XIII:イスカリオテ
全能は天使を、自身の代わりに世を治める神として作った。
曰く、「自分は人では無いから」だそうだ。私に人の感情らしき物を搭載し、「人の心を持った神」になる事を想定して私を作ったそうだ。
始まりは1200年以上前、崩落が始まる数年前の事らしい。
全能は治世の為に作られたが、それに反旗を翻した…曰く「英雄」達に全能は打倒された。
その数年後、崩落が起こった。これは一応、嘗ての人々が作り出した人災に類するらしい。
曰く、「地に穴を開ける兵器」と「現実」による地下空洞化が合わさった結果…らしい。
風船に針を刺すような事を、何度も何度も繰り返した事で、地平線は文字通り地平線になってしまったそうだ。
対崩落用結界も、その時作られた物だ。…あの時代に、よくもまああんな物を作れたもんだ。
……話が変わったのは3000年を突破した辺りだ。全能は崩落に巻き込まれ、裏世界へ落ちた。
そうして、全能は神権を得た。どうやら、一定以上の魔力を保有する事が神権を持つ第一条件らしい。
「全能」…起こり得る全ての事象を見通す神権。その時見た未来では、私は上手い事やっていたらしい。
そして、私以外が上手くやっていた未来は見えなかったらしい。
確かにあんな狭い世界じゃ、並大抵の人じゃ先へ行けなかっただろう。
̷̷正̷直̷、̷ど̷う̷で̷も̷良̷か̷っ̷た̷。̷
……私が作られたのは崩落が止まった直後、時期的には3000年辺りだそうだ。
「詳細不明の人間」を受け入れざるを得ない状況にする為、ある程度まで首を絞め、適度に追い詰める。
それの第一段階+天使の試運転として、都市を一つ落とした。
̷̷私̷じ̷ゃ̷な̷く̷て̷も̷良̷か̷っ̷た̷ん̷じ̷ゃ̷な̷い̷か̷。̷
全能は私を大天使として作った。ただ、最初に作られたからなのか、所謂寿命自体は人と同じぐらいだったそうだ。
……神として運用するにしては、随分と大きなデメリットな気がするが……葉月が感情を搭載できたのは、私が最初で最後だったらしいから。
経過年数を重ねない為に、全能は祝福を頼った。
私が起きたあの場所の時間を固定し、期が来るまで封印する…という事だったらしい。
魔術適正は星系統と光系統、そして保険のセトラ。
もう少し色々持たせてくれても良かったんじゃないかと、偶に思う。
――――
渚の体は現在、不滅が治す以上の速度で破壊され続けている。
――――
まあ、全属性扱える程私は器用じゃ無いか。
最初から私の血は金色だったのだろうか。あの時は怪我をした瞬間、セトラが勝手に治していたから、血を見た事は無い。
…尋常じゃない魔力量と、装束使用後の感覚的に…多分、最初から私の血は金色だったんだろう。
1000年もこんな事を押し付けるなら、私を人として作らないで欲しかった。
記憶を消して、消して、消して、消して消して消して消して消して消して………やっと、やっと真面で居られた。
多分、忘れてしまった事すら忘れてしまっただけで、様々な事を忘れてしまったんだろう。
……人に関する記憶は重点的に消した。そこは私の弱点であり、もっとも大事な物だったから。
人に関われば、少なくとも目の前では消えて欲しくない。
そう思う事は公平では無いから、公平でない天秤を極力公平にする為、私は人と関わった記憶の殆どを消した。
世界を上から、俯瞰して、達観して見れるように。
̷こ̷ん̷な̷思̷い̷を̷す̷る̷な̷ら̷、̷感̷情̷な̷ん̷て̷物̷を̷入̷れ̷な̷い̷で̷欲̷し̷か̷っ̷た̷。̷
結果、私は神になった。そんな物なんかじゃ無いのに。
誰かを守れず死なせた事を覚えている、誰かの思いを託された事を覚えている。誰かの気持ちを受け止めた事を覚えている。誰かと手を取り合った事を覚えている。
自身の不足を嘆いて、狂い咲いてしまった人達を覚えている。
̷̷そ̷れ̷は̷私̷の̷不̷足̷な̷の̷に̷
もう嫌だ。何もかも嫌だ。
幾ら私の不足を嘆いても、私が狂い咲く事は無かった。
私が人じゃないからなのかもしれない。
それとも、私の極点が今だからなのかもしれない。
つまり、私は法則に敵わない、という事なのかもしれない。
――――
渚の体がひび割れ、崩壊を始める。
――――
̷や̷っ̷と̷終̷わ̷り̷が̷来̷た̷
……ああ、手放しちゃいけないなんて、分かってるさ。
ここで折れて後悔するのは私だから。
ここで諦めて後悔するのは私だから。
ここで死んで後悔するのは私だから。
̷本̷当̷に̷¿̷
……例え前を向いたとしても、やっぱり後悔はするんだろう。
ここで折れたい。
ここで死にたい。
ここを終わりにしたい。
̷本̷当̷に̷¿̷
……ああ、禅問答には飽きた。私はここが終わりだ。
――――
渚の髪が白く染まり、頭上に三重の環が展開される。
――――
◇◆
「わっ」
――――
法則を光が襲う。
――――
……不滅か?
――――
法則の背後には、完全に髪が白く変化した「不滅」が浮いている。
――――
「イメチェンした?」
――――
返答は無く、無数の光が法則を襲う。
――――
……光速での攻撃、「法則」じゃ対応が追い付かない!
だけど僕には――
――――
光が微かに暗く変化し、それを食らった法則の体は崩壊する。
――――
法則無視…
――――
「不滅」の背後には、黒い刀が浮いている。
――――
……あれを媒体にしてるのかな。
――――
再び暗い光が法則を襲う。
――――
「【因果逆行】」
――――
光が解れ、単なる魔力に戻る。
――――
「Burst」「【双転ヰ相】」
――――
「不滅」が解れた魔力を起爆するのと同時に、法則が互いの位置を入れ替える。
――――
「【星式・空間調律】」
――――
が、魔力が完全に爆ぜる前に、全てが止まった。
――――
…神権反転・無法
――――
法則は「不滅」の時間操作を無効化し、向かってきた「不滅」を迎え撃つ。
――――
「シャーデn「【4:33】」」
――――
世界から音が消える。
――――
音が消えた…だけじゃない、詠唱の強制終了!しまった――
――――
「不滅」が法則に手をかざす。
――――
「【Schadenfreude】」
――――
バギン、という音と共に、法則の体が一瞬固まる。
――――
…なるほど痛い!直接のダメージは無いけどっ…シンプルに思考が切れる!
――――
法則が「不滅」の手を掴み引き寄せる。
――――
口頭での詠唱じゃないなら行けるかな?!
【法則干渉:精神】!
――――
バギン、という音がした。
――――
◆◇
……煩い。
――――
「不滅」の顔に、新たに二つの目が文字通り浮かぶ。
――――
◇◆
目が増え――
――――
浮かんでいる目から、光線が放たれる。
――――
あぶなっ!
――――
それは法則の不意を付いたが、法則は間一髪でそれを回避する。
――――
これ以上【法則干渉:精神】を使うのは危ないかな?…便利だと思ったんだけどなあ。
――――
空だった空間が、再び摩天楼に変化していく。
――――
幾らか遮蔽があれば、ある程度は回避出来るかな?
――――
二人の間を摩天楼が突いた事で、互いに距離が離れる。
――――
来る、
――――
無数の光がビルを貫き、法則へと向かう。
――――
…【破棄】!
――――
法則付近の空間が消え、そこと重なった光も同じく消える。
が、消えた空間を光が埋める事で、少しずつ光が削れた空間を突破し始める。
――――
うーん尋常じゃない。弾き切れないな。
「【赤放返威】」
お、解除されてる。
――――
光と赤い帯が互いに相殺し合う。
――――
うーん…あんま深く練れないけど、やってみる価値はあるかな?
「…『遠距離攻撃は発動できない』」
――――
新たに法則が追加された事で、「不滅」は光を放つ事が出来なくなった。
それに気づいた「不滅」は即座に、幾何学的な形をした六枚の翼を展開し、法則へと向かう。
――――
「【白月】!」
――――
それを見越して法則はカウンターを仕掛けた。
法則の掌に生成されたホワイトホールから様々な物体が放出され、「不滅」はそれに押し流された。
――――
…やっぱり、無敵ではあるけどスーパーアーマーは無いみたいだね。
――――
法則が指を構える。
――――
うーん……せっかくだし利用しようか。
「「装填」」
――――
ホワイトホールから吐き出された物体が、法則の指先一点に集約される。
――――
「神権反転・「発射」!」
――――
集約された物体が「不滅」へと、土砂崩れの様に発射される。
――――
「「星灯」、神権反転・「消滅」」
――――
それに「不滅」が触れ、連鎖的に消滅させる。
――――
今生命線を切るのか!?
「「引力」」
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法則が「不滅」を引き寄せる。
――――
……装束…
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引き寄せられた「不滅」は、白い装束を纏っている。
――――
「【光式・天流星】」
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無数の剣が法則を取り囲む。
――――
前のと同じ……と見せかけて、どれもこれも法則無視が混ざってるね。一個辺りの濃度薄いから見ただけじゃ分かりづらいけど。
――――
赤い帯が剣を弾く。
――――
…だけど、不滅が切れてるのにどうやって……あー、装束で魔力切れを踏み倒してるのか。
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法則がそれに気づいた頃には、「不滅」の神権は戻っていた。
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白は当分使えないし、赤は迎撃で手一杯……まー、決めれるとするなら黒か蒼のどっちかかな。
「【自己加速】」
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法則の思考速度が上がる。
――――
僕に追随出来てる理由は多分、というか十中八九、無限の魔力のせいかな。
不滅の血自体が魔力で、それを「不滅」の力で消えないようにしてる……流石、全能お手製なだけある。
確かに、リソースが無限にあれば、僕の技も真似出来るっちゃ出来るだろうけど……
どれだけ制御に精神削ってるんだろう。でも直接攻撃しても効果無かったし……あ、そうか。捨てちゃったのか。
…ま、手は抜かないけど。
電灯で発電は出来るだろうか
稲妻で風を起こせるだろうか
水で点火する事は可能だろうか
理論上は可能だろう。膨大なリソースと、それら全てを完璧に完結させる事が出来れば。
そんな芸当が出来る奴は人じゃないが。




