『奇想』
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第二十八章:紅き星の彫刻家 —— レオの回答
地球から送られてくる定期報告のホログラム映像。
そこに映し出された火星の姿に、湊の隣にいた玲奈が息を呑んだ。
「これは……都市、なのですか? まるで……」
「空中に描いた幾何学模様だな」
湊は面白そうに目を細めた。
かつて赤茶けた死の星だった火星は、今、その上空に巨大な『銀の輪』を戴いていた。
1. 地面に住むのは「時代遅れ」
通信モニターに、成長したレオの顔が映る。
髪は相変わらずボサボサで、顔にはオイルの汚れがついているが、その目は狂気じみた自信に満ちていた。
『陛下、まだ地面にへばりついて生活してるんですか? 重力が制御できるのに、ナンセンスですよ』
レオが火星で行ったのは、地表へのドーム建設ではなかった。
火星の低重力を逆手に取り、地表から高度10,000メートルの成層圏に、巨大なリング状の居住区『オリンポス・リング』を浮かべたのだ。
* 完全な重力制御: リング内部は地球と同じ1Gに調整されている。
* 塵の海の上: 火星特有の激しい砂嵐は、遥か眼下にある。住民たちは、常にクリアな星空と、赤く輝く大地を見下ろしながら優雅に暮らす。
『地表は資源採掘用の工場と、僕の「実験場」です。人間が住む場所じゃない』
2. 惑星規模の「圧縮」
「それで、大気の問題はどうした? 火星の大気は薄すぎて、宇宙線が降り注ぐはずだが」
湊の問いに、レオはニヤリと笑い、手元のコンソールを操作した。
『簡単ですよ。星ごと締め上げればいい』
レオが開発したのは、惑星全体を包み込む『重力ネット』だった。
火星の周囲に展開した無数の重力衛星が、内側に向けて強力な引力を発生させる。
これにより、薄く拡散していた大気が地表近くに無理やり圧縮され、擬似的に分厚い大気層が形成されていた。
『重力で大気を逃さないように蓋をしたんです。おかげで、地表の気圧も上がって、気温も上昇しました。今じゃ、極冠の氷が溶けて、地表に川ができてますよ』
テラフォーミング(地球化)には数百年かかると言われていた。
だが、レオは「力(重力)」で物理的に解決した。
繊細な環境調整などではない。「住めないなら、住めるように星の形を変えてしまえ」という、湊譲りの強引な手法だった。
3. 独自の美学と文化
映像は、リング内部の街並みを映し出す。
そこは、地球のどの都市とも違っていた。
建物は上下左右あらゆる方向に伸び、道路は螺旋を描いて空中に消えていく。
重力が自在にデザインできるため、「天井」や「床」の概念が曖昧なのだ。
住民たちは、背中に小型の重力翼をつけ、鳥のように飛び回りながら移動している。
『ここの住民は、もう「上下」なんて気にしません。自由で、機能的で、そして何より美しい』
レオは、自分の作り上げた世界を誇らしげに見せた。
『どうです、陛下。地球より、こっちのほうがワクワクしませんか?』
湊の評価
通信を終えた湊は、満足げにグラスを回した。
「合格だ」
「よろしいのですか? 随分と……独創的すぎる気もしますが」
玲奈が困惑気味に言う。
「構わん。私が求めたのは『地球のコピー』ではない。地球では不可能な発想だ。
彼は、火星というキャンバスを使って、見事な彫刻を作り上げた」
レオの統治する火星は、「重力工学と芸術の都」として確立された。
そこには、地球の窮屈な常識を嫌うアーティストや、急進的な技術者たちが続々と移住しているという。
「さて、芸術家の次は……『商売人』と『科学者』の様子も気になるな」
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