1-16:来ちゃった、が許されるのは正ヒロインだけですけど!?
何が起こったのか、咄嗟に理解できなかった。マテリアの城を光が包んでる。原作において、この状況が意味するのはただ一つ。
ナチュリア王国による、最後のマテリア侵攻。通常ルートの最終決戦。
暁光の巫女と四人の王子がセブモルを討ち取る、最後の戦いが始まっちゃったことを意味する。
「あり得ないんだけど……!」
巫女だ。暁光の巫女がやらかしたんだ。よりによってモルがいないときに。
とにかくここにいたらまずい。あり得ないけど、もし、本当にマテリア侵攻が始まったなら、今すぐ移動しなきゃ。
「ユキ、何がどーなってんだ!?」
私に掴まれ、移動されるがままになっているピッピが必死で声をあげている。悪いけど、今それに構ってる場合じゃない。
急いで自室に戻り、いつもピッピを載せていたチェストの戸を開けた。中にはアイテムのぎっしり詰まった大きな袋が入ってる。それを引っ掴んで、走って謁見の間に向かう。
この後起きることはこうだ。まず、王子たちによってナチュリアの四精霊の力が解放され、マテリア王城に無数の光属性魔法が撃ち込まれる。これは専用ムービーも入る確定演出だから避けようがない。
この攻撃で城はかなりのダメージを受け、ダンジョンとして特定のエリアしか入れない形になる。だから、まずはこの爆撃から生き延びる。
といっても、ダンジョンとして入れる部屋にいれば大丈夫なんだけどね。突然のことにパニックを起こして謁見の間に詰めかけた兵士たちに指示を出し、使用人たちも含め全員を安全な部屋へ移動させる。
――始まった。すごい揺れ。この先の展開知ってても怖い。
玉座に座り、ピッピを抱き締めて、攻撃が収まるのをじっと待つ。
やがて城を覆っていた光が弱まり、揺れが徐々に引いていく。
次だ。いよいよ巫女たちが城内に攻め込んでくる。
「ピッピ、兵士どもは無事か」
「……ああ。城じゅう滅茶苦茶だけど、全員無事だぜ」
「奴らが来る。監視を怠るな」
「あいよ。……ところで、なんでその口調?」
これには明確な理由がある。ナチュリアに行ったモルがいつ戻ってくるか、セブと違って魂の契りを交わしてない私にはさっぱりわからない。
もし、モルが戻ってきたタイミングで私が「由紀」として振る舞ってたら、確実にモルの士気が下がる。それだけは避けたい。
っていうのをピッピに解説するのが面倒臭いから「何となくだ」で返しちゃった。ごめんね。非常事態だから許して。
「……にしても、あいつらなんでいきなり攻め込んできやがったんだ? ユキの話だと三年目に来るはずなんだろ?」
巫女がなんで侵攻を起こしたか。理由は一つしかない。リセットするためだ。
王子の好感度の上がり具合、残り時間、私がセブの体から出るかどうかの進捗、全部まとめて「間に合わない」って判断したんだ。
「『由紀』をこの周回で確実に消すためだろうな」
巫女一人が死んでリセットしても、その先にまた私がいたら意味がない。だから消す。確実に。
「よくわかんねーけど、奴らの狙いはユキってことだな」
巫女が何度も死んでやり直してることをピッピは知らない。だから「周回」の意味がいまいちよくわかってないみたい。
説明すっ飛ばしてごめんだけど、生き残れたらちゃんと話すね。
さて、魔法が使えない私が前線に立ってもできることはない。セブの言うことを聞くだけの傀儡の人たちが今の私を守ってくれるかも、かなり怪しい。
この状況で、モルが戻ってくるまでどうやって時間を稼ぐか。
「ところでその袋、何が入ってるんだ?」
ピッピに言われて、私は自室から持ってきた大きな袋を開けた。中には、回復薬、魔導書、魔晶石……多種多様なアイテムがぎっしり詰まってる。
「城じゅうのアイテムを集めてある」
ここマテリア王城は、通常ルートで最後に訪れる「ダンジョン」だ。つまり、宝箱の類がそこかしこに落ちてる。
もちろん場所なら全部覚えてる。こんなこともあろうかと、私は事前に全宝箱の位置を回ってアイテムを残さず全て回収していた。
つまり今私の手元には最終盤で使うような最上位クラスの回復薬や魔導書がいっぱいあるってわけ。
「なるほどな。あいつらには使わせねーってか」
しかも向こうは開始一年未満でろくに育成も済んでない即席パーティ。巫女は確実にこのアイテムたちを当てにしてたと思うけど、そうはさせない。
これなら、魔法が使えない魔王でも時間稼ぎぐらいはできそうでしょ。
「奴らの育成具合はわからんが、おおよその能力値は推測できる。どういった手順で攻め込んでくるかも把握している」
「そいつは頼もしい限りだぜ」
低レベルクリアのチャートなら頭に叩き込んである。巫女も確実にこのチャートに従ってくるはず。
それと原作の仕様上、パーティは巫女と四人の王子で固定になる。つまり、他の兵士とかは気にしなくていいってこと。
一国の王子たちが護衛もなしに突っ込んでくるなんてやり方としてどうかとは思うけど、そういうものなんだから仕方ない。
「で、奴らはどっから攻めてくるんだ?」
「侵入口は……」
巫女ならマップを開いて確認できるんだろうけど、悪役の魔王にそんな機能はついてない。私は親の顔より見たマップ画面を頭に思い浮かべた。
侵入経路は三つ。正面、裏口、バルコニー。
正面から来ることはない。低レベル攻略では雑魚敵との戦いをできる限り回避しないといけないから、警備の手厚い正面に行ってはいけない。
次にバルコニー。原作でセブモルが待つ謁見の間に一番近いのはバルコニーだ。チャートでもここからの侵入がオススメされてる。
でも、巫女がここから来るかは微妙だ。バルコニーに行くためには風属性の浮遊術を習得しなきゃならない。
そのためには第三王子ヴァニアの好感度をかなり上げないといけないんだけど……巫女はセブ攻略ルートのために第四王子スカルの好感度を優先してたから、浮遊術を取る余裕がなかった可能性が高い。
となると、残るは裏口。とりあえずこっちに警備を固めておこう。
とはいっても、バルコニーから来る可能性もゼロじゃない。どっちから来るんだろう。ピッピを抱く腕につい力がこもる。
「ユ……キ……絞まってる、絞まってる……」
「気にかけてやる余裕がねぇ。魔王の愛だと思って耐えろ」
「ヤローの腕でハグされたって嬉しくねーっての」
ピッピの愚痴を聞き流しながら、私はその時を待った。直後、ピッピが叫んだ。
「バルコニーだ!」
――外した。バルコニーの大窓が割れ、巫女たちが城内に入り込む。私はゆっくりと深呼吸した。それを見たピッピが虚勢を張るように元気な声を出した。
「ま、まーあの部屋にはジルコンがいるからな! 何とかなるって!」
ジルコン。この城を護るつよつよ魔獣の一頭。全身に角の生えた超でかい熊だ。普段は寝てる。
「いや、巫女にジルコンは通用しない」
そう。低レベル攻略チャートではジルコン対策が確立している。
バルコニーに突入したら、ジルコンが目を覚ます前に部屋に隠された「音感爆弾」を確保し、すぐジルコンに対して使う。目を覚ましたジルコンが咆哮を上げると、音感爆弾が反応し、ジルコンに大ダメージ。あとはとどめを刺して終わり。
「ええっ!? ヤベーじゃん!」
ピッピの言う通り、ヤバい状況。本来ならね。
「安心しろ、対策済みだ」
まず音感爆弾は私が回収済み。さらに、使用済み。バルコニーの大窓に、ね。
バルコニー侵入時は、絶対に大窓が割れる。ここは窓が割れるかっこいい侵入ムービーからのジルコン目覚め演出が入るから。
爆撃で割れてない窓って何だよ、と思わなくもないけど、かっこいいムービーのためだから仕方ない。
「おおっ!? いきなり爆発したぞ!?」
狙い通り。大窓の割れた音に爆弾が反応したんだ。微かな振動がここまで伝わる。対魔獣用の強力なアイテムだ。低レベルパーティなんてひとたまりもないだろう。
「奴らの様子はどうだ」
「……思ったより元気そうだぞ」
嘘でしょ。音感爆弾喰らって平気だなんて、どんな育て方したんだあの巫女。
「バリアみてーなの張ってるぜ」
やられた。加護の力だ。あの巫女、こっちの手を読んでる。私が侵入口に罠を仕掛けると予想して、予め加護を使ってたんだ。
でも、いくら加護でも対魔獣用の爆弾のダメージをゼロにはできない。しかもこの後巫女たちは、爆弾無しでジルコンと真っ向勝負になる。あの巫女でも、さすがにこの状況はきついでしょ。
「ユキ! ジルコンのやつあいつらのこと無視して変な方攻撃してるぜ!?」
ピッピの慌て声に私は耳を疑った。まさか。
「身代わり案山子か」
研究ステータスを上げることで開発できるようになる便利アイテム。名前の通り、敵の攻撃を身代わりになって受けてくれる。
持ってきてたんだ。けど、ここで使ってくれたのはむしろ好都合。
低レベル攻略チャートではこの後、身代わり案山子が必須になるところがある。案山子は一度に一つしか持ち歩けない。
城内にある分は私が回収済み。だから、これで巫女たちに勝ち目はない。
「監視を続けろ。報告を怠るな」
今さらだけど、ピッピにこの口調で話すの変な感じ。だけどモルの士気に関わるからこれでいい。
モルはいつ戻ってくるんだろう。モルの方は私がどこにいるかわかるけど、魂の契りを交わしてない私にはモルの居場所がわからない。
巫女たちが順調に城内を攻略していくのを、ピッピが報告してくれてる。大広間を迂回し、武器庫を抜け、とうとう巫女たちは謁見の間の一歩手前にある小部屋までたどり着いてしまった。
この小部屋こそ、身代わり案山子の必須使用ポイント。通称「試練の間」だ。
「……頼むぞ、金剛」
試練の間を守護する、肉体を持たない鎧騎士の名に、私は祈りを込めて呼び掛けた。
本日もう一話更新予定です!




