごめんだけど推しからのご要望だからこの感じ、崩せないんだ。
スカルはしばらくの間震えていたけど、やがて意を決したみたいに私を見上げ、はっきりした声でこう言った。
「マテリアの魔王様、お願いです。暁光の巫女を助けてください!」
えっ? 待ってどういうこと? ナチュリアの巫女を、マテリアの魔王に助けてほしいって?
危うく「ごめん何て?」って訊き返しちゃうとこだった。グッと堪えてリアクションが遅れた私に、スカルは重ねてお願いしてくる。
「このままじゃ巫女さんが危ないんだ。もう頼れる人はあなたしかいなくて……お願いします……どうか……!」
どうしよう。全然状況が読めない。魔王が助けないと巫女が危ないって、一体何がどうなってるんですか……?
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