『未熟』
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第八十一章:開戦の狼煙 —— 『父という名の絶望』
皇居の大広間。
「奪ってみろ」という湊の言葉が合図だった。
刹那、皇居の天井が消滅した。
上空に待機していた火星軍の重力戦艦が、物理的な天井ごと空間を「剥ぎ取った」のだ。
「悪いね、親父。家(皇居)の修理代は僕が出すよ」
レオが指を振るう。
帝都全体に、地球の100倍の重力がのしかかる。通常なら建物も人間もペシャンコになる圧力だ。
だが、湊はグラスのワインをこぼすことすらなく、玉座に座っていた。
「重力操作か。……レオ、お前の詰めは甘い」
湊の足元の影が広がり、都市全体を包み込む。
《影》の物理遮断。
レオの重力を、《影》が作り出す「負の重力」で完全に相殺したのだ。
「挨拶代わりにしては軽いな。次だ」
1. 木星の雷霆
「では、遠慮なく」
ソフィが冷徹に告げると、遥か彼方の木星軌道から、一条の閃光が地球へ降り注いだ。
『木星点火砲』。
木星の黒点エネルギーを一点に収束させた、惑星破壊レベルのレーザーだ。
「馬鹿な! 地球ごと消す気か!?」
玲奈が叫ぶが、湊は笑った。
「いいや、計算されている。私の『玉座』だけをピンポイントで蒸発させる軌道だ。
……だが、直球すぎる」
湊は指を鳴らす。
宇宙空間に待機していた『調停者(銀色の正八面体)』たちが瞬時に密集し、鏡の盾となってレーザーを跳ね返した。
光は拡散し、美しいオーロラとなって地球の夜空を彩った。
「綺麗な花火だ。デートにはいいかもしれんが、戦争には向かんな」
第八十二章:盤上の攻防 —— 『王手飛車取り』
「くそっ……! 物理攻撃が通じないなら!」
ジンが端末を叩く。
「経済と情報を止める! 帝国の全資産を凍結し、ライフラインを掌握する!」
地球上の全システムに、小惑星帯からのハッキング攻撃が殺到する。
しかし、画面に表示されたのは『Access Denied(アクセス拒否)』の文字だけだった。
「な、なぜだ!? 僕の演算能力は地球のスパコンの1億倍だぞ!?」
通信機から、湊の呆れた声が響く。
『ジンよ。お前が使っているそのネットワーク……誰が敷いたと思っている?
その回線も、プロトコルも、全て私の《影》の一部だ。
私の血管の中で、私に毒を盛ろうなど100年早い』
ジンが作ったウイルスは、逆に湊に掌握され、小惑星帯の全カジノの収益が「湊の個人口座」へ送金される設定に書き換えられた。
「ああっ!? 僕の隠し資産が!!」
第八十三章:虚空からの奇襲 —— 『一撃の可能性』
「どいつもこいつも、行儀が良すぎるんだよ!」
最後に動いたのは、カナタとミオンだった。
既存の物理法則も、ネットワークも関係ない。
彼らは、水晶生命体の技術で「位相」をずらし、防御壁をすり抜けて玉座の間へ直接転移してきた。
「オラァァァ!!」
カナタが振るうのは、外宇宙で見つけた未知の鉱石でできた剣。
それは、《影》すらも切り裂く性質を持っていた。
ザシュッ!!
湊の頬に、一筋の赤い線が走った。
血だ。
「……ほう」
湊の動きが止まった。
カナタの剣は、湊の首の皮一枚手前で、湊の指2本によって白刃取りされていた。
「……惜しいな。カナタ」
「くっ……! 化け物め……!」
カナタは全力で押し込むが、湊の指は万力のように動かない。
「既存の枠組み(システム)の外から攻めた点は評価しよう。
だが、『速さ』が足りない。
私はアカシックレコードを見ている。お前が転移してくる0.5秒前から、ここに指を置いていた」
ドォォォォン!!
湊の影が爆発的に膨れ上がり、カナタを吹き飛ばした。
同時に、レオ、ソフィ、ジンの艦隊も、《影》の触手によって雁字搦めにされ、全機能を停止させられた。
勝負あり。
第八十四章:敗者たちの放課後
戦いは終わった。
皇居は半壊し、帝都のインフラは一時停止したが、湊が守ったため死者はゼロだった。
瓦礫の山となった大広間で、4人の「王」たちは息を切らして膝をついていた。
彼らの前には、少しだけ頬に傷を負った湊が立っている。
「……完敗だ。やっぱり勝てねえよ、この親父は」
カナタが大の字に寝転がる。
「計算外です。まさか、調停者まで手駒にするなんて」
ソフィが悔しそうに唇を噛む。
湊はハンカチで頬の血を拭い、彼らを見下ろした。
「悪くない連携だった。
レオの重力で足を止め、ソフィの火力で視界を奪い、ジンのハッキングで意識を逸らし、カナタが喉元を狙う。
……あと100年修練を積めば、私に冷や汗くらいはかかせられるかもしれん」
「100年……」
ジンが絶望的な顔をする。「その頃には、あんたまた進化してるだろ……」
湊は笑った。
「当然だ。親とは、常に子供の先を行く壁でなければならん」
そして、湊は彼らに告げた。
「さて、負けた罰だ。
レオは壊した皇居の修復。
ソフィは帝都の電力復旧。
ジンは……私の口座に振り込んだ金を、そのまま寄付金として計上しておけ。
カナタは庭の草むしりだ」
「はあ!? 草むしり!?」
「文句があるならもう一度やるか?」
「……やります。喜んで」
地位の剥奪も、追放もない。
ただの「家の手伝い」を命じられた彼らは、苦笑いしながら立ち上がった。
彼らは理解したのだ。この圧倒的な父親がいる限り、自分たちは安心して背中を追いかけ、何度でも挑めるのだと。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『空虚』




