1-17:愚かな者どもに、死を
謁見の間の直前。最後の難関。通称「試練の間」と呼ばれるその場所には、肉体を持たない鎧騎士「金剛」が控えている。魔王の命を狙う暁光の巫女たちは、もうそこまで来ている。
金剛との戦闘は強制。絶対に避けられない。低レベル攻略チャートにおいて、一番難しいとされるのがここだ。
本来の攻略手順はこう。起動した金剛をギリギリまで引き付けてから「身代わり案山子」を使う。案山子が攻撃を受けてくれている間に、パーティの全火力を一気に叩き込む。
やること自体は単純だけど、案山子を使う一瞬のタイミング、使う術の種類と順番、どれか一つが少しでもズレれば金剛から手痛い反撃を喰らう。
巫女は、さっきのジルコン戦で身代わり案山子を使い切った。十分に育ってないパーティで、案山子無しで金剛に勝つのはまず不可能。
だから大丈夫……のはずなんだけど……あの巫女のことだからとんでもないことをしでかして来そうなんだよね……。
祈るような気持ちで、私はピッピからの報告を待った。
「……ユキ、あの女……ヤバすぎる……」
ピッピが巫女に本気で引いてる。
「何があった」
「王子たちを……肉の盾に……」
ピッピが引くのも無理はない。でも、あの巫女なら平気で考えそうなことだ。
案山子の代わりに、王子たちを身代わりにしたんだ。順番に術を使わせて、用が済んだ者から盾として差し出す。足りない火力は持ち込んだアイテムでカバーしたんだと思う。
「来るぞ、ユキ」
どうしよう。モルはまだ戻ってない。けど、もうやるしかない。
王子たちが金剛の犠牲になったなら、相手は巫女一人。こっちはガワだけなら魔王だし、アイテムもあるし。五分五分の戦いには持ち込めるって信じたい。
私はピッピを玉座に置き、アイテム袋を掴んで前に出た。
扉が重々しく開き、奥から暁光の巫女が姿を現す。
「一か八かだったけど、うまくいってよかったです。王子の育成は不十分ですが、あなた一人殺すだけなら何とかなります」
「王子を使い捨ての駒のように扱っておきながら、随分な言い草だな。巫女よ」
私の魔王口調を聞いた巫女はあからさまに顔をしかめた。
「セブ様のフリするのやめてもらっていいですか」
「断る。と言ったら?」
巫女が眉間に皺を寄せ奥歯を噛んでいる。が、ふと私の周りを見回すと、気づいた違和感を口に出してきた。
「モルはどうしたんですか?」
「さあな。答えてやる義理はねぇ」
いなくて困ってるんです、ってバレないように余裕ある感じで答えてみたけど、だめだったかも。巫女が嬉しそうににっこり笑ってる。
「ちょうどよかったです。余計な邪魔なしで、二人っきりですね、セブ様」
巫女が笑顔のままこっちに近づいてくる。怖すぎ。
なるべく温存したかったんだけど、仕方ない。私はアイテム袋から火の魔導書を取り出し、開いた。火の最上級魔法が発動し、私と巫女の間に大きなマグマ溜まりを生成する。その中から、巨大な炎の龍が現れ、巫女に向かって襲い掛かった。
「……助けて、カイン!」
巫女が何かを両手で包むように握りしめながら、祈っている。その手の中からまばゆい光が漏れ出した。あまりの眩しさに私はつい目を逸らしてしまった。
「――愚かなる者、知の濁流に呑まれよ」
第二王子カインの声だ。水属性の魔術が発動し、火の龍を呑みこむ。この世界は属性相性の概念があって、水は火に強い。カインの術と巫女の加護の力で、私の火の魔術は掻き消されてしまった。
ってか、なんでカインがいるわけ? さっき金剛のとこで戦闘不能になったんじゃないの?
「あーあ、せっかく二人っきりだったのに。はんぺんさんが余計なことするからですよ」
「何故、王子が」
「ああ、これです。これ」
巫女が手のひらサイズの魔晶石を取り出して見せてくれた。あれって、まさか。
「賢者の魔晶石……!」
「当たりです」
戦闘不能から全回復できる最強アイテム。滅多に手に入らないレアもののはず。まして序盤のナチュリアでは絶対手に入らないものなのに。
「はんぺんさんなら知ってると思いますけど。ゲームオーバーになると、一個貰えますよね」
HNで呼ぶのやめてほしいんだけど!? 確かに巫女の言う通り、原作だとゲームオーバーになったとき、救済として賢者の魔晶石が一個もらえた。
「まさか、それ」
「そう、そのまさかです。死んでリセットして目を覚ますと、枕元にこれが置いてあったんですよね。いっぱいリセットしたから、いっぱい増えちゃって」
そんなことある?? 巫女に都合よすぎない? この世界。
「だから、ほら」
巫女は三つの賢者の魔晶石を一気に使った。第一王子ルビー、第三王子ヴァニア、第四王子スカル。三人が全快状態で復活する。
「巫女よ、あれが私たちの打倒すべき魔王なのだな」
「俺たちが付いているとはいえ、ぬかるなよ、巫女」
「姫ちゃんのお望みなら、ちゃちゃっと片付けちゃうよ~」
「安心して。巫女さんは、ぼくが守るから」
わぁ~四王子大集合~。何がすごいって、巫女のこと名前で呼んでる王子が一人もいない。どの王子にも名前教えてないんだ。本当にセブだけのためにここまで来たんだこの人。
「みんな、お願い。力を貸して。あたしは魔王様を、この世界を、救いたいの……!」
巫女から圧倒的聖女パワーが……っ! 浄化される! 怖い!
こんなバチバチにキマったヤバいオタクから、とんでもない強さの聖なる力が湧き出てる。これが主人公補正。恐ろしすぎる。
聖なる力はバフになって四人の王子たちの力をぐんと高める。これはいよいよまずいかも。
私はとりあえず残りの魔導書を全部開いた。水、風、土の最上級魔法が王子たちに直撃する。防ぎきれずダメージを負った王子たちに、巫女が魔晶石を使う。こんなの、キリがないって!
ルビー、カイン、スカルが全快した……一人足りない。
「ユキ、後ろだっ!」
ピッピの声に慌てて振り向くと、
「遅いよっ」
ヴァニアだ。風の浮遊術で魔導書の攻撃をかわしたんだ。そのまま一気に距離を詰めて、私の背後に下りつつ術を撃とうとしてる。避けなきゃ、でも、間に合わない。
「くっ……!」
咄嗟に、魔王の長くて重たいマントでガードしちゃった。ヴァニアが小さな風の刃を三発放つ。マントがそれを全部防いでくれた。
た、助かった。けどセブのマントがズタズタになっちゃった。話せるようになったらごめんなさいしよう。
「へー、やるじゃん」
ヴァニアが翡翠色の目を細めて感心して見せてる。最強の魔王相手に余裕すぎないかこいつ。
いや待ってそんなこと気にしてる場合じゃない。ヴァニアが背後に回ったことで、他の王子たちと挟み撃ちにされちゃってる。ヤバい。
「魔王よ! 何故闇の魔術を使わない? 私たちに手心を加えようとでもいうのか!」
ルビーが困ること言ってきてる……! 使えるんならとっくに使ってるんですよぉ……!
「闇の魔術だと? 貴様らごときに、この俺が使うとでも?」
わざとですよ感出してみたけど、こんな台詞は原作にない。原作のセブは容赦なく闇の魔術使ってくるし。もう今ので絶対巫女に私が魔法使えないってバレた。
「かわいそう……みんな、今こそ力を合わせて。闇に囚われた魔王様の魂を解放してあげて!」
巫女がすっごい悪い顔してる~! 絶対聖女じゃないよこの人~!
とりあえず身代わり案山子立てて乗り切ろう……って、あれ? 動、けない?
「ぼくが動きを封じる。あとはお願い、兄さんたち」
スカル、いい仕事しすぎなんですけど! ヤバいヤバいどうしよう。
うわ待って、カインがルビーに補助魔法使った。ルビーの体に強そうなオーラが出てる! たぶん筋力増強術!
「決めろ、兄上!」
「俺からも♪」
ヴァニアの風がルビーの剣にまとわりついてる。その風を受けて、ルビーの炎の剣の威力が倍増してますね!? これ本当に喰らっちゃだめなやつだ。魔王のガワにも限界というものがあるって。
「さよならだ、最強の魔王」
通常ルートの最後の決め台詞~!! まずい何とか逃げなきゃ。ルビーの剣が、天高く掲げられ、そのまま一気に、こっちに来る。
その瞬間、凄まじい破壊音とともに、謁見の間の天井の一部が崩落した。大量の瓦礫が巫女と王子たち、そして私を襲う。魔王を切り伏せんとしていたルビーも構えを解き、巫女を守るため下がっていった。
瓦礫の音に混じってピッピが私の名前を叫ぶ声が微かに聞こえる。これ、普通に埋もれて死ぬかも。次々と降ってくる瓦礫が……当たってない。あれっ、私、大丈夫かも? よく見ると、何かバリアみたいなもので守られてる。
「お待たせして申し訳ございません、陛下」
崩落した天井からひらりと舞い降りた男が、主の前に跪く。
「お怪我はございませんか?」
銀色の瞳が、主を見上げる。完璧で美しい、魔王のただ一人の従者。
モルたん!! モルたん待ってたよ!! ナイスタイミングありがとうモルたん!!
「問題ない。俺を誰だと思っている」
モルたんは私の返答に安心して微笑むと、私に何かを手渡してきた。目覚めのハーブだ。
「確かに受け取った。しもべよ、次の仕事だ」
「かしこまりました、陛下」
剣を抜き、モルは私と巫女たちの間に立つ。
「陛下の前に立ちはだかる愚かな者どもに、死を」
明日第一章完結予定です!
よろしくお願いします~!




