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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第1章:推しに転生

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1-12:どいつもこいつも殺意が高すぎる

「申してみろ、我がしもべよ」


 頭を垂れ許しを待つモルに、私は魔王として発言の許可を与えた。

 ここ重要ポイントなんだけど、セブはこういった公の場ではモルのこと名前で呼ばずにしもべって呼ぶ。

 この主従のこういう距離感が本当たまんなくてもう何時間でも語れる勢いなんですけど、今は……それどころじゃないですね……。


 魔王セブリオン・マテリアが創り出した、たった一人の従者モル。彼は今、原作にないはずの、オタクの私たちが知らない台詞を発しようとしている。


「私の魂はいかなるときも陛下とともに。ご用命とあらば、いつでもこの身をお返しいたします」


 ちょ、待っ、いきなりすごいの来たな!? 録音して保存して何回も再生してニチャアってしてもいいですか!? あと私じゃなくてセブに言って頼むから!!


 表情を維持するのが限界すぎてちょっとだけ口元震えちゃった。奇声が飛び出さなくて本当によかった。

 威厳を保とうと懸命に耐えている私に気づいているのかいないのか、モルは平然と言葉を続ける。


「ですが、その前に」


 モルはゆっくりと立ち上がると、暁光(ぎょうこう)巫女(みこ)を一瞥し、剣を抜いた。


「マテリアの王たる陛下の魂を手中に収めようなどと企む不届きな女に、死を授ける許可を」


 あばばばどうしよう~!? 私と巫女が原作の訪問イベントにはない「魂に触れる秘術」の話題を出したばっかりに、大変なことになっちゃった……!


「待て。殺すな。そいつは我らの契りの秘密を知っていると言った。出所を吐かせるのが先だ」


 とりあえず止めなきゃ。モルに対しては魔王らしい堂々とした口調を崩さず、その裏で私は巫女に必死でアイコンタクトをとる。


「あたしは、この戦いの結末を知っています。だから、あなたたちがこの先迎えてしまう悲劇を変えるために、ここにいるんです」


 よし。これは原作にある台詞。原作だと、追加ルートはまず通常ルートをクリアして、そのデータを引き継いだ二周目でしか出てこない。

 実はこの台詞、本来なら三度目の訪問で言うべきものだ。でも今は、何としても怪しい者じゃないってモルにわかってもらってこのピンチを自然に脱するのが最優先だからOKってことにする。


「世迷い言です、陛下。聞く耳を持つ必要はないかと」


 き、厳しい~! セブ以外の人間に厳しすぎるよモルたん!

 困ったな。あんまり私が巫女を庇うのも不自然だし。かといってここでモルに巫女を殺させるのは嫌だ。


「悲劇だと? まるでマテリアがナチュリアに敗北すると決まっているかのような言い草だな」


 ひとまず無難に、三度目の訪問に出てくる台詞で合わせました。いや、これはこれで困ったことになるんだけど……。

 三度目の訪問イベントの会話は、魂の契り解消クエストに直結する。セブモルが主従関係じゃなくなっちゃう。私にとって絶体絶命の大ピンチだ。


 だけどこの状況、実は一番困るのは、


「いえ、あたしは……」


 そう、巫女だ。いくら理論値を出そうが、この時点で魂の契り解消クエストを受注できるだけのステータス育成は絶対に達成できない。つまり、このまま会話が続けば追加ルートに進めなくなるってこと。


 俯き視線を逸らした巫女の顔が般若みたいになってる。モルが巫女を斬る前に巫女がモルを殺しかねない。


「陛下」


 モルが一歩前に進み出た。()る気しか感じられない。どいつもこいつも殺意が高すぎる~!


「殺すな。下がれ」


 モルにとって主の命令は絶対。きっと物凄く不本意ではあると思うけど、すぐに剣を収めて下がってくれた。

 ごめんねモルたん。でもこれは、このヤバい巫女からモルたんを守るためでもあるんだ。


「三度目……契り解消……研究ステ値……リセット……」


 ほらね? 巫女が何かヤバそうなことブツブツ呟き始めちゃったよ?

 とにかくここは穏便に。あくまでも「二度目」の訪問として、このイベントを円満に終わらせなきゃ。一番避けたいのは、巫女に「リセット」を遂行させること。


「暁光の巫女、と言ったな」


 巫女がハッと顔を上げる。あんたならこの台詞、わかるよね。


「貴様がどう黒雲を払い、我らと我が国を救おうというのか。一月の後。楽しみに待っているぞ」


 これは二度目の訪問イベントの締めの台詞。だいぶ無理矢理ではあるけど、私はこのイベントを二度目の訪問として扱ったまま、今すぐ終わらせることを選んだ。

 本当はもうちょっと会話が続くはずだった。けどもうそんなこと言ってられる状況じゃなくなっちゃったし。締めの台詞言っといたら次回へのフラグも立つでしょ、きっと。


「……わかりました」


 巫女も大人しく……いや、かなり渋々って感じだけど、私の選択に従ってくれた。


 というわけで、無事、予定より一週間早い二度目の訪問イベント、終了~! いや~正直どうなるかと思いましたね~!


 巫女が去った後、精神的に消耗しきって玉座に深く腰掛けたまま虚空を見上げている私の前で、モルが跪いた。


「陛下」

「何だ」


 跪き顔を上げないまま、モルははっきりとした声で主に宣言する。


「先ほどの言葉に、二言はございません。陛下のご用命とあらば、私はいつでも、この身に宿るお力の全てをお返しいたします」


 モルたん……! そんなこと命じるわけないのに。セブが、通常ルートでモルを喪ったセブが、追加ルートで契りを解消したセブが、本心ではどれだけモルのことを必要としてたことか。


「くだらねぇ」


 思わず声が低くなっちゃった。モルがびくりと肩を震わせる。


「いいか? ナチュリアのやつらが何言ってこようが関係ねぇ。俺にはお前が必要だ。だから生かしている。それを忘れんな」


 これは通常ルートの、二人が破滅の最期を迎える直前で聞ける、セブの台詞。本来ここで言うべき言葉じゃない。

 だけどきっとセブなら、こう言ったと思う。魔王セブリオン・マテリアは、この男は、たった一人の従者の命を諦めきれずに世界を敵に回した、弱くて、我儘で、どうしようもない最強の魔王だから。


「……陛下、お手を」


 待っっっって? 待ってこれ絶対手の甲に、あの、あれですよね? やっぱりこの主従、思ってたより断然距離が近いな? これは審議、審議です。

 私の脳内では十二人の円卓の私が解釈論争を始めようとしていた。でも、目の前の光景はそれとは関係なく流れていく。モルが、あまりにも自然に主の手を取るから、だからきっとこれは、この主従にとっては、当たり前の挨拶みたいなものなんだ、って。


 私の手の甲にそっと触れるか触れないかぐらいの口づけを落としたモルが、静かに顔を上げる。長い睫毛に縁取られた銀色の瞳が、主の紫水晶の瞳を真っ直ぐに射る。目が離せない。モルの瞳が、主の、セブの、私の姿を、鏡みたいに映して、る。あれっ、何か、おかしい。

 モルの姿が、輪郭線が、二重にぶれて見えてる、気がする。モルの唇が、我が君、って動く。モルが見ているのは、私、それとも。頭が痛い。苦しい。何が起きてるかわからない、けど、このままじゃ、だめだ。


 咄嗟に、私はモルの手を振り払った。モルは一瞬驚いたように目を丸くした後、すぐに寂し気な表情を浮かべた。


「っごめ……」


 ごめん、と言いかけた言葉を急いで飲み込む。セブはこういう時、(わり)ぃって言う。


「……我が君、」


 跪いていたモルが、静かに立ち上がる。


「たとえ何者に阻まれようと、私はいつだって、我が君の魂とともに在ります。そのことを、どうかお忘れなく」


 一礼し、去っていくモルの背中を見つめながら、私はどうしようもない不安でいっぱいになっていた。

 何かはわからない、けど、取り返しのつかないことが起きてしまったみたいな、嫌な予感がする。


 ピッピに相談しよう。たぶんきっと、このままじゃまずい。

 三度目の訪問まで、あとたった一か月しかないんだから。



遅くなりすみません!

次回更新は火曜です!

引き続きよろしくお願いします~!

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