1-18:【急募】スクショ班
敵国ナチュリアの火、水、風、土を司る四人の王子と、聖なる力を秘めた暁光の巫女。
マテリア王国の魔王セブリオン・マテリアこと私と、従者モル、そして使い魔ピッピは今、ナチュリアから殴り込みにやって来た五人と対峙している。
「陛下、かの者も?」
「ああ、転生者だ」
主である私を庇うように前に立ったモルは、巫女が転生者だと聞くや否や「ほなぶっ殺してもええか」の顔をしている。そういうのやめようねモルたん。
巫女はそんな私たちの会話を聞いて、モルが私の正体を把握してるって感づいたみたい。露骨に顔をしかめてきた。
「気に食わないですね。セブ様じゃないくせに、当たり前のようにそこに居座って。今あたしが正しい場所に葬り去ってあげます」
今度はモルが機嫌を損ねた。モルは巫女が「セブ様」って呼ぶのを断じて許さない。
「陛下の御前だ。口を慎め」
「あなたに用はないです。彼らと遊んでてください」
四人の王子が一歩前に出た。モルも剣を構え、背後の私に呼び掛ける。
「お下がりください、陛下。ここは私が」
「モ、モルっ」
私は魔王モードをあえて崩し、小声でモルを呼び止めた。本格的なバトルに突入する前に、モルにはどうしても言っておかなきゃいけないことがある。
「実は私、魔法が……」
それを聞いたモルはさっと振り向くと、特に表情を変えることなく跪き、穏やかな声音で私に語りかけてきた。
「ご安心ください、陛下。かの者どもを相手に、陛下のお手を煩わせることなどあり得ません」
お、推しが強気~! ちょっとドキドキしちゃった! モルは主を安心させるように微笑むと、ゆっくり立ち上がって、私の耳元にそっと顔を近づけた。
「決して前に出るな。大人しく見てろ。陛下のお体に一つでも傷をつけたら、殺す」
こっっっわ。絶対前に出ないようにしよ。
でも、大丈夫かな。いくらモルでも一人で四人プラス巫女の相手はさすがに無茶じゃない?
……って思ってたけど、全然杞憂でした。この人、めちゃくちゃ強い。
よく考えれば当然だよね。モルは本来ゲームの最終盤、ラスボス戦の一戦目でセブと同時に戦うことになる相手。つまり、ステータスつよつよ。こんな開始一年目のギリギリ育成状態の王子たちなんか相手じゃない。
しなやかな剣さばきと防御魔法で、モルはあっという間に四人の王子たちを戦闘不能に追い込んでしまった。
もちろん巫女は賢者の魔晶石を使う。復活した王子たちをモルが倒す。また石を使う。その繰り返しで、巫女が持ち込んだ魔晶石はすぐに底をついた。
「女。貴様は殺す。言い残すことがあれば聞いてやる。言え」
ちょっと待った。暁光の巫女を殺されちゃうのは困る。巫女がいないと、この世界に酸の雨を降らせる黒雲を誰も払えなくなっちゃう。
「殺すな。その女には利用価値がある」
モルがものすっごく不服そうな顔してる。ごめんだけど我慢して。
私の言葉を聞いた巫女が、じっとこっちを見てる。
「そう言ってくれると思ってたよ、セブ様」
巫女が不敵な笑みを浮かべた。何だろう、嫌な予感しかしない。
そのとき、急にめまいに襲われた。立っていられなくなった私は思わずその場でしゃがみ込む。
なにこれ、何もされてないはずなのに息が詰まる。苦しい。
「陛下!」
モルがすぐ駆け寄ってくれた。落ち着け私。原因を特定しろ。
巫女が何かしたんだ。でも暁光の巫女の術にこんなのない。じゃあ王子たちから教わった術?
真っ先に思い浮かんだのはヴァニアの風の術。相手の周囲の空気を奪って呼吸できなくさせ、体力をじわじわ削る。
違う。すぐ近くにいるモルが無事ってことはこれじゃない。もっと私個人に直接攻撃するタイプの術……スカルだ。
地面を介して相手単体の魂に直接ダメージを与える、あらゆる防御一切無視の土属性上級術。
好感度に応じて王子の成長度も高まるこのゲームで、今の巫女のパーティで最も育成が進んでいるのは間違いなくスカルだ。上級術の一つや二つ教わっていてもおかしくない。
だとしたら、この状況を脱する方法は一つ。
「モ……ル……!」
息も絶え絶えに私は従者の名を呼ぶ。モルが主の声を聞き逃すまいと口元に耳を寄せる。
「俺を……抱き上げろ……!」
モルの頭に無数の「?」が浮かんでる。わかるよモルたん。でも今細かいことを気にしてる場合じゃないんだ。
土属性のこの術は、対象が地面に接している限り効果が続く。ここでいう地面は、床や絨毯も含む。
要はゲーム的に判定が「地面」扱いになっている箇所に体が触れてたらアウトってこと。逃れるには何かの上に乗るか浮くかしかない。
「早く……!」
モルには悪いけど細かい説明をしてる暇なんてない。私の鬼気迫る様子に思うところがあったのか、モルは意を決して主の体を担ぎ上げた。
「失礼いたします、陛下」
私の体がふわりと持ち上がり、息苦しさが消えた。よかった。助かった。ホッと安心して顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、モルの横顔だった。横顔?
銀の内側に隠された、薄紫色の髪が揺れてる。この体勢。あの、モルさんあなたもしかして、お姫様抱っこ、してませんか? してますね?
スクショ班!! スクショ班どこ!? はよ!! セブモル界隈のみんな!! 大事件です!! セブモルが!! お姫様抱っこを!! 公式が!! 大丈夫重くない!? どうなってるの!?
…………どうしてここにいるのがセブリオン・マテリアではなく私なんですか???? 推しと推しが織り成すはずの奇跡の光景にオタクが紛れ込んでるの本当に無理。申し訳なさすぎて消え去りたい。この眺めは、セブリオン・マテリアにのみ許されているものではないのですか。
「玉座に……下ろせ……」
情緒が乱高下して吐きそう。どっちにしろこのままじゃモルも戦えないし、さっさと下ろしてもらおう。この主従、本当ごく自然に距離が近い。可及的速やかにセブに体を返さなきゃ。せっかくのセブモル新規供給が私のせいで台無しになっちゃう。
何か一瞬完全に二人の世界みたいになっちゃったけど、普通に今戦闘中だよね。モルにそっと玉座へ下ろしてもらった私は、ピッピを膝の上に抱え、巫女の様子を窺うべく正面へ目を向けようとした。
まさにその時。何かがぶつかって砕けたみたいな、大きな音が響いた。モルが私の前に出て身構える。私はつい反射的に巫女の方を見た。
巫女が、謁見の間に並んだ柱の一本を、殴っていた。太い柱にクレーターみたいなヒビが入り、細かな石片がぱらぱらと落ちている。
「パワーキャラすぎる……」
衝撃すぎて素の口調が出ちゃった。巫女は私じゃなくて、モルを睨みつけてる。
「しもべの分際でセブ様に何てことしてくれてるんですか。今すぐ死で償ってください」
「貴様の汚らわしい口に名を呼ばれることを陛下はお望みにならない。貴様が死ね」
こっっっっっわ。ここまで険悪になることある? ってか、巫女、どうやって勝つつもりなんだろう。一年次の暁光の巫女じゃ、素のステータスで絶対モルに敵うわけないと思うんだけど。
「偽者に付き従っているうちにあなたもおかしくなってしまったんですね。可哀想。あたしが、全てなかったことにしてあげます」
巫女の様子が変。なんでかわからないけど急に強キャラ感出してきてる。まさか、私の知らない強化の術があるってこと?
「陛下、決してそこから動かないでください」
モルが巫女から目を離さないまま背中越しに声をかけてきた。普段のモルなら決してしない、主への礼節を欠いた振る舞い。それだけ、余裕がないんだ。
声もいつもより緊迫した感じになってる。モルは私とピッピが座る玉座の周りに幾重にも守護の術を張り巡らせた。
それを見た巫女は何も言わず右手をまっすぐ横に出した。その手に、黒い影みたいなものが集まって、何かを形作っていく――鎌だ。
巫女の右手が、黒い大鎌を掴んだ。と同時に、巫女の衣装が変わる。白ワンピースの巫女衣装から、黒のミニ丈ワンピースに、黒のニーハイブーツ。この衣装、この武器。間違いない。ネクロマンサーだ。
「なっ、何だ!? 巫女のやつ、いきなり黒くなったぞ!?」
「ジョブチェンジしたんだ、ネクロマンサーにな」
突然の衣装変更に動揺してるピッピに、私は軽く説明する。原作だとレベルを上げてイベントをこなすことで、巫女以外のジョブを選べるようになる。ジョブを変えると、使える武器や術もガラッと変わるから、特定の敵に対して有利に戦えたりもする。
「へー、じゃあそのネクロマンサーってのはどんなジョブなんだ?」
「死者の魂を蘇生させて眷属とする危険なジョブだ」
「ヤベーやつじゃん」
ピッピがドン引きしててちょっと笑っちゃった。
でも謎なんだよね。セブモル戦で有利に戦えるのは光属性。ネクロマンサーの術はほとんど闇属性だから、むしろ不利になると思うんだけど。
死霊を召喚したり、あとは戦闘不能状態の王子たちを操れたりはするけど、そんなことでモルに勝てるとは思えない。
「可哀想なセブ様。今、あたしが助けるね」
巫女、完全に自分の世界に入っちゃってる。前に進み出たモルが、巫女に剣の切先を向けた。
「おれが生きている限り、貴様の手が陛下に触れることはない」
推しがつよつよで最高。だけど、巫女は全然気にしてなさそう。妙に余裕ぶってるみたいだけど……。
「わかってないみたいなので、教えますね。あたしがどうしてマテリア侵攻を起こしたか」
次の話で第一章完結です!
本日夜更新予定なので、何卒よろしくお願いします~!




