『偽物』
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第二十六章:管理されたロマン —— 深海遺跡公園『ネオ・アトランティス』
爆破命令が出される寸前、湊は《影》の動きを止めた。
「待て。……考えが変わった」
湊は、モニターに映る神秘的な廃墟を見つめ直す。
危険な機能(防衛システムや物質変換コア)は抜き取った。後に残るのは、圧倒的に美しく、ミステリアスな「石の塊」だけだ。
「ただ壊すのは能がない。人間は、こういう『意味ありげな廃墟』が大好物だったな」
湊は即座に計画を変更した。
レジスタンスが「不満のガス抜き」なら、この遺跡は「退屈のガス抜き」だ。
1. 深海6000メートルのテーマパーク
数週間後。
マリアナ海溝の深部に、世界で最も高価で、最も危険な香りのする観光地がオープンした。
『深海遺跡公園 ネオ・アトランティス』
「ようこそ、人類の失われた記憶へ」
ツアー客たちは、最新鋭の『アクア・メンブレン(深海適応膜)』を纏い、ガイドの先導で海中を泳ぐ。
目の前に広がるのは、ライトアップされた巨大な神殿、意味深な壁画、そしてかつて防衛兵器だった残骸たち。
「すごい……! 本当に古代文明があったんだ!」
「見てくれ、この幾何学模様。宇宙人の仕業じゃないか?」
客たちは興奮し、写真を撮り、SNSに投稿する。
彼らは知らない。この遺跡の危険な部分はすべて湊によって撤去され、観光用に「それっぽく演出された偽物」*混ぜられていることを。
2. 演出された「冒険」
このパークの最大の売りは、「探索コース」だ。
決められたルートを見るだけでなく、自分の足で未踏のエリア(に見える場所)を探検できる。
「この先は立ち入り禁止エリアだ……行ってみようぜ」
若者たちがスリルを求めてロープをくぐる。
薄暗い通路、不気味な鳴き声(スピーカーからの演出)、崩れ落ちる壁(安全なホログラム)。
彼らは「自分たちだけが秘密を発見した」という興奮に酔いしれる。
だが実際は、そのルートも、彼らの心拍数も、すべて管理センターのAIが監視している。
危険度が上がれば、さりげなく《影》がサポートし、事故を防ぐ。
「きゃあ! 危なかった……!」
「俺が助けたんだぜ」
彼らは「命がけの冒険」をして生還した気になっているが、実際は「絶叫マシーン」に乗っていたのと変わらない。
湊は、人々の「冒険心」さえも、安全な檻の中で飼い慣らしてしまったのだ。
第二十七章:冒険王の憂鬱
このプロジェクトには、一人の「顔」が必要だった。
かつて世界中の秘境を旅し、現在は湊の配下となった著名な冒険家、ガルドだ。
彼は遺跡公園の館長として、日々ゲストたちに古代のロマンを語っている。
「古代人は、我々に警鐘を鳴らしているのです……」
熱っぽく語るガルドだが、閉館後の彼は、遺跡の奥で一人、酒を飲んでいた。
「警鐘、か。……中身が空っぽの鐘を鳴らして、何になる」
ガルドは知っていた。
自分が語っている「古代の神秘」の正体が、湊によって骨抜きにされた「抜け殻」であることを。
本当の驚異は、とっくに帝国に没収され、管理されている。
そこに、視察に来た湊が現れた。
「いい演説だったぞ、ガルド。来場者数は先月の120%増だ」
「……陛下。俺は、ピエロですか」
ガルドは自嘲気味に笑う。
「俺たちが求めていた冒険は、こんな……安全安全な『ごっこ遊び』じゃなかったはずだ」
湊は、遺跡の壁画(本物)を撫でながら答える。
「本物の冒険とは、死と隣り合わせだ。飢え、病、理不尽な暴力。
私が作った世界は、それらを排除した。
安全な冒険。清潔なミステリー。 ……それこそが、大衆が真に求めていたものではないか?」
ガルドは言葉に詰まる。
確かに、客たちは笑顔だ。誰も死なない。誰も傷つかない。
「ロマン」という名のエンターテインメントを消費し、明日への活力を得て帰っていく。
「真実を知る必要はない。彼らには『夢』を見せておけばいい。
お前はその夢の語り部だ。……立派な仕事だろう?」
湊の言葉は、残酷なほど正しかった。
ガルドは深く頭を下げる。
「……仰せのままに。最高の夢を、語って見せましょう」
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『奇想』




