『分離』
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第三十一章:光速の壁を穿つ針 —— ワープ航法『天岩戸』
帝都の地下、最深部にある極秘ドック。
そこには、これまでの流線型の船とは異なる、刺々しくも神々しい、槍のような形状をした漆黒の艦が鎮座していた。
恒星間航行船 『イザナギ』。
その心臓部には、ソフィが木星で作った「超高密度エネルギーセル」と、レオが設計した「空間湾曲ジェネレーター」が搭載されている。
1. 物理法則への最後の反逆
「重力を操れるなら、空間を折り畳むことも可能だ」
湊は、ホログラムで投影された航行理論を指差した。
従来のロケットは、空間の中を移動するだけだった。
だが、この船は違う。
* 空間圧縮: 前方の空間を重力で極限まで圧縮し、距離を縮める。
* 空間膨張: 後方の空間を爆発的に膨張させ、推力を得る。
* 次元穿孔: さらに、強力なエネルギーで「通常空間」に穴を開け、亜空間を潜り抜ける。
これらを組み合わせた理論こそが、『次元跳躍航法』。
湊はこれを、神話になぞらえて『天岩戸システム』と名付けた。
「計算上の移動速度は、光速の約1000倍。隣の恒星系まで、わずか数日の距離になる」
2. 第四の子供 —— 『虚空の狩人』
「ですが陛下。誰を乗せるおつもりですか?」
玲奈が尋ねる。
「この船は、二度と地球に戻れないかもしれません。太陽系の外は、私の《影》さえ届かない完全なる『無』の世界です」
「ああ。だからこそ、『帰る場所を持たない男』を選んだ」
ドックのタラップを昇ってくる一人の青年がいた。
名は、皇 カナタ(19歳)。
彼は、レオやソフィのような「創造」の才能も、ジンのような「商才」もない。
彼の才能は、『超直感』と『絶対孤独への耐性』だ。
テストパイロットとして数々の実験機を乗り潰し、死の淵から生還すること数回。
彼は、完成されすぎた平和な太陽系に、窒息しそうになっていた「異端者」だった。
「よう、皇帝陛下。俺に最高にイカれた棺桶を用意してくれたって?」
カナタは湊の前でも不敵に笑う。
湊もまた、楽しげに笑い返した。
「ああ。この太陽系は狭すぎるだろう? お前のような野良犬には」
「違いない。どこへ行ってもルール、効率、平和……。ヘドが出るぜ」
「だから、外へ行け。そこには地図もない。ルールもない。未知の敵と、死だけが待っている」
湊は、カナタに一枚のチップを渡した。
そこには、地球のあらゆる生物のDNAデータと、日本の全テクノロジー、そして文化遺産が圧縮されている。
「お前は『種』だ。銀河のどこでもいい。気に入った星を見つけ、そこに根を張り、増やせ。
……成功すれば、そこが新しい『日本』になる」
3. 星の海への出航
発進の時。
『イザナギ』のエンジンが唸りを上げる。
それは爆音ではなく、空間そのものが軋むような、重低音の振動だった。
「カナタよ。二度と戻ってくるな。振り返らずに、突き進め」
『了解だ、ボス(陛下)。……あんたが作ったこの退屈で最高な世界のこと、忘れないでおいてやるよ』
通信が切れると同時に、艦の前方の空間がガラスのように砕け散った。
漆黒の穴が口を開ける。
「次元跳躍、開始!」
閃光と共に、『イザナギ』は消滅した。
光すら置き去りにして、彼らは人類未踏の領域、外宇宙へと旅立ったのだ。
第三十二章:銀河に撒かれた種
モニターから機影が消えた後、湊は窓の外の星空を見上げた。
「行ったか」
これで、人類滅亡のリスクは「ゼロ」になった。
たとえ太陽系が消滅しても、カナタが乗った『イザナギ』が、宇宙のどこかで文明を存続させるからだ。
「陛下。……少し、寂しそうですわね」
玲奈がコーヒーを差し出す。
「まさか。私はただの投資家だ。
リスクを分散させたに過ぎない」
湊は否定するが、その表情はどこか晴れやかだった。
彼は知っている。自分が作り上げた完璧なシステム(太陽系)からは、もう「未知」は生まれないことを。
だからこそ、制御不能な「外」の世界へ、自分の代わりに夢を見てくれる存在を送り出したのだ。
「さて、レオ、ソフィ、ジン。そしてカナタ。
種は撒いた。あとは芽が出るのを待つだけだ」
湊は玉座に戻り、再び地球の書類の山に向き合った。
彼の仕事は、彼らがいつか「成果」を持って帰ってくる(あるいは連絡してくる)その日まで、この本拠地である地球を、盤石の状態で守り続けることだ。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『進化』




