『深海』
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第二十四章:深淵からの遺産 —— 『アトランティス・コード』
深海都市『ワダツミ』の拡張工事が進む、水深6000メートルの海底。
《影》の作業員たちが岩盤を掘削していた時、それは現れた。
岩の裂け目から漏れ出す、青白い燐光。
そこには、自然物ではあり得ない、幾何学的で優美な「都市」の廃墟が広がっていた。
炭素年代測定の結果は、測定不能。人類が誕生する遥か以前の、未知の知的生命体による文明の痕跡だった。
1. 遠隔指揮
帝都・皇居の「天空の玉座」。
湊は、深海の映像を巨大モニターに映し出し、優雅にグラスを傾けていた。
「素晴らしい。やはり、地球は私を飽きさせない」
現場の技術者たちは興奮し、直接調査に入ろうとしていたが、湊はそれを制止した。
「止まれ。人間が踏み込むにはリスクが高すぎる。未知のウイルス、あるいは防衛システムが生きている可能性がある」
湊は指先を動かす。
モニターの中で、数百体の《影の探査兵》が実体化し、遺跡内部へと侵入していく。
彼は、深海6000メートルの現場を、まるでチェスの盤面のように安全な天空から操作した。
「右翼、第3区画をスキャン。……生体反応なし。エネルギー反応、高。回収班を送れ」
2. 眠っていた「守護者」
遺跡の最奥部、神殿のような広間。
そこに、脈動する巨大なクリスタルがあった。
《影》がそれに触れようとした瞬間、周囲の石像が動き出した。
古代の自律防衛兵器。
流体金属のようなボディを持ち、深海の高圧などものともしない速度で《影》たちを切り裂く。
その戦闘力は、現行の人類兵器を凌駕していた。
「ほう。数億年経っても機能するとは。いい『番犬』だ」
現場の人間ならパニックになるところだが、湊にとってはただのデータ収集だ。
彼は冷静に《影》の増援を送り込み、同時に相手の攻撃パターンを解析する。
「パターン学習完了。……制圧せよ」
数千の《影》が一斉に「液体化」し、防衛兵器の内部に侵入。回路を内側から食い破り、わずか数分で古代の守護者たちを沈黙させた。
泥臭い戦闘も、犠牲もゼロ。
圧倒的な物量と、死なない兵士による、一方的な蹂躙劇だった。
3. ロストテクノロジーの収奪
防衛システムを排除した湊は、遺跡のコアであるクリスタルを解析させた。
そこに含まれていたのは、現在の科学文明を数千年ジャンプさせるほどの「物質変換技術」のデータだった。
【解析結果:原子配列の自由な書き換え】
* 鉛を金に、水を燃料に、瓦礫を食料に変える技術。
* つまり、「等価交換」の法則を超越した錬金術の体系化である。
「なるほど。彼らは資源枯渇によって滅びたのではなく、何でも作れるようになった結果、争う理由を失い、進化を止めて静かに消滅したのか……」
皮肉な歴史を読み解きながら、湊は冷徹に命令を下した。
「遺跡を爆破せよ」
「へ、陛下!? 歴史的遺産を壊すのですか!?」
科学者たちの悲鳴を無視し、湊は続ける。
「データは全て吸い上げた。形ある遺跡を残しておけば、愚かな人間が崇拝したり、余計な思想に被れたりする。
技術だけあればいい。過去の亡霊は不要だ」
モニターの中で、美しい古代都市が閃光と共に崩れ落ち、瓦礫の山へと変わっていく。
湊の手元には、文明の精髄であるデータだけが残った。
第二十五章:万能の錬金術師
数ヶ月後。
帝国の工場には、新たなラインが稼働していた。
ゴミ処理場から運ばれてきた廃棄物が、装置を通ると、真新しいレアメタルや、最高級のステーキ肉へと再構成されて出てくる。
ロストテクノロジー『物質変換』の実用化だ。
これにより、人類の悩みであった「資源の偏在」すらも消滅した。
もはや、鉱山を掘る必要すらない。そこら辺の石ころが、ダイヤモンドにもウランにもなるのだから。
「これで、私が与える『富』は無限になった」
湊は、物質変換装置で作らせた、完璧なカッティングのダイヤモンドを光にかざす。
それは天然物よりも美しく、そして無価値だった。
「希少性が暴落すれば、人は物を欲しがらなくなる。
次に彼らが欲するのは、形のないもの……『承認』や『序列』、そして私への『忠誠』だ」
物質的な欠乏が完全に消滅した世界で、人々は唯一の供給者である湊を、政治的リーダーを超えた「造物主」として崇めるようになっていた。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『偽物』




