『隣人』
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第五十六章:狭き門 —— 『銀河入国管理局』の設立
帝都の衛星軌道上に、巨大なステーションが建設された。
その名も『地球特別入国審査センター』。
そこには、「地球に永住したい」と願う異星人たちが長蛇の列を作っていた。
しかし、その審査基準は、彼らの予想を遥かに超えて厳格かつ「陰湿」だった。
1. 武力も金も通用しない
審査ブースでは、凶悪な見た目の『トカゲ将軍』が、人間の審査官に詰め寄っていた。
「おい! 俺は銀河を震わせる将軍だぞ! この金塊でヴィザを寄越せ!」
しかし、審査官(湊の教育を受けた鉄面の日本人)は、冷淡にモニターを指差した。
「却下です。あなたの種族は声が大きすぎる。帝都の騒音規制値を3デシベル超えています」
「なっ……!?」
「それに、その金塊は賄賂罪に当たります。減点50。不合格。お引き取りください(強制送還ビーム発射)」
将軍が転送されると、次のスライム型宇宙人が恐る恐る進み出る。
「つ、次は私デ……」
「貴方は体液の成分検査で、指定外の粘性物質が検出されました。公衆浴場法に抵触します。不合格」
湊が定めた基準は、「日本の社会秩序(和)を乱さないこと」。これ一点のみ。
どんなに強力な武器を持っていても、満員電車でリュックを前に抱えないような奴は、即座に宇宙へ送り返された。
第五十七章:再教育施設 —— 『オモテナシ矯正キャンプ』
一次審査をパスしたエリート異星人たちを待っていたのは、さらなる地獄だった。
富士の裾野に作られた『異星人適応訓練校』での合宿免許である。
ここでのカリキュラムは、地球の言語習得ではない。
「日本式マナー」の徹底的な叩き込みだ。
1. ゴミ分別という名の試練
「違う! ペットボトルのラベルとキャップはプラごみだと言ったはずだ!」
教官の怒号が飛ぶ。
叱られているのは、IQ300を誇る『超頭脳星人』だ。彼は震える手でペットボトルを分別している。
「くっ……量子力学より難しい……! なぜ日本の自治体によって分別ルールが違うんだ……!」
2. 「空気」を読む訓練
教室では、テレパシー能力を持つ種族たちが、車座になっていた。
課題は『飲み会の席での振る舞い』だ。
「いいか。上司(AI)のグラスが空いた瞬間に、注文をするんだ。テレパシーで心を読まずに、『目配せ』だけで察しろ!」
「そ、そんな……。直接脳に聞いたほうが早いのに……」
「それが『野暮』だと言うんだ! やり直し!」
3. 卒業試験:『ご近所付き合い』
最終試験は、実際の住宅街のセットで行われる。
朝のゴミ出しの際、近所の奥様(教官)とすれ違った時の対応だ。
トカゲ型の訓練生は、深々と45度の角度でお辞儀をした。
「おはようございます、田中さん。今日はいいお天気ですね」
「あら、おはよう。ゴミ出し? えらいわね」
「いえいえ、ついでですので。……では、失礼します」
完璧な挨拶。完璧な謙遜。
教官は涙を流して合格ボタンを押した。
「合格だ……! お前はもう、立派な日本男児だ!」
こうして、厳しい訓練を耐え抜いた「プロの異星人」だけが、地球への移住を許された。
第五十八章:隣のエイリアン —— 地球人たちの反応
そして、実際に異星人たちの移住が始まった。
当初、混乱が予想されたが、湊の「教育」と、地球人特有の「順応性」によって、意外な光景が広がっていた。
1. 「あら、奥様」の相手はスライム
東京の下町。
主婦たちが井戸端会議をしている。その輪の中に、ピンク色の不定形生物(スライム星人)が混ざっていた。
「やだわー、最近野菜が高くて」
「本当よねえ。うちなんて、光合成で済ませてるからいいけど」
スライム星人の奥様(?)は、近所の人気者だった。
彼女は自分の体を自在に変形させ、高い所の洗濯物を取ったり、排水溝の掃除をしてくれるからだ。
「あそこの奥さん、気が利くのよねえ」
「見た目はヌルヌルだけど、ゴミの出し方は完璧だしね」
地球人たちは、相手がエイリアンであることよりも、「ルールを守る良い隣人かどうか」で判断していた。
2. ガテン系・重力星人
工事現場では、岩のような皮膚を持つ巨人が働いていた。
彼は重機を使わず、鉄骨を片手で運んでいる。
「おーい、ゴローちゃん(異星人)! 休憩にするぞ!」
「ウイッス! 親方、缶コーヒーあざっす!」
彼は元・銀河の破壊神だったが、今は日本の缶コーヒーと、汗を流して働く喜びに目覚めていた。
現場監督も、「文句も言わずに働くし、重機より燃費がいい」と大絶賛だ。
3. 商店街の用心棒
コンビニで万引き犯が逃げようとした瞬間、レジ打ちをしていた店員(昆虫型エイリアン)が、残像が見える速度で犯人を取り押さえた。
「お客様。商品の精算がお済みではありません」
「ひ、ひいい!」
複眼で見つめられた犯人は失禁した。
「最近、治安が良くなったわねえ」と近所の評判も上々だ。
帝都のテラスにて
湊は、街の様子をモニターで眺めながら、満足げにコーヒーを飲んでいた。
「素晴らしい。彼らは、下手な地球人よりもよほど『日本人』らしい」
「ええ。ゴミの分別率が、異星人居住区の方が高いというデータも出ていますわ」
玲奈が報告する。
「郷に入っては郷に従え。それができる知性があるなら、姿形など関係ない」
湊の徹底的な管理教育により、異星人は「恐ろしい侵略者」から、「ちょっと見た目は変だけど、真面目でいい人たち」へとクラスチェンジした。
地球人たちも、そんな彼らを「便利な隣人」としてドライに、しかし温かく受け入れていた。
「さて、人口も増えた。労働力も増えた。
この『多種族共生・日本』を、次はどう発展させるか」
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『呑気』




