崩落
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逃げるエドガーに対して、渚は環を展開し張り付く。
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……最大出力と言う言い方、連続的な地震…恐らく、そう長くは戦いたく無いのでしょう。
ならば全力で時間を稼いでみましょう。……醜くそして浅ましい、我が兄弟姉妹の様に。
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私の世界は暗かった。常に霧がかかっていた上、人々は皆暗い顔をしていた。
私は恵まれていた。上流階級に生まれ、ある程度は自由に過ごせた。…だが、夢を見る事は出来なかった。
眠る時に見る夢も、将来を志すという意味の夢も、どちらも見る事は叶わなかった。
我が親愛なる父上もそうだったらしい。それが、家を継ぐ条件だった。
私は我が兄弟姉妹にそれを譲った。
そうして皆死んだ。もしかすると、我が親愛なる父上も、そうして家を継いだのかもしれない。
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「がっ……ンんッ!」
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エドガーの左腕が飛ぶ。
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……後どの位だ、後どれだけその状態で居られる?
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……別に仲は悪くなかった。寧ろ…あんな世界にしては、結構仲が良かったほうだと思う。
だからこそ、だからこそ夢を見て死んでいった兄弟姉妹を理解できなかった。
達観している、と人は言った。だが私はそうは思わなかった。
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…腕がどうした、私なら戻せる。
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斬られた左腕が元の位置に戻る。
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「だが痛覚はあるだろ?」
「――!!!!!」
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左腕が先端から輪切りにされ、エドガーは声にならない声を上げる。
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私が神権を持ったのはとんだ偶然で、とても下らない事だった。
家主になって数十年した頃、私の家にある商人がやって来た。
彼が言うには、「自分は外からやって来た、貴方が欲しい物を売ろう。」という事だった。
値段はとても安かった。私なら十分もあれば稼げる程の値段だった。
……その時、もしかすると私は、夢を見ていたのかもしれない。
彼は私に一粒の錠剤を瓶ごと渡した。私は少し躊躇ったが、それを飲んだ。
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「があ゛ッ…ンウ……」
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エドガーは既に動けなくなっている。
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……ギリギリ間に合ったか。
「……あの時、私は夢を見れたんです。良い夢だった……窓から飛び立ち、雲の島で跳ね周り、我が兄弟姉妹達と共に海賊と戦う……そんな夢を見たんですよ。」
……?
「気づきませんでしたか?外の様子に。」
何……
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渚が周囲を見渡すと、世界が崩落を始めていた。
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…時間切れ、
「渚様!急ぎ神権を神域へ!」
神権付与・「不滅」、
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渚の装束が消えると同時に、崩落が止まる。
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よし…
「……神権反転・現身」
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崩落が再び開始する。
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「なっ……!」
「…夢を託す人も居れば、投げ捨てる人も居る……ああ、我が兄弟姉妹達よ。どうやら、私も同じだった様です――」
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エドガーは崩落に巻き込まれ、奈落へと落ちていった。
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「葉月!状況は!?」
「…一時的にですが、「不滅」による崩落の無効化が無効化されました。」
くそ、
「予備の結界柱投下しろ!」
「承知しました。」
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空中から巨大な柱が数本落下してくると同時に、渚が格納庫から取り出したFUに乗り込み、崩落しつつある地面に柱を突き立てる。
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「回路接続、起動行けるか!?」
「……起動完了。」
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崩落した箇所を囲むように設置された柱が、薄い結界を展開する。
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止まっ……てはないが、多少遅くはなったか。
「…崩落の進行度、70%減少。恐らく数十分は持つかと。」
…今の内に後始末を済ませようか。
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塔の中へ転移した渚は、無抵抗のレウコスを捕縛した。
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「言い残す事はあるか?」
「……いい夢を見れた、満足だ。」
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煤がレウコスの首を断ち切る。
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次、
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エドガーが死んだ事で機能を停止した魔神を次々に処理していく。
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塔は砕いた、炎は消した、神域は一応押し戻した…
「渚様、崩落が再び始まります。」
……くそ、時間切れか。
「葉月、後は任せる。」
「…承知しました。……どうか、お気を付けて。」
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渚は格納庫から再びFUを取り出すと同時に乗り込んだ。
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回路接続。
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FUが多数の環を展開し、浮かび上がる。
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世界間移動用機構展開、
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FUの背後に、多数の環が翼の様な様相で展開される。
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……起動!
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FUは急激に加速し、空間を破り、世界の壁を越えていった。
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「やあ不滅。」
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FUを越さずに、法則の声が渚に届く。
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「……虹の空間を通ると聞いていたが?」
「今回の要件は僕でしょ?急いでたみたいだし、ちょっとぐらいは手助けしてあげるよ。」
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草原にFUを降ろし、格納庫に仕舞う。
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「……君がやろうとしてる事を果たすなら、僕を打ち負かす事が条件になるけど?」
「そのつもりで来た。……その代わり、世界の時間を止めてくれないか?」
「いいよ。せっかくやる気になってくれたのに、萎えられちゃ困るし。」
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世界の時間が止まる。
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「一応、君の思う万全の状態にしといたよ。何か文句があるならどうぞ。」
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二人が準備運動を始める。
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「……じゃ、私がお前を一撃で殺せる様にしてくれ。」
「それは駄目だよ。僕が求めてるのはそういうんじゃないし。」
流石に駄目か。
「星灯」
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黒い装束を纏う。
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戻ってる……
「ちなみになんだけど、僕に勝つ算段はあるのかな?」
「…あっても無くても、やらなきゃ終わるんでね。」
「……ま、会いに来たって事は勝ちに来たって事と受け取ろうか。」
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装束が更に強く燃え盛る。
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時間は止まってる、神権を私に戻しても…多分大丈夫だろう。流石に法則も、その辺は工面してくれてるだろうし。
「それじゃ、始めようか。」




