『任命』
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第二十三章:星を継ぐ三人の「非」後継者
帝都、皇居の最上階「天空の玉座」。
湊は、窓の外に浮かぶ月を眺めながら、傍らの玲奈に告げた。
「私の目が届くのは、ここまでだ」
地球と月。光の速さで約1.3秒。この距離までなら、私は《影》を自分の手足として完璧に制御できる。
だが、火星、木星となると、数分から数十分のラグが生じる。
「遅すぎる」世界を憎む湊にとって、自分の意思が即座に反映されない領域を統治することは、ストレスでしかなかった。
「ゆえに、庭(太陽系)の管理は他人に任せる。……『検体』たちの準備は?」
「整っております。人材採掘所の全データ、1億2000万人の未成年者の中から選抜された、トップ3の『怪物』たちです」
扉が開く。
入ってきたのは、まだあどけなさの残る、しかしその瞳に異常なほどの知性を宿した三人の少年少女だった。
彼らに、湊との血縁関係はない。あるのは、純粋な能力だけだ。
1. 火星の建築家 —— レオ(15歳)
一人目は、ボサボサの髪に、作業着のようなラフな格好をした少年。
彼の特技は『空間把握と重力設計』。
脳内で複雑な建築図面を瞬時に描き出し、重力制御装置を使ってそれを具現化する天才だ。
「……あなたが皇帝か。僕に『赤い星』をくれるって本当?」
2. 木星の資源王 —— ソフィ(13歳)
二人目は、白衣を纏い、無表情でタブレットを操作し続ける少女。
彼女の専門は『流体化学とエネルギー変換』。
有毒なガスを瞬時に資源に変える化学プラントの設計において、AIすら凌駕する計算能力を持つ。
「感情論は結構です。木星圏のガスの採掘権、独占させていただけるなら働きます」
3. 小惑星の商社マン —— ジン(17歳)
三人目は、仕立ての良いスーツを着こなし、柔和な笑みを浮かべる少年。
彼は技術者ではない。『経済学と交渉術』の天才だ。
宇宙空間での物流、交易、そして人の心を操る術に長けている。
「火星と木星の間、アステロイドベルト。あそこは宝の山だ。僕なら宇宙の物流ハブを作ってみせますよ」
『太陽系分割統治計画』の発令
湊は三人に、それぞれの担当エリアを示したホログラムを見せた。
「君たちを、私の子供(養子)として迎えるつもりはない。君たちはあくまで『下請け』だ」
湊の条件は、冷酷かつシンプルだった。
* 任務: それぞれの担当惑星(火星・木星・小惑星帯)に居住区を建設し、経済圏を確立せよ。
* 支援: 初期の重力制御船と、最低限の《影》の護衛、そしてスターターキットとしての資材のみ与える。
* 報酬: 成功すれば、その星の「王(総督)」としての地位と、永続的な自治権を与える。
* ペナルティ: 失敗した場合、救助はしない。宇宙の藻屑となれ。
「私は地球と月で忙しい。君たちが宇宙の彼方で野垂れ死のうが、反乱を起こして自滅しようが、私の統治には1ミリの影響もない」
湊は、彼らを試すように見下ろした。
「だが、もし私を驚かせるほどの成果を出せば……その時は、対等な『同盟者』として認めてやってもいい」
三人の目に、火がついた。
彼らは、安定した地球での生活よりも、命がけでも自分の国を持てるチャンスを選んだのだ。
「やってやるよ。火星を地球より青い星にしてやる」(レオ)
「効率的な取引ですね。エネルギー供給量で地球を追い抜いてみせます」(ソフィ)
「宇宙の財布は僕が握る。楽しみにしていてください、陛下」(ジン)
旅立ちの時
数日後。
三隻の巨大な恒星間移民船が、月面基地から旅立った。
それぞれが、数百人の技術者と開拓民(志願した貧困層や夢想家たち)を乗せて。
湊は見送りもしなかった。
彼にとって、これは「宝くじ」を買うようなものだ。当たれば莫大な利益(太陽系資源)が転がり込み、外れても紙切れ(わずかな投資)を失うだけ。
「行かせましたわね。……あの子たち、本当に生きて帰れるでしょうか?」
玲奈が不安げに問う。
「さあな。だが、私の眼鏡に適った子供たちだ。
……おそらく数年後、我々は宇宙からの『請求書』ではなく、『招待状』を受け取ることになるだろう」
湊はワインを飲み干し、再び地球の書類へと目を落とした。
彼にとっての宇宙開発は、これで「完了(自動化)」したのだ。
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『深海』




