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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第1章:推しに転生

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1-15:大変なことになっちゃった

 モルが、剣の柄からそっと手を離した。黙ったまま、じっと私の目を見る。その視線が、さっきまでよりほんの少しだけ柔らいでいる。


「何故、そこまで」


 モルに尋ねられて、私の脳は固まってしまった。沼に落ちるのに、理由なんかない。


「えっと、気づいたら沼の中にいたと言いますか……完全にはまってて……理由とかは特に……」


 しどろもどろな私の答えに、モルが目を丸くしている。と思ったら、その口角が僅かに上がり、ふっと息が漏れた。……もしかして、笑った?


「おれの魂は陛下とともに在る。おれが忠誠を誓うのは、陛下だけだ」


 そう言ってモルは視線を落とした。呟くように、言葉が零れる。


「だが、お前なら……」


 モルはそれ以上続けず、一度言葉を切ると改まって私と向かい合った。


「昨日、お前の魂に触れた」


 うん? さらりと爆弾発言が出ましたね? 昨日のあの、巫女が帰った後のあれ、のことだよね。魂に触れたって、どういうこと? もしかして秘術?


「どう、やって……?」

隣国(ナチュリア)の王子と取引した」


 なるほどそれで転移魔法陣のことも知ってたのか~そっか~、じゃないんですよ。

 なんということでしょう。私が転生して好き放題やらかしたことで、推しが原作にないルートを突き進み始めたみたいです。


「理解に苦しむ面もあるが、お前が本心から陛下の幸福を願っていることはわかった」


 もしかして、許してもらえる感じ、なのかな。あと私はセブだけじゃなくてモルたんの幸せも願いまくってるからね。


「由紀」


 まァッ!? ままま待ってください。心の準備というものがあるんですよ。推し各位に強くお伝えしておきたいんですが、オタクはあなた方にいきなり名前を呼ばれると命がいくつあっても足りません。助けて。


「陛下の魂がお目覚めになるまで、お前は陛下としてその体を守り続けろ」

「はい」


 こんなのはい以外の選択肢なくないですか!? これってつまり、モルたんからセブ(仮)として公認いただいたってことですよね!? 生きててよかった!!

 いや、それはそれで緊張するな? モルたんが仕えるに相応しい魔王であり続けなきゃ許されないってことだよね……?


「おれがお前の魂に触れた時、陛下の魂の存在も確かに感じた。だが、深い眠りに就いておられるようだった。一刻も早くお目覚めいただかなくては。お前にも協力してもらうぞ」

「もちろん!」


 私だって一刻も早くこの体から脱出してセブモルを外からちゃんとしっかりバッチリ心行くまで堪能したいからね!


「それと、これは個人的な要望だが」


 待って。モルたんが私に個人的な要望を?


「できればこの先も、おれの前では陛下として振る舞ってくれ。陛下のお姿でお前の口調で話されると正直、虫唾が走る」


 そ、そうだよね~! あのタヌキモモンガが順応性高すぎるだけで、普通は受け入れられないよね。ぶっちゃけ自分でもまだ違和感あるし。同じセブを推す者としてその気持ち、痛いほどわかりすぎる。今こそ全力詫び土下座だ。


「誠に申し訳ございませんでしたァッ」

「おいばか陛下の額を地面に擦り付けるな!」


 私の伝家の宝刀が阻止されちゃった。残念。


 ま、何はともあれ、よかった~! 一時はどうなることかと思ったけど、心強い味方が出来て本当によかったよ~!


 ホッと一息つきながら、私は執務デスクのゴツい椅子に腰掛けた。それを見ていたモルが、紅茶のカップに視線を向ける。


「……冷めてしまいましたね。淹れ直してまいります。陛下、しばしお待ちを」


 従者モードに戻ったモルはいつも通り丁寧に一礼し、執務室から去っていった。

 その後、モルが淹れ直してくれた紅茶をおともに残りの書類を片付け、私はピッピの待つ自室に戻った。


「ユキ~! オメー、よく生きてたな! あいつに正体バラしたんだろ? 俺っちはもう生きてオメーに会えねーもんだとばかり……」


 モルたんを何だと思ってるんだこのタヌキ。そりゃまあ途中までは危うい可能性もあったけど。


「これで正体バレる心配もなくなったわけだ。これまで以上に自由に動けるぜ」

「まあモルたんの前では引き続きセブとして喋らないといけないんだけどね」

「マジかよ何のプレイだよ」

「あんたの順応性が高すぎるだけでしょ」


 さて、この先どうするか。モルたんに公認してもらえたとはいえ、状況はまだまだ厳しい。巫女の三度目の訪問まで、残り一か月切ってる。


「ねえピッピ、私考えたんだけど」


 さっきのモルとのやり取りで、思いついたことがある。


「何だよ」

「モルたんがね、セブの魂は深い眠りに就いてるみたいだったって言ってたの。だからさ、」


 そう、眠ってるなら、起こせばいいんじゃない? って。


「目覚めのハーブ、試してみようかなって」

「目覚めのハーブ?」


 あれっ、ピッピから何それって感じのリアクションが。


「眠り状態の回復アイテム。知らない?」

「聞いたことねーな」


 おかしいな。原作だと序盤から普通に手に入る、ごくありふれたアイテムなんだけど。


「ハーブだからたぶん葉っぱか何かだと思うんだけど……」

「……あー、なるほどな。ユキ、それたぶんあっちの特産だわ」


 ピッピの言葉に私はハッとした。そうか。原作はナチュリアで始まるけど、ここはマテリアだ。

 いくら原作で簡単に手に入るアイテムでも、ここには無いことだって十分あり得るんだ。

 自然豊かなナチュリアと違って、こっちでハーブが取れないのもよく考えれば当然のこと。


「つまりナチュリアまで行かねーと手に入らねーってことか」

「なんかややこしそうだね。ごめん、やっぱ今のは無し!」


 そう言って顔の前で手を振る私を、ピッピの声が止めた。


「いや、行こーぜ。ナチュリア」

「まさかまた、あんたに変化して……?」


 王子に見つかり、巫女に捕まり、命からがら逃げ出したトラウマが鮮明によみがえる。できれば二度と御免被りたいんだけど。


「けどよユキ、時間ねーんだろ? 打てる手は全部打っといた方がいーんじゃねーの」

「それはそうだけど」


 ピッピの言う通りだ。時間は全然ない。このままだと、いずれ暁光(ぎょうこう)の巫女が私を殺しに来る。

 どうせ命の危機が訪れるなら、行くしかないか。


「わかった。けど、その前にモルたんに相談するね」


 前回は黙って出かけてものすごく心配かけちゃったし。正体がバレた今同じ事したら今度こそ斬られかねない。


 というわけで、早速私はモルたんにナチュリアへ行きたいんだけどって相談してみた。


「いけません、陛下」


 ダメみたいです。心なしか、モルたんのご機嫌がよろしくないように見受けられますね。


「先日おひとりでナチュリアへお出向きになった際、たいそう危険な目に遭われたのをもうお忘れで?」


 あっ、これは無理そう。前回のことめちゃくちゃ根に持ってる。


「……悪かったって」


 とりあえずセブっぽい感じで雑に謝ってはみたけど、ナチュリア行きは許してもらえそうにないな……。

 マテリアにいながらにしてどうやって目覚めのハーブをゲットするか。私が頭を悩ませていると、不意にモルが跪いた。


「ナチュリアへは、私が」


 えっいいの? すっごく助かるけど、モルたんが危ない目に遭ったりしない?


「『目覚めのハーブ』の調達、しもべにご用命ください。我が君」


 行く気満々ですねこの人。というか、たぶん。(ポンコツ)が入ったセブ(大切な主)の体を危険な敵地に送り込むなんて断じて認めませんってことなんだろう。わかる。私がモルたんでもそう思うよ。


「では、任せたぞ」

「仰せのままに」


 そんなわけで、モルに目覚めのハーブ調達を命じた私は、数日の間モルたん不在のお城でお留守番が確定した。

 転移装置はどうしたって? こっちからあっちに行くには使えるけど、今はあっちから戻ってくる手段がないんだよね。

 第三王子ヴァニアの転移魔法陣は、月イチの訪問イベントのときしか解放されない。これは交渉でどうにかなる問題じゃなくて、一度使うとしばらくの間魔力のチャージが必要になるから。


「行ってまいります、陛下」


 モルを見送った私は、あっという間に大量の仕事で忙殺されることとなった。次々と送り込まれる書類、会議、視察……し、しんどすぎる……しかも日々の癒しのセブモル供給がない……つら……。

 魔王業、忙しすぎない? 王様ってもっとこう、玉座にふんぞり返って偉そうにしてたらOKみたいなイメージだったんだけど。全然違った。セブもこれ全部やってたんだよね。偉すぎるよ。


「づっかれたぁー……」


 モルを見送って三日目の昼間。朝からの会議を終え、簡易的な昼食をとった私は自室のベッドに倒れ込んで伸びていた。このまま寝そう。


「おーい寝るなよー。午後も忙しーんだろー」

「つらすぎ……早く戻ってきてモルたん……」


 泣き言をいう私に呆れて溜息を吐いていたピッピが、突然息を呑んだ。


「どうしたの?」


 一瞬の間。


「……ユキ……これ、ヤベーぞ……まさか……」


 ピッピの声が震えてる。その直後、窓の外からまばゆい光が入り込んだ。

 眩しすぎて外が見えない。慌ててピッピを掴み、部屋の外へ出た。

 廊下の窓も全て光で覆いつくされていた。まるで、マテリア王城全体が強い光に包まれてしまったみたいで、クラクラする。

 まさか、まさかだよね。私の脳内には一つの可能性が浮かんでいる。でも、あり得ないよね。


 浮かんだ可能性を必死で否定する私に、ピッピの言葉が現実を突きつけた。


「ナチュリアのやつらが、攻めてきやがった」



大変なことに……なってしまいました……!

ここから一気に展開加速します!


次回更新は明日!

引き続きよろしくお願いします!

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