『責務』
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第六十一章:銀河皇帝の憂鬱なる漫遊記
帝都・執務室。
湊の机の上には、電子ペーパーではなく、石版、クリスタル、謎の粘液が入った壺など、銀河中から届いた物理的な「招待状」が山積みになっていた。
「『我が星の建国記念式典に』、『第4000期・産卵フェスティバルに』、『最強決定武闘会の来賓として』……」
湊はこめかみを押さえた。
「……玲奈。全部断れと言いたいところだが」
「なりませんわ、陛下。これらを無視すれば、『地球の王は引きこもりだ』『我々の星に来る度胸がない』と侮られます。
帝国の威信に関わりますわ」
「分かっている。……行くさ。行くとも」
湊は立ち上がり、マントを翻した。
「全銀河に知らしめてやる。私が地球にいるのは、外が怖いからではない。地球が一番快適だからだということをな」
こうして、最新鋭の皇帝専用艦『アマテラス』による、前代未聞の「銀河表敬訪問ツアー」が幕を開けた。
第六十二章:第一の星 —— 剛力惑星『バルバロス』
最初に訪れたのは、あの運動会で綱引きに参加した「剛力星人(トカゲ将軍)」の母星だった。
そこは、重力が地球の5倍、気温50度の灼熱の荒野が広がる、筋肉と暴力の星だ。
1. 歓迎の儀式(という名の決闘)
宇宙港に降り立った湊を待っていたのは、数万の屈強な戦士たちと、その中心に立つ皇帝(将軍の父)だった。
『ようこそ、ひ弱な地球の王よ!
我が星の流儀では、客人は最強の戦士と拳を交え、その強さを証明せねばならん!』
野蛮な咆哮と共に、身長10メートルのチャンピオンが、巨大な戦斧を振り上げて突進してくる。
「死にたくなければ、その細い手足でガードしてみせろ!」
湊は、ため息をついた。
「……野蛮だ。挨拶もなしに暴力とは」
湊はポケットから手も出さず、ただ「見た」。
【重力干渉:50G】
「ぐ、ぎゃあああああ!?」
突進していたチャンピオンが、突然見えない巨大なプレス機に押し潰されたかのように、地面にめり込んだ。
斧は飴細工のようにひしゃげ、戦士はカエルのように這いつくばる。
「な、何をした……!? 指一本動かしていないぞ!?」
バルバロスの皇帝が驚愕する。
湊は、倒れたチャンピオンの背中を優雅に踏みつけ、階段代わりにして進んだ。
「この星の重力は軽すぎるな。少し『加重』しておいたぞ。
……さて、歓迎の宴はまだか? 喉が渇いた」
圧倒的な格の違い。
筋肉自慢の種族は、物理的な腕力ではない「次元の違う暴力」を見せつけられ、一瞬で湊の信者となった。
第六十三章:第二の星 —— 群体惑星『ネクサス・ハイブ』
次に訪れたのは、昆虫型生命体が住む巨大な巣のような惑星。
ここでは「個」という概念がなく、全員が意識を共有している。
1. プライバシー・ゼロの地獄
『歓迎シマス。歓迎シマス。我々ハ、一ツ。貴方モ、一ツ』
無数の昆虫人間たちが、カサカサと音を立てて湊を取り囲む。
彼らに悪気はないが、思考がダダ漏れで、常に精神感応を送ってくる。
玲奈が青ざめる。
「陛下……頭の中がうるさいですわ。それに、距離感が近すぎます!」
食事会(?)では、彼らが口移しで栄養液を運んでこようとする。
「共有シマショウ。栄養ヲ。愛ヲ」
湊は、引きつった笑顔を浮かべつつ、内心で叫んだ。
(……帰りたい。今すぐ帝都の個室トイレに引きこもりたい)
だが、ここで逃げれば国の恥。
湊は、逆転の発想に出た。
「共有か。素晴らしい概念だ。
ならば、私の『虚無』も共有してもらおうか」
湊は、自らの脳内にある「退屈」や「虚無感」、そしてアカシックレコードから引き出した「無限の円周率の羅列」などを、テレパシーで逆流させた。
『ギ、ギギギ……!?』
『暗イ……重イ……! 思考ガ、凍りつク……!』
ハイブ全体がパニックに陥った。
湊という一人の人間の自我が強固すぎて、逆に集合精神全体が「湊色」に染められそうになったのだ。
『マ、参りマシタ……! 貴方ノ「個」ハ、強大すぎマス……!』
彼らは恐怖し、湊との間に「物理的な壁」を作って距離を取った。
湊は、静かになった個室で優雅にお茶を啜った。
「やはり、適度な距離感こそが文明だな」
第六十四章:第三の星 —— 水晶惑星『クリスタリア』
最後は、ミオンとカナタが友好を結んだ、美しい水晶生命体の星。
ここは快適だったが、別の問題があった。
1. 究極の「お土産」攻撃
彼らは湊を神のように崇め、最高の贈り物を用意していた。
『陛下。我々の体を削り出した、純度100%の「生体メモリ」です』
『この星の核エネルギーを凝縮した「宝石」です』
どれもこれも、地球の価値観では国家予算並みの宝だ。
だが、彼らの「善意」は止まらない。
『陛下、この星の「半分」を差し上げます』
『いいえ、私の「娘(分身)」を側室にしてください』
『むしろ、陛下がこの星の「メインサーバー」になってください』
重すぎる。愛と忠誠が重すぎる。
湊は笑顔でそれらをかわしつつ、玲奈に耳打ちした。
「……玲奈。荷物がいっぱいだと言って断れ」
「無理ですわ。彼ら、専用の輸送艦まで用意しています」
結局、湊は「外交儀礼」として、大量の宝石、謎のオーパーツ、そして数名の「留学希望者(という名の人質兼ファン)」を引き連れて帰ることになった。
第六十五章:やはり、我が家に限る
数週間の漫遊を終え、『アマテラス』は地球へと帰還した。
青い星が見えた瞬間、湊は心底安堵した息を吐いた。
「……戻ったか」
宇宙港に降り立つと、そこには適度な重力、適度な雑音、そして「言葉で話さなければ通じない」適度な不便さがあった。
「お帰りなさいませ、陛下!」
出迎えた日本の官僚たちが、深々と頭を下げる。
その「形式ばった挨拶」さえも、今の湊には愛おしかった。
その夜。
皇居の檜風呂に浸かりながら、湊は日本酒を傾けた。
「筋肉ダルマも、集合精神も、生きた宝石も……たまに見る分にはいいが、暮らす場所じゃないな」
玲奈が背中を流しながらクスリと笑う。
「ええ。ですが、陛下がそれぞれの星で見せた『威光』は、向こう100年は語り継がれるでしょう」
「だろうな。……だが、当分旅行はいい。
私はこの『ぬるま湯』のような地球で、世界征服の余生を過ごすよ」
外を見たからこそ、内(地球)の良さを再確認した湊。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『無謀』




