1-11:暁光の巫女(三週間ぶり二回目)が早すぎる
来ちゃった。暁光の巫女による、二度目の魔王訪問イベント。
このイベントは本来なら初回の訪問からきっちり一ヶ月後に発生する。だから油断していた。発生までまだあと一週間あるって思ってたから。
「早すぎるっての……!」
迎えに来たモルと一緒に謁見の間へ向かいながら、私は無意識に呟いていた。
巫女がわざと早く来たんだ。そうとしか考えられない。でも、なんで? 訪問タイミングを早めたってお互いいいことなんてないのに。
そうこう言ってるうちに謁見の間へと辿り着いた私は玉座に腰掛け、暁光の巫女と相対した。
巫女にはもう聞きたいことしかない。けど、ここにはモルもいる。あんまり表立ってメタな会話はできそうにない。
なるべく原作の台詞に従いながら、スマートに情報交換しないと。
「随分と気が急いているようだな、ナチュリアの小娘」
と言いつつ早速原作にない台詞で嫌味を言っちゃった~! もちろんこれはただの嫌味じゃない。
本来ここの台詞は「また貴様か、小娘」だ。あえて台詞を変えることで、私がまだセブじゃないってことを巫女に伝える。
「……」
あっ、暁光の巫女が、すっごく嫌そうな顔してる。おおよそ推し(のガワ)と対面しているとは思えない表情。私相手にイベントを進めるのが心底不本意だって、漏れに漏れまくってますね。
原作における二回目の訪問はこうだ。暁光の巫女の訪問理由を聞いたセブが、巫女にちょっと興味を持つ。巫女は現状のマテリアの問題点を言い当て、酸の雨から国を救うことができると豪語し、魔王本人と従者以外に知る者のないはずの「魂の契り」を言い当てる。
本気でマテリアを救おうとする巫女の情熱に絆されたセブは、巫女に条件付きでの協力を提案する。逆にモルは巫女の話に不信感を抱き、巫女が帰った後、これ以上会わないようにすべきだとセブに進言する。
この流れを維持しつつ、要所要所でセブの魂についての情報交換を進めよう。
「この俺の前に二度も姿を現すとは、その命余程惜しくないらしいな」
まずは原作通り。一言一句間違えず発して、相手の出方を待つ。
「たとえこの身が裂かれようと構いません。魔王陛下、あなたにどうしてもお伝えしたいことが」
巫女も一応原作通りの台詞を言ってくれてる。声のトーンが恐ろしく低いけど。
「ほう。申せ」
ここから先は巫女がたくさんしゃべってくれるから、こっちは結構暇なんだよね。
原作だと巫女はこの後「研究」ステータスの成長でわかったことについて説明してくれる。酸の雨のこととか、魂の契りのこととか。
ぶっちゃけ私が聞いても全然意味ないから、もっと違うことをしゃべってほしい。巫女の次の台詞に期待を込めながら、私はじっと待った。
「この国を……いえ、いずれナチュリアをも覆ってしまう、あの黒雲について」
うん、原作通りだな? 追加情報付けてくれてもいいんですよ?
「それと、『魂に触れる秘術』について」
来た! 待ってました! 追加情報!
魂に触れる秘術。それは「研究」ステータスを上げて、ナチュリアの第四王子スカルのイベントを進めていくと取れる特殊スキルだ。
このスキルを獲得すると、相手の魂から直接想いを読み取れるっていう何とも空恐ろしい術が使えるようになる。
本当は私がこれを取れれば話が早いんだけど、スキル習得のためにはスカルの協力が必須になるから、魔王の私が取るのはまず無理。けど巫女はこれを使って私の中のセブと直接話せるようになりたいみたい。
というか、ちょっと気になったんだけど、このスキルってスカルの好感度をかなり上げないと取れないんじゃなかったっけ。それこそスカルの好感度一位ルートに突入確定するぐらいまで。
と思ったら、巫女がちょっと話しづらそうにもじもじしてる。どうしたんだろ。
「スカルから秘術を引き出すには、もっと彼に近づく必要があります。でもあたしは、どうしてもセブ様に会いたくて……」
あー、そういうことね。「スキル習得のためにスカルに近づいたけど、好感度上がりすぎてヤバいから急遽訪問イベントを起こしてセブの好感度上げに来ました」と。
つまり、巫女の方も思い通りにスキル取れてはないってこと。ちょっとホッとした。私だけ進捗ゼロじゃなかった。
さて、どうやって巫女にこっちの進捗を伝えよっかな。
「俺の魂を欲するか。この俺自身ですら未だ触れられぬ魂の根源を、貴様のような小娘が欲すると、そう申すのか」
私はまだセブの魂に触れることができていません。伝われっ。
……あっ、巫女の表情が! これはキレてる! 目が笑ってない! ってことは伝わったんだ、よかった〜……よかったのか、これ?
「はい、魔王陛下。あたしはあなたの……いいえ、あなたたちの魂を救いたいと願っています」
これは原作台詞ですね。こっちも返すか。
「あなたたち、だと?」
これ、あんま言いたくないんだよね。この先の話が、モルにつらい思いをさせるものだから。原作台詞だし言うしかないんだけど。
「率直に言います。このままだと、あなたの魔力だけではこの国を……あなたが守りたいものを、支えきれなくなります」
あああ……これ、これをモルに聞かせたくなかった……! こんなこと言われたら、モルは絶対に自分を責めるから。
「……どこまで知っている」
巫女の意味深な言葉が気になったセブは、思わずその話に乗っちゃうんだよね。
「この国を覆う黒い雲を払う術と、それに必要な魔力の不足。そして、あなたたち二人を魔力で繋ぐ『魂の契り』について」
この巫女~ちょっとは気を利かせてぼかしてくれたっていいのに。私も人のこと言えないけど、何もそこまできっちり原作通りにしなくてよくない?
モルは魔王の莫大な魔力によって生かされてる。死の運命にあった蝶に人の姿を与え生命を吹き込む――そのために注ぎ込まれている力は、たぶん使い魔のピッピとは比べ物にならないぐらい大きい。
その力を取り戻せば、ラスボスとして巫女や王子たちに独りで立ちはだかることもできるし、巫女と手を取り合い世界を救うことだってできる。
セブがそれをしないのは、たった一人の従者の命を、自らの手で奪うことになるから。
だからセブは「あなたたち」の魂を救いたいって言った巫女に興味をもつ。
けどモルは、モルにとっては、自分の存在が主を苦しめているって突きつけられるこの話はあまりにも、酷すぎる。原作でもショック受けた感じだったし、傷ついてるだろうなぁ……ごめんねモルたん……。
我慢できなくなった私はついモルの方をチラ見した。……あれ? 思ったより、平気そう?
チラ見した私の視線と、モルの視線が交錯する。薄い唇がそっと開かれ、柔らかな声音が、零れる。
「陛下。発言を、お許しいただきたく」
……待って? 原作だとあなたここではまだ話しませんよね? まさか、私の知らない分岐があるとかですか!?
パニクった私は咄嗟に暁光の巫女を見た。私とは違って追加ルートを何周もプレイし尽くしただろう巫女も、目を丸く見開いて固まってる。
ってことは、これは完全に原作にない、想定外の会話だ。
モルは跪いて主の許しを待ってる。許可、していい、よね。いやむしろすべきだよね。
だって私は、原作にないルートを望んでるんだから。
次回更新は明日!
引き続きよろしくお願いします~!




