『埋伏』
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第八十九章:仕組まれた悲劇 —— 『五つ子の演目』
隠れ家の和室。
モニターの中では、ユキが兄たちの砲撃に晒され、涙ながらに命乞いをしている。
『やめて……お兄様たち……! 私には何も分からないの……!』
それを見て、玲奈はハンカチで目元を拭っていた。
「ああ、可哀想なユキ様……。あんな素人の少女に、これほどの重荷を背負わせるなんて……」
だが、湊はポテトチップスをバリボリと食べながら、腹を抱えて笑い出した。
「くっくっく……! はーっはっは!!」
「陛下? 何がおかしいのですか?」
「玲奈。お前のその反応、100点満点だ。
私の一番の側近であるお前すら騙せているなら、あいつら(子供たち)が気づくはずもない」
湊はモニターを指差した。
「よく見ろ。あの涙、あの震え。
あれは恐怖じゃない。『計算された角度』だ」
1. 主演女優賞:ユキ
帝都・司令室。
通信が切れた瞬間、モニターの前で泣き崩れていたユキの表情が、一瞬で「無」になった。
「……カット。ふぅ、疲れた」
彼女は涙を指で拭い、懐から鏡を取り出して前髪を直した。
その瞳に、怯えの色は微塵もない。あるのは、冷徹なプロ意識だけだ。
「レオお兄様の砲撃パターン、A-4からB-2へ移行。誤差0.01秒。
ソフィお姉様のエネルギー充填率、80%で頭打ち。
……チョロい。全部、台本通りね」
彼女は、ただの一般人ではない。
湊が帝都の地下劇場で見出した、「千の仮面を持つ天才女優」。
そして、彼女は「一人」ではなかった。
第九十章:潜伏する毒 —— 『四人の影武者』
同時刻。
勝利を確信している4人の王たちの背後に、音もなく忍び寄る「影」があった。
【火星:レオの陣営】
重力要塞の司令塔。
レオは、優秀な副官の女性にコーヒーを頼んでいた。
「ありがとう。君がいてくれて助かるよ。この戦争が終わったら、君を火星の……」
副官はにっこりと微笑んだ。
「ええ。終わりますよ、すぐに」
彼女の手には、重力制御装置の「緊急停止コード」が握られていた。
彼女はユキの長女・イチカ。レオが最も信頼していた部下は、最初からスパイだったのだ。
【木星:ソフィの陣営】
研究所の最深部。
ソフィは、ドジだが熱心な新人研究員を可愛がっていた。
「あら、またデータを間違えたの? 仕方ない子ね」
新人研究員は、テヘヘと頭をかきながら、ソフィの背後でメインコンピューターに「ウイルス」を流し込んだ。
彼女は次女・ニナ。そのドジな振る舞いは、セキュリティを突破するための演技だった。
【小惑星:ジンの陣営】
カジノのオーナー室。
ジンは、絶世の美女である秘書と祝杯を上げていた。
「君のような美人が側にいると、勝利の美酒も格別だ」
秘書は妖艶に微笑みながら、ジンの個人口座から全資産を「ユキ名義」へ送金する手続きを完了させていた。
彼女は三女・ミサ。ジンのお株を奪う、ハニートラップの達人だ。
【外宇宙:カナタの陣営】
戦艦の機関室。
カナタは、腕利きの女性整備士と肩を組んでいた。
「お前の整備は完璧だ! 相棒!」
整備士はオイルまみれの顔で笑いながら、戦艦のワープエンジンに「自爆リミッター」を取り付けていた。
彼女は四女・ヨツバ。機械いじりの天才だ。
第九十一章:舞台反転 —— 『姉妹たちの逆襲』
そして、帝都の五女・ユキが、指を鳴らした。
「開演の時間よ。お姉ちゃんたち」
その合図と共に、太陽系全域で一斉に「裏切り」が発動した。
* 火星沈黙: レオの重力要塞が全機能を停止。「な、なんだ!? 制御不能だと!?」
* 木星暴走: ソフィのドローンたちが、主であるソフィに銃口を向ける。「まさか……ハッキング!? 内部から!?」
* 小惑星破産: ジンの端末に『残高:0』の表示。「嘘だろ!? 僕の金が消えた!?」
* 外宇宙漂流: カナタの戦艦のエンジンが停止。「おい! なんで動かねえんだ!」
パニックに陥る王たちの背後で、それぞれの「信頼していた部下」たちが、同時に仮面を脱ぎ捨てた。
彼女たちは全員、モニター越しにユキと同じ顔、同じ声で告げた。
『『『『チェックメイト。お疲れ様、お兄様、お姉様』』』』
第九十二章:独裁者の拍手
隠れ家の湊は、その光景を見て満足げに拍手をした。
「素晴らしい。
武力も、知力も、カリスマも持たない『弱者』が勝つ方法はただ一つ。
相手の懐に入り込み、信頼という名のナイフで背中を刺すことだ」
玲奈は呆然としていた。
「あの子たちが、5つ子だったなんて……。しかも、数年前から各陣営に潜入させていたのですか?」
「ああ。この日のためにな。
レオたちは優秀だが、『自分は選ばれた特別な存在だ』という驕りがある。
だから、足元の『モブキャラ』の顔を覚えていない。そこが命取りだ」
湊はワインを飲み干した。
「さて、これで盤面はひっくり返った。
ユキたち姉妹が全権を掌握した今、子供たちはどうする?
プライドを捨てて這いつくばるか、それとも……」
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